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segreto #1 side S

ここ数日の冬真は珍しくソワソワ。その姿はまるで、楽しみを指折り数える子供のようで、とても愛らしかった。 「ねぇ…真くん…スーパー…何時に開く?」 「10時からだから、まだ早いね。」 壁掛け時計を見上げる冬真。時計はまだ8時を指していた。 「う〜ん……あっ…そうだ…」 今度は自分のショルダーバッグのファスナーを開け、鞄の中身をチェックする。彼はすでに、この作業を恐らく三回は繰り返していて、このやり取りをする度に僕は笑いを隠せない。 「あんまり張り切ると、後で疲れて眠たくなっちゃうよ?本番はスーパーから帰って来てからなんだからね。」 「う〜ん…」 いたずらが見つかった仔犬のようにしょげた姿も愛らしく、こんな姿を葉祐が見たら、きっと、鼻の下が伸びっぱなしになるだろうと安易に想像がついた。生憎、僕と冬真以外は、仕事や大学、幼稚園へ行っていて、葉祐は醜態を晒さずに済んでいる。 「ちょっと早いけど出掛ける?天気も良いし、スーパーが開くまで、近くの公園、散歩でもしようか。」 今度はとても嬉しそうに笑う。その笑顔も我が親ながらやっぱり愛らしくて、どちらにしても、葉祐が見たら、鼻の下が伸びっぱなしになるに違いない。 今日はバレンタインデー。冬真は今晩、葉祐のたっての希望で彼の大好物、鶏のから揚げを作る予定だ。バレンタインデーの晩に、鶏のから揚げが食卓に上るのは我が家の定番で、葉祐は冬真からプレゼントのリクエストを聞かれると、物ではなく、必ず、冬真が作る鶏のから揚げをリクエストした。逆に冬真は葉祐の手作りカレーをリクエストし、これらは、二人の思い出に大きく関与しているらしい。物欲のない、思い出を大切にする二人らしい、その微笑ましいエピソードをいつか聞きたいと思っている。 「じゃあ、出掛けようか!」 冬真にコートを着せ、マフラーと手袋を着けさせると、僕はゆっくりと彼の手を引いて歩き出す。いつもは足を引き摺るように歩く冬真だけど、今日は心なしか、普段より足取りが軽そうに見えた。

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