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第5話
スタジオ内には、黙々とピアノを奏でる要と、それを横目で見ながら、なんとなく楽譜を整理している大成のふたりきりだ。
趣味の範囲でも、大成も音楽をやってる人間だ。心に響く演奏は分かる。「真の傍に居ただけ」なんて謙遜してたけど、やっぱり要も上手いよな。
「大成さん、よく分かりましたね」
ひとつの楽曲の演奏が終わり、ふと要が呟いた。
「なにが分かったって?」
質問で応えた大成に、要はひょいと顔を向ける。
「ぱっと見ただけで、俺と真の区別がついたから。ちょっとびっくりして。大成さん、俺たちと会ったばっかりなのに」
しっかりと大成の目を見つめながら要は答える。なんだ、そんな事か、と大成は思ったが。要は本気で驚いたのかな。
「見た目はすげー似ててもさ、要と真くんって、それぞれ違う雰囲気があるじゃん。俺も最初会ったときは、クローン人間か? とか驚いたけどさ。そのとき、ふたりをじっくり見比べたからかな、現在 はよく見りゃ分かるよ」
ピアノの傍によって真面目な口調で応える、そんな大成の顔を、要はしげしげと見つめる。しかし、そんなにびっくりする事かな。
「なんだよ、そんなに珍しいのか? 俺は鑑定士じゃないぞ」
からかうように笑うと、
「だって、親からも間違われるんですよ」
苦笑しながら応える。
幼い頃から見ている親でも間違うのか。ふたりが揃ってうろちょろしてたら、余計にややこしいのかな。しかし、別々に暮らしてる、とか言ってたっけ。ややこしいから別居してるのか?
だが、なんとなく親子関係についての疑問は口に出せなかった。
「要はさ、どうして俺がふたりの見分け付くって分かったんだ?」
大成は折り畳み椅子を広げると、ピアノ椅子の隣に置いて腰掛けた。鍵盤の上に乗った指が止まり、
「今日会ったとき、いきなり名前で呼ばれたから」
要は呟いた。なんだ、勘が当たったときか。大成も完璧に見分けがついてた訳ではないのだが。
「双子でもさ、全部が全部一緒じゃないだろ。他にも居ないの? ふたりの見分け付くひと」
「俺と真には『マコちゃんはマコちゃん! カナちゃんはカナちゃん!』ってツッコミ入れてくれて、新体操やってるような、可愛い幼馴染みは居ないんです」
「そんなのマンガの中にしか居ないだろ」
真剣な口調でふざけた答えを言う要の背中を、大成が笑いながら叩くと、要の表情も笑顔に変わった。
「ふたりの見分け付く珍しい人間が、俺ひとりならさ。要がピアノ弾きたくなったときは、スタジオでもライブハウスでも、俺と一緒に行こうよ」
その笑顔から、大成の口からは自然と誘いの言葉が出てきた。
「それは嬉しい。ありがとうございます」
要は笑いながら素直に礼を言うと、姿勢を正して楽譜をめくり、鍵盤上の指を動かし始めた。
流れる音色を心に聴きながら、大成は何をする事もなく、ぼんやりと隣に座る。
(やっぱり、この演奏、聞いた覚えがあるよな)
だんだんと分かってきた。
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