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恋慕 #3 side A (Akimoto-san)

海野さんと共に現れた人は、何とも形容し難い人だった。海野さんと一緒で、世の女性達が放っておかないのは確か。でも海野さんのそれとはまた違う。考え込む私にある記憶が甦る。あれは...打ち上げの席だったっけ... 『海野さんの幼なじみさんって、どんな方なんですか?』 『どんなって?』 『例えば...どんなお仕事をされてるとか、下世話ですけれど、芸能人の誰と感じが似ているとか...』 『う~ん......そうだな...例えるなら…超絶美人画家。』 『画家は未だしも美人って...男性に使う言葉ではないですよね?』 『それしか例えようがないんだよ。でもさ、それ言うとスゲー怒るの。秋元さんも、冬真を一目見たら納得してくれると思うんだけどなぁ...』 海野さんはちょっと唇を尖らせた。普段見せない幼い仕草が新鮮で、更に彼が眩しく見えた。 本当...本当ですね、海野さん。 冬真さんを一言で表すなら...やっぱり『美人』ですね。 二人に飲み物を差し出すと、海野さんは支社長に呼ばれ、何やら二人で話を始めた。真顔の二人の中に入っていくことも出来ず、冬真さんと二人になった。沈黙に耐えきれず、思いきって声を掛けた。 「あの......」 「はい...」 「お弁当...」 「えっ?」 「お弁当、いつも美味しそうだなぁって思って見ていました。」 冬真さんはしばらく考えてから言う。 「ああ、ようすけの...」 「はい。」 「ありがと...う...ございます...あなたは...あきもとさん...ですか?」 「ええ。」 何で私のこと知っているのだろう? そう思った。それが表情に出たのか、冬真さんは小さく笑ってから言った。 「ごめんなさい...じこしょうかい...まだ...なのに...」 「冬真さん...ですよね?」 「はい...はじめまして...いわさき...とうまです...」 今度は冬真さんが不思議そうな顔をした。 「秋元友香です。はじめまして。海野さんからお噂は伺っておりましたので、さっき入口にいらっしゃる姿を見て、一目で冬真さんだって分かりました。でも、どうして私のことを?」 「ぼくも...うわさ...かねがね...あきもとさん...とてもゆうしゅう...おかげ...しごとはかどる...って。」 「本当ですか?残念。それだったらケーキでもご馳走になるんだった!」 冬真さんはまた小さく笑った。儚いけれど、品があって、透明度が高くって、美しくて...この人らしい笑みだった。 「こんど...おみせ...きてください...ケーキはつくれないけど...ぼく...ときどき...パンやきます...」 「本当ですか?」 「はい。すこしでも...おんがえし...したいから。ぼく...ようすけのじんせい...くるわせた...」 冬真さんがぼつりと言った。少し寂しそうな横顔は、さっきよりも更に儚く、更に透明に見えた。

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