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第93話 これは一種の……創作武器? -1-
現れた一番体格の良いリーダー格のゴブリンは、他の者達と比べても上背もあるのかそれなりな身長をしていた。
得物は片手斧でなかなか使い込まれていそうだ。
俺はそんな事を考えながら、先程までゴブリン達に使用していた剣を収め、代わりに残していた方を引き抜き構えている。……こういう形で使うつもりは無かったのだが、この際しょうがない。こちらの方が、切れ味が段違いな筈だ。剣を手首で緩く左右に振り軽く調子をみる。軽いとも重いとも感じない剣重に、不思議に僅かに心地良さを感じた。
俺は眼前の新たな敵の一群に「んー……」と間延びした声が思わず出た。
「こう来るとは……」
「……周りの取り巻きは俺とポンコ達でなんとかするから、アサヒはメインに集中してくれ」
シュトールの素早い判断に、俺は「おう」とだけ答えて前を見据えた。とにかく、"素早く突破"する事が大事だ。
ここまで来るのに超即席のチームだが何とか進めてきた。ま、勇者の登場とかもあったけど、ここまでは案外順調の様な気がする。このままこの流れで終わらせたいところだ。
……グリンフィートのあの剣って、魔法剣なのかなぁ?ま、普通の剣じゃないよなぁ、多分。
「……よし、即席魔法剣でブッタ斬ってやる!」
「アサヒ!?」
俺はふと思いついた事を試したくなったんだ。
つまりさ、魔法を纏わせてみたんだ。そこまでこの剣の耐久が持つか分からないけどさ?
俺の突然の行動にシュトールが袖を掴み、引き止める様に俺に話し掛けてきた。
「だ、大丈夫なのか? 魔法剣だなんて……」
「……知らん……。俺も初めての流れだ」
「え? じゃぁ、その剣は……?」
「普通の剣に魔法を纏わせてみた! 行くぜ!」
「乱暴な……! それじゃ……数撃も……」
ありのままの事を簡素に説明して、俺はシュトールからゴブリンへと視線を移動させた。
見れば、すでにポンコ達が交戦中ではないか! その姿をシュトールも見たのか、幾つかの魔方陣を既に空中に展開させている。同時に魔方陣を展開させるシュトールの方が、戦力的にどうかしている気がするけどな? あれでリアルタイムで合成魔法を魔方陣を重ねることで作っている様だしな。俺と同じで今のところ魔法詠唱もしていないし、シュトールなりのショートカットでもあるのかな?
そしてポンコ達の動きもまだ悪くない。十分に引き付けている様に感じる。よし、これは良い流れで素早く突破出来そうか!
俺はと言うと、自分の剣に水を纏わせてみた。確か以前、かーちゃんから水魔法は相性が良いと言われた筈だと思い出したからだ。
剣の表面に漣が起こっている。そう、刀身の表層の金属部に無理矢理魔法をねじ込んでみた。組成の組み換えで形がこう留まったのか、見た目の変化は得られた。これが正しく"魔法剣"かは分からないが、とりあえずな分類として魔法剣としておこうと思う。
良いね! 良いね! 妙なテンションが上がってきたかもな!
―……ヒュッ!
軽く振ると僅かに飛沫が起こる即席の水の魔法剣に、俺は大満足だ。自分が望んだ新しい物を扱う楽しさってあるじゃん? それ、まさにそれ状態。不謹慎かもしれないけど、何だかワクワクしちまう感じ。もしかして、グリンフィートの新技開発の癖はこの感覚を求めているからかもしれないなぁ? なんてな。
それじゃぁ、この剣がいつまでもつか分からないけど、"もっている"間にケリをつけたいな……!
剣先を下に向けるとポタポタと数滴、地面に小さな染みがが出来た。
「……うっし!」
短く小声で気合の言葉を発し、剣先を下に俺は地を蹴った。
俺がゴブリンとの距離を縮めに掛かっても、相手はそこから動かずに俺を迎撃する格好を取っている。
初撃は俺かよ?ま、先手必勝……って意味違うかな?
横目でシュトールとポンコ達を短く確認すれば、どうやら前衛はポンコで後衛にシュトールというスタイルの様だ。実にバランス型だ。それで良いと思う。
さて、俺もそろそろ相手のゴブリンに到着する。では、上段から……
―……ギィン! ガィン……! ギギギ……!
刃と刃の合わさる感覚って、どうも不安になるな……。こいつ、俺の剣の刃を自前の武器の刃で受けやがった。しかも、下から上に力を使って俺を押し上げようとしているのか。少しジリジリとした睨み合いが俺たちの間に生まれている。
まぁ、これは大体、予想通りだ。
だから、俺は一瞬力を抜いて後方に身を倒し軽く引く体勢をし、奴が突然の力の緩みに上に行く力で身体を伸ばした時に、その腹に後方に無理矢理下げるような蹴りを入れた。
「ぐぼッ!?」
奴はおかしな声と同時に身体で"く"の字を作った。そして確かに後方に下がったが尻餅をつくまででは無かった様で、両足で踏ん張って踏みとどまっている。うーん、中途半端が一番不味い気がする。この一撃で終わるわけないと分かってるけどさ!
「でぇええぇい!」
「ぅぐ!!」
―ギィン! ギン! ギン!
一撃、二撃、三撃!!
俺は追撃をタイミング良く撃つ事で相手に連撃を与えて、奴の攻撃のタイミングを削る様に剣撃を打ち込んだ。その際の掛け声は……気合みたいなモンだ。
さすがに場数を幾らか踏んでいると思える相手だ。俺の攻撃を捌く様な動きを見せ始めた。
もちろん相手からも攻撃を俺も受ける事になるが、そこは大丈夫だ。受け流しきれている。時たま"ピチャピチャ"と水の飛沫が肌に落ちてくるが、邪魔だとは思わないし、とても些細な事だ。
だから俺はそのままの速度で気持ち良く、敵たるゴブリンに振り被り剣身を下ろす。上手くゴブリンを捕らえている時も有れば、受け流される時もある。俺は奴の斬撃を避けながらさしたる怪我もなく、ジワジワと相手を追い詰めている感覚が濃厚になって来たと感じていた。
勝機は近いと、さ。
しかし、ここでついに……その瞬間を迎えるとは、追い詰めていると実感していた矢先の嫌な衝撃だった……
―……ガギィイイ!!
「……折れ……たッ……!?」
やはり無理矢理魔法を流し込んだからか、このリーダー格のゴブリンの技なのか……それとも両方か?
「危ない!」
「!?」
―……ボン!
目の前で折れた剣に気を取られて相手に対する反応が遅れたのを、シュトールが横からサポートしてくれた。あ、危ねぇ……!
そしてそのままシュトールは俺の元まで来ると、俺の持っている折れた剣と俺を順に見て咎める様な声を発してきた。
「……当たり前の結果だ! 最初から魔力の流れの無い金属に、無理矢理魔力を流し込んだから折れたんだ、アサヒ!」
「う……」
あーやっぱりそうなか! 一応、新品だったんだけどな。かーちゃんにも言われたけど、この剣では魔法に耐えられないのだ。……分かってたけどさ。
しかもさ、折れた方が真ッサラ状態に近かったんだぜ!? これはショックだよなぁ!?
怒るシュトールの後方では、俺が相手をしてた奴の子分ゴブリン達がポンコ達と共に既に伸され終わっていた。
そして再びシュトールに視線を戻す。彼の周りにはまだ魔方陣が幾つか展開されている状態だった。ま、それに助けられたんだけど。
「距離もあまり無い目の前で、変に動きを止めない方が良いぞ」
「ん、そうだな。いやぁ……さすがに驚いてさ? でも、もう大丈夫だ」
俺はシュトールの言葉に軽く返答して、再びゴブリンリーダーと対する事にした。彼はシュトールの放った魔法弾を頭に受けてよろめいたのか、頭を抑えて短い唸り声を出していた。あれ、ヘルメットが無ければ、どんだけダメージを受けていたのか分からないがな、一応。
やがて復活の兆しを見つけたのか、今度は頭を左右に緩く振ってからその面を俺の方に……いや、ここはシュトールにか? ……まぁ、こちらを見てきたんだ。
「ゥ……ウウゥウゥゥ……!」
「……やっぱり、俺がコイツを最期まで相手するわ。シュトール、さっきの助かった、ありがとな」
「そうか……分かった」
俺は既に水魔法を剣へ流すのを止めている。だから、折れではいるが刃は通常の金属の組成に戻してある。そして一方は折れたが、双剣を持ち……ゴブリンに対峙した。
もうさ、少し犠牲は払うかもしれないけど、力で無理矢理ねじ伏せて終わりにしようと思う。
奴もまだシュトールの攻撃に対して回復し切れていない、今がチャンスなんじゃないかな?
そう俺は決めて、ここを突破すべく……走った。
俺の動きを顔を覆う手の指の隙間から確認したのだろう、ゴブリンはやや勘が入った動きで得物を振り、俺を狙ってきた。
だが、ここはタイミングを合わせて"俺"では無く、"空"を斬らせる!
―……ヒュッ!
良し! 片手斧の今の攻撃は前進しながら前屈みになり上手く避けれた! 何てったって、奴の懐に潜り込む事が大事なんだ! ほら、俺の動きの速さの方が上なのだ。上目使いでゴブリンの目標位置を確認すれば、勝手に奴の驚いた顔が見れた。ここまで来ると、思わなかったのかな?
俺は奴に攻撃を叩き込む瞬間に折れた剣を持っている左の掌に力を込め直して、まずそれを振りかぶり、奴の胸部を守るなめし革の鎧に思いっきり下ろした。
「!?」
「くっそッ……! でぇ……えええぇぇぇええぃい!!! これは……お前にくれてやるよッ!!!」
―ドフッ!!
俺は勢いに乗せて折れた剣でゴブリンの心臓辺りを突いて、残りの剣で胴に真横に剣を撃ちこんだ。これで確実だろう。胴に真横かから撃ちこんだ剣は右から左に抜ける事は無く、途中で速度を吸収されて失速停止してしまったが、この位"離せば"十分だろう。そこで俺は穿った剣柄を手から離し、胴に食い込んでいる剣を左から右に戻し抜いた。
この動作はある意味一瞬だ。
ゴブリンが認識し始める時は、既に彼は"終わっている"のだ。
「ぐ……がぁああ~~~!!! あ――――――!」
至近でこの咆哮はキツいな。……どうやら中途半端"過ぎた"様だ。
そこで俺はすかさずゴブリンの身体に空いた方の片手で魔法弾を至近距離から数発撃ち込みながら素早く後退した。
素早く後退するには意味が有るんだ。それは奴が片手斧を滅茶苦茶に振り回し始めたからで、その軌道から早く離脱したかったからだ。怪我をするのは嫌だろ?
そして俺の一連の動作の後、ゴブリンは一歩前へ踏み込む姿勢になったが声も無く"どぉ"と仰向けにひっくり返り、僅かな痙攣後、完全に動きを止めた。
―……勝利した瞬間だ。
「……ッ……は~は~……はー……」
俺は荒い息の中で、何となく絶命した仰向けのゴブリンのリーダーの胸に両手を重ねて乗せた。
全く、損な役回りな奴等だ。だから、せめて安らかな格好で眠れ。
これは只の感傷だ。気まぐれだ。言い訳だ。……解ってる。
俺達は敵味方選ばず、それぞれの理由でズルイんだ。
……けど、全く同じ道を歩いている訳じゃないし、性格も違うから、どこかで何かが起こるのはしょうがないんだ……。
「……行かなきゃ……行こう……!」
―……そして俺達は最終地形に走り込んだ。
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