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第7話

「大成さーん」  ライブハウスのあるビルの前で、大成と邦彦がふたりで待っていると。手を振りながら小走りで要がやって来た。    今夜は、要が(くだん)のライブハウスで演奏する。    要から預かったデモテープをライブハウスのオーナーに渡すと、ステージでの演奏はすんなりと決まった。 「やっぱり要もピアノ上手いんじゃん」 「大成さんのおかげですよ」 「ライブハウスで演奏するって、母親にばれても平気なのか?」 「俺に対しては放任主義なんで」 「じゃあ真くんは来ないの?」 「もちろん。でも、大成さんが来てくれるなら安心するんで」    大成と要は、LINEでこんな会話を交わした。 ライブの際には大成もファッション誌なんかを見て、少しは髪形や服装に気を使ったものだが。要は普段と全く変わらない服装だった。やはりいつもの腕時計を付けている。 「大丈夫ですよ、真は来てないですから」  そわそわしている高峯に、要は笑いかける。そして、三人でライブハウスに入った。  大成と高峯は軽いカクテルを頼み、要はジンジャーエールを頼んだ。高峯が見張っているからかな? いや、要も基本は真面目な高校生だ。  「やっぱり緊張しますね。あっ、間違えるから演奏中は話しかけないで下さいね」  緊張の表情は見せず、にこにこと笑う要に、 「そんなことしたら、スタッフにも怒られるよ」  大成も笑いながら応える。 「もうすぐ順番なんで、トイレ行ってきます」  早足で手洗いに向かった要は、しばらく戻ってこなかった。本当は腹をこわすほど緊張していたのか? 時間が迫って大成はハラハラしたが。要は無事戻ってきて、大成に声も掛けずにすぐにステージに上がった。  カクテルをちびちび呑みながら見上げるステージ上で、楽しそうに、生き生きとピアノを弾いている。  あぁ、やっぱりそうだ。いま大成の記憶内の音色から、全ての疑問が繋がった。  でも、なんでそんな事するんだろう? それが謎だな。  さりげなく振ってみるか? しかし、今夜は皆を楽しませたいから。また違う機会にでも。  そして後日、大成はいつものスタジオで要と待ち合わせた。そこでは、しばらく要の奏でるピアノの音色に耳を傾けていたが。 「そういう練習も良いけどさ。俺が要とちゃんと会う前に、ここで弾いてたピアノの演奏、また聴かせてよ」  なるべく自然に言葉を投げると、ピアノの音が止まり、要は楽譜から大成の顔に視線を向けた。 「……なんの事ですか?」  しばらくの沈黙が過ぎ、やっと口を開いた要に、 「最近まで俺、あの演奏者は真くんだと思ってたけどさ。真くんじゃなくて、要だろ? それでさ、この前の夜のライブハウスの演奏者が、要じゃなくて、真くんだろ?」 大成はなるべく明るく、子供がなぞなぞを答えるように問いかけた。 「違いますよ、なんでそんなこと言うんですか」  棒読み口調で要は答えたが。黙って大成と見つめ合うと。 「……って言っても、もう誤魔化(ごまか)せないか」  どこか切なそうに笑うと、要は言葉を続ける。 「すいませんでした。ライブの直前に、俺がいきなり具合悪くなって。それで慌てて、上手く俺の下手な演奏の真似をしてくれ、って真に頼んだら、了解してくれたから」  あっ、要のやつ、また嘘ついてるな。 「要が真くんに頼んだんじゃなくて、真くんに要が譲ったんだろ?」  大成はまた笑うが、要の表情からは微笑みが消えた。やはり図星だったのか。 「ごめんな、勝手に推理して。でもさ、なんでそんな事するんだ? この前は成功してもさ、いつかバレるぞ」 「……真は、趣味の音楽もやりたいんですよ。大成さんみたいに」 「だったら、音楽友達と組めばいいんじゃね?」 「真には居ません、そういうの。真面目にやってる連中ばっかだし、そいつらみんなライバルだ、とか変な意地張ってるから」 「でもさ、邦彦が居るじゃん」 「うーん……あのひとは、真にとってライバルではないけど、友達でもないから……」  そう言った要は、ぐっと言葉を飲み込んだ。  あぁ、またひとつ疑問が解けた、かもな。

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