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第98話 玄夜の宴 -2-

―……夜も更けてそろそろ月が天の最大の高みにさしかかる時、俺の元へ人の姿のままのポンコが現れた。 日本家屋風の廊下に、襖を背にして直に廊下の板上に座り月を見ている俺に近づき、宵の色よりなお玄い瞳で俺を見ながら静かに質問してきた。 「……シュトールは寝たか?」 「ああ。子供のタヌキ達に囲まれて、寝息をたててる。シュトールは一旦寝たら多分朝まで……大丈夫だろう」 俺はふと、あの初日のシュトールを観察した夜の事を思い出した。シュトールは一度寝たら、多分なかなか起きないタイプなのだ。 「……なら、アサヒ、こっちに……」 「ん?」 俺はポンコに言われるがまま、彼に着いて行き別な部屋に移動した。 他の部屋より、やや調度品が格上に感じるこの部屋はもしかしたらポンコの自室かもしれない。 この屋敷全体に言える事だが、やや和風……日本を思い出させる品々が見受けられて俺は知らない素振りを見せながらも、内心ではその数々の名を心密かに名前呼びして懐かしんでいた。うん、ほらさ、俺ってば一応、前世持ちだからね? 元は一般日本人なのさ。 俺が内心そんな事に興じていると、ポンコから声が掛かった。 「―……脚の……治療は済んだのか?」 「まぁ、大体はな。自分に治癒をかけているから、完治は少し掛かるかな?」 「そうか……。治癒も扱えるのか」 「うん、まぁね」 「……あそこでは見事な"解呪"を行っていたのに、アサヒ、鎖骨に刻んだ俺の術は解呪をしていないのだな」 それは……どういう……? だってさ……? 「え? でもこれって、加護の一種じゃ……? だから別に良いかな……とか思っていたんだけど?」 「本来はな。……俺だけ、お前等が逃げない様に本当に"呪い"をかけたんだよ」 俺の、のんびりとした答えにポンコは呆れるどころか、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべてきた。このポンコの言葉の内容に俺は驚いた。 「い"!?」 「だから、今から"呪喰"して解いてやる……」 そしてそう言いながら俺の手首を掴み、余っている方の手で続き間の襖を開ければそこには幅広の一組の布団が敷かれていた。 「さ、布団の上に座れ、アサヒ」 「え? えええ?」 「……こういう場所の方が、何かとやり易い」 そう言いながら俺を布団の上に座らせ、自身も対面に座ってきた。 そして、着ている着物の左側を鎖骨が見えるくらい開きずらされ、露出させられた。どうやら俺には見えない位置……多分鎖骨付近だとは思うが、そこに問題の"呪い"が有る様だ。 何かを呟きながら、啄ばむ様に俺の鎖骨当りに唇を当ててくる。その度に、ピリピリとした僅かな電流と、何かを剥がされている感覚がそこからくる。なかなかもどかしい……。 「……ッ、はッ……」 「アサヒ……動くな……」 「んッ……でも、ポンコ……」 「符陣から、解呪がずれる……」 そう言いながら俺に唇で触れてくるポンコの指先は少し冷たくて……震えていた……。俺は何となく、その姿を見て彼を抱き寄せた。それにより唇が鎖骨に寄せ易い様で上手く固定され、ポンコの解呪は順調さを増したらしい。俺の胡坐の方膝の上に跨るように座り、やや俺にもたれる様に身寄せてきたポンコを少し抱え直した。 背丈は同じくらいなのだが、ややポンコの方が低く華奢そうだ。第一、膝の上に乗っている体重が軽い。しかも腰、細いなぁ……。 俺がそんな事を考えている内に全てが完了した様で、鎖骨から離れたポンコは俺を見ながら告げてきた。 「……完了した……」 「ん、そっか……」 「でも、アサヒ……」 「ポン、コ……?」 完了を告げてきたポンコはそのまま俺に更にしがみ付いてきた。眉根を僅かに寄せて、少し潤んでいると感じる視線で俺を繋ぎとめる様に口を開いた。 「アサヒ……このまま今夜……この姿の俺の相手をしてくれ……」 「え?」 「……アサヒと、シタイんだよ……駄目、か……?」 直接的な事を言いながら今度は俺の視線から逃れる様に俯き、その黒い双眸を隠してしまった。 ……耳や尾が……僅かに震えているのが見て取れた。どうやら獣の部分は他より素直な様だ。 ―……ヤバイ。可愛い。 そこで俺は彼に一つの質問をしてみた。 「―……実は、名前を持っているんじゃないのか? ポンコ?」 この調度品の数々と彼の立ち位置を考えれば、名前が有ってもおかしくなさそうだ。 「……強いて言うなら、"ビャクリ"と呼ばれている。まぁ、これは代々頭目が受け継ぐ名なのだが……」 「ビャクリ?」 「"白い狸"って事だ、アサヒ」 俺に説明してくれた"名前"は個人では無いが、それに近いものが感じられた。 「……良いぜ、ビャクリ……俺としようか」 「……アサヒ……んッ……」 俺はビャクリの唇を塞ぎながら、そのまま押し倒した。サラリとした上等そうな掛け布団の感触が背を支えていた甲に伝わってくる。 ビャクリと唇を合わせながら、彼の着物の袷を乱して俺は隠されている素肌を暴き撫でた。

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