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第105話 買ってみよう! -2-

「良いかい、君達……僕の人形に必要な動力源は……」 「「………………」」 おっさんはひそめた低い声で、俺達にもったいぶった様に言葉を発した。そんな俺達は、おっさんの"溜め"に入った言葉の続きを黙る事で催促した。 そしておっさんは俺達の無言の催促に一つ頷くと、今度は椅子から立ち上がり、声を大にして吼えたのである。 「…………"愛情"なのだよ!!!!!」 「「!?!!」」 な、何と!? そして今度は自らを抱くように腕を身体に回してポーズ…………後、両手を開き、再び咆哮してきた。 「ラヴ イズ……ッ、パゥア~~!!!」 「「………………………………」」 もう、妙なテンションだし……って、最初の出会い頭からそうだったか……? ハテ? まぁ、俺達の「………………」な態度をよそにテンションが上がっているおっさんは突っ走りを止める気配も無く、それを俺達に向けてきた。 「ハイ、僕に続いて! カモン!!」 「続かないし」 「ああ、続かない。終了だ」 「……なぜッ……!?!」 ―……俺達は決めたそれぞれの人形を手に、とある一室に連れて来られた。 机に椅子……羽ペンにインク壷……と、どうやら部屋はここで契約を決定していく為に使われている場所の様だ。 そしておっさんに進められた椅子に俺達は座り、上記の会話をしたのだった……。 しかし、ノリノリなおっさんに、後半の淡白な俺達の反応はいささか彼にショックを与えたらしい。少し肩が下がってしまっている……。う、う~ん? そんなおっさんが急に顔を上げ、俺達にこんな質問をしてきた。 「―……それで? 君達、それぞれ名前は決めたかい?」 「お化けだから"オッちゃん"」 「ニードルポンコだから"タヌハチ"」 「………………うん、君達結構ストレートな性格している様だね……」 ……どこか遠い目をされた気がするが、まぁ……良いか……。 「じゃ、心臓部……擬似コアを作るから、自分の持ち物から何か一つ、提供して貰えるかな? 出来れば長く自身が所持していた物が良いけど……」 おっさんのこの言葉に俺は金貨を一枚、シュトールは嵌めていた指輪を一つ外してそれぞれテーブルの上に置いた。 一応、この金貨は多分、あのルツとのトロール退治の時の報酬の物なはずだから、所持的にはそれなりに長いと思う。 「じゃぁ……シュトールくんの人形は……。主要武器が"棍"、特殊技能が"踊り"、"飛び針"で……基本性格はひょうきんで甘えた、だね」 「そうだ。面白いヤツが良い」 「アサヒくんの方は……。主要武器は……無し? あ、でも特殊を結構選んでるんだね……。"畏怖"に"魅了"、"幻覚"、"噛み付き"、"膨張"、"高速パンチ"……なるほど? それで、性格は怖がりで甘えた? お化けなのに、怖がり?」 「怖がりの方が生存率高そうだろ」 「まぁ……うん、"慎重"、って事? それにしても……君達、甘えられるの好きなの?」 「かわいーじゃねぇか!」 「うむ!」 「そ、そうか。分かった。設定通り仕上げるよ」 お互い身を乗り出して主張すれば、おっさんは逆に上半身を後方に倒した。 「……じゃー、ここからは職業秘密ね? しばしお待ち下さいー」 そう俺達に告げるとおっさんは金貨と指輪を乗せた盆と紙と俺達が選んだヌイグルミを手に、部屋を出て行ってしまった。 「口頭で指示以外は、寝かせると"眠って"、起こすと"起きる"よ」 何だか起き上がり人形みたいだなー。 今、俺達の手にはおっさんに"設定"を受けたヌイグルミがいた。 俺のオバケはポヨンと浮いており、シュトールのタヌキは腕に抱きついて甘えてる状態だ。これが本当に不思議な物で、自分で勝手に動く動く……。でも、ここまで設定出来るのはかなりな技術力が要るらしく、メンテは基本、このおっさんに頼んだ方が色々面倒臭くなくて良さそうだ。 俺が「オッちゃん」と呼ぶ度、"ススス……"と寄って来て「???」と言った風な動作をする。……正直、可愛い……。 この可愛さはシュトールも感じたようで、名前を呼ぶとチテチテと寄って来るタヌキに普段見せないような笑顔が溢れていた。 「よし、じゃ……軽く戦闘具合でも確認してみようか?」 俺達がそれぞれを動かし始めたのを見計らって、おっさんが声を掛けてきた。 「……戦闘?」 「そう、"戦闘"。僕の子供向け人形は基本、護衛機能もついているからね。色々設定したでしょ? 動作確認だよ」 確かに設定した……。流れで決めたけど、そうか……護衛機能か。見た目の可愛さもあるかもしれないが、エメルが薦めた訳だ。 「それで……どちらか……剣術は出来るかな? 幾らか割り引くから、新しい剣術の動きをとらせて欲しいんだ」 「あ……それなら、俺、かな?」 "動きをとる"って……どうやってだ? たしかポンコも「動きをとられた」とか言っていたな……? 「アサヒくん? じゃ、アサヒくんにお願いしたいけど良いかな? ……じゃ、これを着て」 俺の疑問をよそに、おっさんはいつの間にか後方に控えていたメイド人形がうやうやしく持っていた黒い物を俺の前に広げた。

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