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Assortment #6〜Twitter詰め合わせ〜
「きょうは、おひなさまみたいなおねえさんがたくさんいるね。しんちゃん。」
書店巡りのために来たショッピングモール。今日は冬葉を同伴。
「おひな様?ああ、着物のこと?今日は成人の日だからね。」
「せいじんのひ?」
「うん。今日から大人の仲間ですよっていう日のことだよ。」
「しんちゃんもおとなのなかま?」
「ううん。僕は来年。」
「じゃあ、こどものなかま?」
「そうだなぁ…厳密に言えば、子供の仲間かな。」
「じゃあ、ふゆくんのなかまだね。うふふふ…」
両手で口元を押さえて笑う冬葉。何か嫌な予感…
「あっ、でも、冬葉と違って、僕に地球は守れないからね。」
「ぶう〜」
2018.1.8
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「きょうはね、おひなさまみたいなおねえさんがたくさんいたよ。」
「おひな…さま?」
「しんちゃんがね、あのおねえさんたちは、きょうからおとなのなかまになるんだよって、おしえてくれたよ。」
「ああ…成人の日…」
「とうまパパは、おとなのなかまのおまつりした?」
「成人式の…ことかな?お外には行けなかったから…でも、お祝いはおうちで、おじいさんにしてもらったよ。」
「おしゃしん…ないの?」
「あるけど…」
「えーっ!みたーい!」
「えっ…でも…はずかしいよ…」
「おねがい!パパ〜おねがーい!」
「う〜ん…じゃあ…特別ね。アルバム持ってくるから…ちょっと…待ってて…」
冬葉の可愛いおねだりに負け、冬真パパはリビングから出て行った。
『冬葉!グッジョブ!』
俺だけじゃなく、その場にいた真も葉祐さんも絶対思ったはず。冬真パパを待ってる間、冬葉は頬杖をついて、笑顔で呟いた。
「とうまパパのおしゃしん、おひなさまかな?おひめさまかな?うふふふふ…」
おいおい!お内裏様や王子っていう発想はねぇのかよ。相変わらず遥か斜め上の思考だな。
2018.1.8
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帰宅すると、冬葉はソファーに座る冬真の膝にまたがるように座わり、自身の顔を冬真の胸に押し付けていた。
「おかえり…真くん。」
「どうしたの?寝てるの?」
「うん…さっきまで…おさむくんといっしょだったから…」
「なるほど。甘えん坊モードだね。重くない?」
「愛おしい重みだよ…」
理くんは冬葉の同級生。両親の離婚で寂しさのあまり、冬葉を遊具から突き落とした理くんを冬真は心配し、ひと月かふた月に一度、幼稚園へ行っては、彼の話を聞いていた。その際、冬葉は二人の邪魔をしないような遊びをしていた。絵を描いたり、絵本を読んだり。誰が何を言ったワケでもないのに。そういう日の帰り、冬葉は決まって冬真のそばを離れなかった。まるで独占するみたいに。
「本当はお父さん、独占したいんだね。」
「そうだね…だって…冬葉は葉祐の子だもの…」
そう言って冬葉の髪を梳いた冬真の微笑みは本当に美しかった。
『冬葉は葉祐の子』
そう言う冬真を見ると、僕はいつも思うんだ。血なんて関係ないんだなぁって。
2018.1.9
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「はぁ…」
テーブルに置かれたそれに、冬葉はずっと釘付け。
「ほらっ、早くやってみな。こうやって、この長いフォークみたいなのに好きなの刺して、中に入れてつけて食べるんだよ。」
直くんは冬葉の手を取り、フォンデュフォークにマシュマロを刺すと、目の前で溢れ出るチョコレートの泉の中へそれを入れた。
「う〜ん!おいしーっ!」
「美味いか?」
「うん!ふゆくん、こんなチョコレートはじめて!なおくん、ありがとう!」
「ほらほら、良いから、たくさん食え。」
「うん♪」
テーブルの上には、家庭用のチョコレートファウンテン。直くんが冬葉に買ったバースデープレゼント。今日は冬葉の誕生日。
我が家の可愛い天然天使くん。どうか…いつまでもそのままで…
2018.1.10
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「まさに塩の日でしたね♪」
「いやいや、塩の日どころじゃないよ!塩祭りって感じ。とにかく眼福♪眼福♪」
園児達が帰った後の職員室。先輩と後輩がカレンダーの前で何やら話している。
「どうしたの?」
「見てくださいよ!今日のところ♪」
後輩が指差した今日の日付には『塩の日』と書かれていた。
「塩の日?今日って塩の日なんだ。」
「そうなんですよ♪先生のクラスの里中冬葉君の今日のお迎え、美人パパと笑顔が可愛い居候くん、塩顔の二人だったじゃないですか!まさに塩の日、いや塩祭りだなぁって話していたんです♪」
「はいはい。二人とも仕事!仕事!」
2018.1.11
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チョコレートが絶え間なく溢れ出る、その人工的な泉を、冬真パパはじっと見つめていた。
「どうしたの?冬真パパ。」
「あっ…うん……」
「やってみたいの?」
俺の言葉に冬真パパはみるみるうちに頬を赤くし、そして、小さく頷いた。
ホント、かわいい人だぜ!
冬真パパの手を取り、フォンデュフォークにバナナを刺すと、チョコレートの泉へ浸した。パパはそれを食すと、小さく微笑んだ。
「美味しい?」
「うん…とても。」
「冬真パパは初めて?チョコレートファウンテン。」
「ううん…おじいさまの誕生パーティーで…」
「お…じい…さま?」
「うん…ゲストのお子さん達が周りを取り囲んでいて…とても楽しそうだった…」
「パパもみんなとやったんだ?」
「ううん…」
「どうして?」
「ぼくがそこへ行くとね…みんながシーンってなって…さーってそこから引いちゃうんだ。モーセが海を割ったみたいに。仕方がないんだ…ぼくは…おじいさまの孫だから。だから…一度だけやって…後は近づかないようにしたの。でも…こんなに美味しくて…楽しかったんだね…ありがとう…直くん。」
冬真パパは自分のことはほとんど話さない。たけど、普段の言葉の端々から、良家のボンボンだったことは何となく分かる。なのに、子供の頃はあまり幸せじゃなさそうで…そのことがいつでも心に引っ掛かった。
「今日はおじいさまもゲストも関係ないよ。冬葉とパパとこの家のみんなが楽しければ良いんだからさ!さっ、今度は何食べたい?今度は一人でやってみる?ちゃんとそばにいてあげる。大丈夫だよ!」
冬真パパは安心したように微笑んだ。その笑顔を見て、何だかとても切ない気持ちになった。だけど、今日は冬葉の誕生日。そんな気持ちは…チョコレートファウンテンみたいに流してしまわないと…
書き下ろし
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