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第106話 買ってみよう! -3-

……見れば、それはおっさんが出会い頭に着ていた全身タイツではないか……。 「良いけど……その全身タイツ姿は抵抗がある……」 「ああ、なら上から服を着てくれて構わないよ。これを着て動くことが重要だからね」 素直に答えれば、どうやらこれを着て動けば、服が動きを読み取って別な所にある"陣"に術式が勝手に組まれて記録されていくそうだ……。って俺にも良く分からない。分からないが、そうだな……3Dのモーションキャプチャーってことだろ? うん。 着てみた全身タイツは伸縮自在な様で、サイズが勝手に調整された。便利だなー。 ま、さっきもおっさんに言ったけど、これのみに抵抗がある俺は上から元々着ていた服を着た。 それからおっさんは俺達を砦内に存在する闘技場へと連れて来て、俺に一振りの剣を手渡してきた。よく見れば刃は潰してある。 「……これで? 適当に動けば良いんだ?」 「そう、適当にお願いするよ。丈夫に作ってあるし、防御の術式が勝手にヌイグルミに発動するから、そんなに手加減は要らないよ」 「ん、分かった」 俺とおっさんが話している内に、シュトールのタヌハチはいつの間にか三節棍を握り締めており、オッちゃんはフヨフヨと浮きながらシャドー中だ……ってやる気あるな! そして向かい合う俺達……。何となく……緊張してくるぜ……。 それから、"ザリ"と誰とも無く足元からの音が小さく出た時、タヌハチが棍を下から俺に突き上げてきた。 背丈が低いから、飛び上がる動きに近いがなかなかのスピードだ。 俺はそれを身体をずらして対応し、回り込んで一撃を棍にくれてやろうとしたら三節棍がカクカクと折れて結局、空のみを斬ってしまった。 そしてそんな振り下ろし後にオッちゃんのパンチが……。 「おっと……不意打ちかな? オッちゃん……」 「―!」 オッちゃんのパンチを一歩後退する事で避けて、剣の構えをしようとした時、俺とオッちゃんの間に割り込む物が……。 ―……三節棍だ。 見れば、くりくりとした黒いタヌハチの瞳が俺を見上げている。 「………………」 「………………」 ……何だか一瞬そんなはず無いのに、睨みを利かせた目を向けられた気がした……。 やんのか、オラー! ……よし、受けてたとうじゃないですか!! そして俺は数歩下がって剣の構えを新たにした。 「あ――……意外と疲れた……」 あれから暫く撃ち合って、動力切れとやらでヌイグルミ達は一時強制的にカクリと動きを止めてしまった。 俺としても剣技とヌイグルミのデータがなるべく取れる様に動いたから、思ったより長く動いていたのかもしれない。 闘技場の地べたに座って「あ~ー……」とか声を上げている俺に、おっさんが近づいて来て声を掛けてきた。 「アサヒくん……君、本当、どこ出身なの? 見てたけど、"型"があまり定まってないね? ……若いのにあんなに複数の……どこで習得したんだい?」 「あー……俺、記憶喪失中でして……ごちゃごちゃしてて……。型が定まっていないのは、そうだから……デスカネ? は、はははは……」 「……記憶喪失……なんだ……それは……なんと言うか、大変だね……」 「いやぁー……でも、基本の生活には困っていないんで大丈夫です」 「そうか……何かあったら話してごらん? こう見えて、色々な部族にツテがあるから……協力出来る事はするよ?」 「はい、その時は……。ありがとうございます」 ヤ バ イ。 ……苦し紛れの誤魔化し設定を久々に面と向かって使ったぜ……。 ところでこのおっさん……ユーゲンティナー氏……。ハッキリ言って多才じゃないか? 神様はこのおっさんにスプーンのセットを与えたに違いない。 元騎士って事はそれなりに武術を修めているだろうし、人形使いは魔道に通じていて? 外見的に美形の部類の顔に体格も悪くない……。俺より背ぇあるしさ。 んー……でもさ、多分人形使いになって良かったんじゃないかな? だっておっさん、楽しそうだしさぁ? 今だって楽しそうにオッちゃんとタヌハチの調整に入っている。 シュトールはその脇でおっさんの手の動きを興味深そうに見ていて、たまに何か質問しているようだ。 あー……何だか和やか……。 ん? おっさんがオッちゃん片手に近付いて来た? 「アサヒくん、アサヒくん!」 「……?」 「はい、オッちゃんの調整が終わったから、撫で撫でして動力溜めてね!」 「分かった、ありがとな」 「いえいえー」 俺は渡された巨大マシュマロの様なオッちゃんを撫でながら、ある事を思いついた。 それはさぁ…… 「―……よし、ポンコ達から貰ったのヤツを先に部屋に転送してオッちゃんに金庫番させるか。……オッちゃん、初仕事だ!」 「♪!!!」 俺の言葉にオッちゃんは早速役割が貰えた事が嬉しいらしく、その場で立て回転を何度もして喜んでいる様だ。うんうん、仕事熱心だね。まぁ、万が一俺の部屋に泥棒が入って、オッちゃんが倒されて中を暴くと擬似コアの金貨が一枚出てきて……ってどんな冒険ゲーム的内容だ。 ま、そうならないようにオプションで有る程度"戦える"様にしているんだけどね。俺としても、金銭を奪われるよりオッちゃんのスプラッタの方が嫌だし。 リリサ先生の魔方陣は生物はダメって事だけど、"ヌイグルミ"が素のオッちゃんは多分一緒に転送しても大丈夫だと……思う。瞬間瞬間で細胞が作り変わっている生体と違って、すでに固定された素材だから、転送先での再生に大きな影響が生じないで済むと思うんだ。 そう決めた俺は早速自分の荷物から転送の魔方陣符を引っ張り出した。広げて準備をしていると、タヌハチを肩車しながらシュトールが俺の元に近づいて来た。 「アサヒ、その魔方陣は……?」 「ああ、シュトールは初めてかぁ……。これはな、"物を転送出来る装置"なんだ」 「……へぇ? "扉"に近いのかな?」 「そう言われると……近いものを感じるかな? ……そうだ、王都に戻ったらこれの製作者の"リリサ"先生の所に連れて行ってやるよ」 「本当か!? ……一族以外で似た事が出来る相手なんか初めてかな? 楽しみだ……!」 明るい声色で頬を興奮で少し赤らめたシュトール……珍しいな。 「さ、オッちゃん、おいで。いっぱいぎゅ~~~ってしなきゃな?」 「♪♪♪~~~!!」 そうそう、俺の部屋でスリープモードで待機をしててもらうからな。動力の"愛情"が無くなったら困るもんな? おおースリスリしてきて可愛いなぁーったく!! そして俺はひとしきりオッちゃんを撫でたり抱きしめたり、遊ぶ事で必要な動力を溜めた。 「それではー……オッちゃん! 俺の宿の部屋で警備と待機! ……頼むぜ!」 「……☆!!」 俺の敬礼にまねっこで同じポーズを慌ててとるオッちゃん……かわぁえぇー。なーごーむー。 ―……そしてオッちゃんは旅立ったのである……俺の部屋に!

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