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第104話 買ってみよう! -1-

「―……確かに受け取ったよ。ありがとう」 現れたユーゲンティナーさんは俺から浮布が入った箱を受け取ると、受け取りサインを書きながら俺に声を掛けてくれた。 名前の最後に"点"を打つと「はい」と、サインを入れたばかりの用紙を俺に渡し、俺とシュトールの顔を交互に見てきた。 「それで? 後は、僕の人形が欲しいんだよね? 君? そちらの少年? それとも、二人?」 「あ、俺じゃなく……こっちのシュトールに……」 俺がシュトールを指しながら説明を始めると、彼は俺を見ると疑問符な声を出した。 「ん?」 「?」 しかも何だ?急に身を乗り出してきて……。 「……君、変わった虹彩をしているね? えっと、アサヒくん?」 「ああ……まぁ……そう……かな?」 へぇ? 俺の瞳の事、気にはしてもこうして面と向かって言ってくる奴は珍しいな? このおっさんの俺を見てくる瞳は興味津々って感じだけど、別に嫌な感じじゃないな……本気の興味だけの塊みたいなモノだからか……。 「昔、瞳に"銀星"が入り込んだ様な煌きをした子を見た事があったけど、君の方が珍しく感じるなァ?」 「……ぎんぼし……?」 「その子はホワイトドラゴンとのハーフだったんだけど……アサヒくんはハーフなのかな?」 「お、俺? 俺は……何かのハーフとかじゃないけど……」 確かに俺は何かのハーフではない。生体データを一万人程所有してる元スライムだ。まーその一万人の生体データのおかげで、俺の瞳の虹彩が定まらないんだけどな。 「じゃ、天然? このオーロラの様な瞳が?」 そういって益々顔を近づけてくる、ユーゲンティナーのおっさん……近い! 近いってば……!? 「実は特別な部族の生まれなのかなぁ?」 そう言いながら今度は身を引いて、「う~~~ん?」と一人、頭を捻っている。悪いけど頭を捻っても答えは出ないんだけどなァ。 二度程左右に頭を動かしてから、ユーゲンティナー……もう"おっさん"で良いや。ま、おっさんは「付いて来て」と俺達に言い、砦内へと歩みを進めた。 砦内の石畳を抜け、足元が住居らしき床に変わった時、俺はある物に興味を惹かれた。 ―……これは、リビングメイル……か? フルアーマーが動いている……。 「デカイ……すげぇ……」 「あ、これが気に成った? これも人形の一つだよー。ほら、ふかふか~」 「!?」 そう言いながら、このおっさんはリビングメイルの人形の後方に回り、何と胸を揉み始めた。……ま、確かに胸の部分に布っぽい皺が出来ているけどさ! 当たり前だが、おっさんの胸揉みに動揺すら見せずにリビングメイルはその場につっ立っている。 「それじゃぁ、悪いんだけど僕は人形へ"剣術の動き"を記録している最中でね……終わったら来るから、それまで契約したい子供向け人形を選んでてもらえるかな?」 「……剣術……出来るのか??」 「ああ、出来るよ。僕は"人形使い"でもあるけど、元騎士でもあるからさ。一通りの型は出来るよ」 なるほど? 鍛えてる筋肉してるな。と思っていたらそんな裏があったのか。一瞬、人形使いの戦闘スタイルは剣術かと思っちまった。それじゃぁ、"人形"はどこへ行った、って話しになっちまうわな。うん。 そして「人形が案内してくれるから、ゆっくり選んで」と言い残して、おっさんはどこぞへ行ってしまった……。 おっさんが去ってすぐにメイド姿の案内の人形がやってきて、言葉無く俺達を"子供向けの人形部屋"へと連れて行ってくれた。 この現れたメイド人形もそうだけど、生き人形……っての? 幾らかデフォルメはされているけど、俺達にかなり寄せて作ってある。 外に居た人形もそうだったが現実寄りの作風なのかな? そんな事をつらつら思いながらメイドさんの後をついて行くと、とある大きめな開き扉の前に連れて来られた。 どうやら人形達の居る部屋に着いた様だな……。さて、シュトールの気に入る子は居るかな? 「ごゆっくりどうぞ」と言わんばかりの恭しいお辞儀と共に、メイドさんは"ギギギ……"と重めな音を出しながら扉を一人で開いた。 どうやらこの扉、片方と開くと連動して残りも開く仕組みらしく、俺達の面前に扉の左右が均等に開かれた。 「……ぅお……!」 「ほぉ……?」 俺達はそれぞれ違った感嘆が出たが、やはり同種の意味だと思う。 扉を開け放たれた部屋には、様々な人形が居た。リアルからデフォルメまで取り揃えられていた。 ―……圧巻だ。 そこで俺達は別れて、お互いに見たい方へ歩みを進めた。 「アサヒ……俺はこれに決めた」 「ん?」 物色している俺の元へ来たシュトールは、自ら抱えている人形を俺に見せてきた。でも、それはさ……? 「……ニードルポンコ……?」 「の、人形、だ。見つけたんだ」 シュトールの腕の中には、デフォルメされた小振りのニードルポンコの人形が抱えられていた。 使われている毛の手触りから推測すると、これは本物ではない。この事実に少し安堵した。 「俺も……せっかくだから何か買おうかな?」 シュトールに抱えられているニードルポンコの手をむにゅむにゅと押しいじりながら、俺は辺りに視線を泳がせた。 どうせならさ、俺が届けたあの布……"浮布"を使った物はないのかなと、思ったんだ。 でも、こう多くちゃザッと見では分からないな……。目が泳ぐばかりだ……。 「―……やぁ、二人共ここにいたんだね」 「あ……はい」 俺がキョロキョロして、シュトールがニードルポンコを抱えて立っているところにおっさんが現れた。 今の彼はゆったりとした群青のローブ姿でいた。どうやら"剣技の動き"は終わった様である。 「それで? キョロキョロして……何かお探しの商品でも?」 「あー……と……、"浮布"を使ったモノを……」 「浮布を使った商品はこっちだよ」 そう言って連れて来られた先では、グレープフルーツ大の漫画の吹き出しみたいな"ヒュッ"とした尻尾付きの形のお化けのヌイグルミが、プカプカと静止状態で何体か浮いていた。瞳を閉じている事から、全員スリープモードの様だ。 「主な使用ヌイグルミとしては……この"お化け"シリーズが主かな? ほら、自身でプカプカ浮いてるだろ? これが"ウリ"なんだよ~」 「へぇえ~……」 俺はおっさんの説明を聞きながら、その中の一つを突いて揺らしてみた。俺の指先一つで、規則正しい上下のプカプカに"フワンフワン"とした横揺れが加わった。そしてどうやら俺の作った揺れはスリープ解除に繋がった様だ。 「……?」 「あ、目ぇ開けた」 「……~~~!?!」 言葉を発しない分、表情と動きがオーバー気味なこのお化けのヌイグルミはポヨンポヨンと空中で跳ねだした。器用な……。 ―面白い……。 俺は動き出したオバケを摘み、おっさんに向き直った。 「これ、貰おうかな」 即決だった。

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