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第8話

「俺の友達に、同性愛者の男がいるんだよ」  唐突に話題を転換した大成だが、要は特に驚かない。それとも感情を表面に出していないだけか? 「それって、真の事ですか?」 なるほど、要はそう受け取ったのか。苦笑しながら、大成は首を横に振る。 「違う、違う。まず、真くんは俺を友達と認めてない感じだし」 そんな笑い混じりの愚痴文句に、要も笑いながら「すいません」なんて大成に向かって頭を下げる。 「高校の時に、カミングアウトされたんだよ。あっ、それは愛の告白じゃないよ。邦彦と俺は、あくまで音楽仲間。でも俺が真くんに嫌われてるのは、そのせいかな? 邦彦と仲良しな俺に、真くんは嫉妬してんのかな?」    わざと大成が適当な口調でべらべら語ると、要との間にしばらく無言が訪れた。 「……大成さん、なんでも知ってるんですね」  諦めた様に呟く。もう嘘は吐かないんだな。 「でも、ゲイなのは俺って事にしてあるんです」 要は淡々と言うが、大成は驚いた。 「恋愛面まで真と入れ替わってるのか? なんでそこまでするんだよ?」 真面目な口調で問い掛けると、 「真が親にカミングアウトしたから」 要はあっさりと答える。以外な理由だった。てっきり「真に頼まれた」とか言うと思っていたのに。 「そしたら、やっぱ母さんがパニックになって。それで俺から、男が恋愛対象なのは俺で、真は俺を庇った、って言ったんです」  要は他人事のように続きを語る。 「母さんは俺を叱ったけど、真との喧嘩は終わってほっとしてた。そうして、真の悪影響になる、ってマンションの部屋を俺に与えた」  家族間が険悪になるのを避けて、兄貴の身代わりとなったのか? そのうえ同性愛差別から母親に遠ざけられたのか?  いつも見えない場所にひとりで居れば、もうひとりの代わりになるのは簡単かもしれないが。 ただ逃げてるだけだろう。要も、真も、母親も。 「いまは大丈夫でも、いつかはバレるだろ。そしたらどうするんだよ」 「うーん……でも今は母さんも安心してるし。真が音大に入るまでは、ごたごたさせたくなかったんだよな」  もしかして、こいつも音楽を真剣に学びたかったのか? しかしそれまで質すのは、なんだか酷な気がして。 「要は好きなひと居ないのかよ」  大成は話題を少しずらした。 「自分自身、女の子が好きか、ゲイか、バイセクシャルか、なんか分からないんだよなー。真のふりしてるうちに、自分の性癖が訳分かんなくなったのかも」  首を傾げて要は応える。本当かどうかは曖昧だが、自分自身の性癖が掴めない、という悩みがあるのは聞いたことがある。 「でも、お前は真とは違う人間だろうが」  大成は要を叱ったが。要の逃げている部分にも甘えることにした。 「俺も……性別とか気にせず、好きな奴は好きだし」 ピアノの鍵盤上(けんばんじょう)に置かれた要の手を、大成はぎゅっと握って。 そして前触れも無く、大成は要に口付けた。だが、要は驚かないし、抵抗もしない。 唇から唇を離して、そっと瞳を開けると、ぼんやりとした表情で、要は呟いた。 「大成さんって……真の事、好きだったんですか?」 しげしげと大成の顔を見つめる要の頬を、笑いながら小突く。  「代わりに選ばれた、とか思ってんのか? 俺ははっきり要と真の見分けつくだろ。それに、兄に振られて弟を選ぶとか、そんなの面白くねーよ」  また首を傾げた要に軽くキスをすると、  「俺が好きなのは、要ひとりだけ、ってこと」  きっぱりと告げるが、要はまだ珍しそうに大成の顔を見つめていた。

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