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第107話 俺 ≠ 人形 -1-

「さて……今日はここに泊まってゆっくりしていきなよ。もう遅いし、疲れただろ?」 「え? ……あー……」 おっさんの言葉に窓から外を見やれば、すでに夕焼けの終盤で宵の色が空の制空を占め始めていた。 俺は頭の中に地図の内容を思い出して軽く計算してみたが、一番近い宿場までの距離を考えると確かに言葉に甘えた方が良さそうだ。 俺が「じゃ、甘えようかな……」と言うと、おっさんは笑顔で頷いて近くに居たメイド人形に俺達の部屋の用意と食事の追加を告げた。 彼女は無言で頷くと、一礼して俺達の場から去り、言われた内容をこなしに踵を返して部屋から出て行ってしまった。 おっさんはメイド人形が去った後、俺達の元に戻ってきて瞳を閉じて顎に手を当て、何か考え始めた。何だ? 何だ? その考えるポーズは多分十秒位かもしれないが、突然パチリと目を開くと同時に口も開いてきた。 「……あのさ、何なら……数日泊まってく? シュトールくんはそのタヌハチを色々試してみれば良いんじゃないかな? 必要な微調整は僕が引き受けるから」 「おおッ!? それは便利だな!」 「確かに……それは助かる」 タヌハチはシュトールに、甘えてグリグリと頭を擦り寄せている。 とても懐いている様だし、シュトールも満足そうだ。 おっさん微調整まで付き合ってくれるのかー。良いおっさんだなぁ。 「じゃ、決まりで良いよね?」 そう言っておっさんはニカリとした笑みを俺達に向けてきた。 でも、笑顔の中に何か潜めているような……そんな含みを感じてしまったのは、俺の思い過ごしかな? それは俺の方を見て、二度目の笑顔を向けてきたおっさんに一瞬感じた、俺の違和感なんだが……。 ―……それから数日は実におだやかーな安定した数日を過ごした。 タダで泊めて貰うのは気が引けたから、皿洗いとか掃除とか剣技サンプル……まぁ、雑用をして俺は過ごしていたりするんだ。 シュトールはシュトールでタヌハチの調整と、何か魔術的な手伝いをしてる様だ。 しかし、ここで"いつまで"と決めていない為、おっさんの言葉に甘えて案外泊まった気がする……。 やがてシュトールにタヌハチの調整が済んだと聞かされた俺は、シュトールと話して明日の朝に王都に帰る事を決め、それをおっさんに告げた。 ギルドに届け物の完了の報告しなきゃなぁ……。案外日数が経っているからな……エメルはどう思っているかな? ……とか夕食後に一人フカフカのラグに座ってつらつら考えていたら、おっさんが俺の方にやって来た。 「やぁ、アサヒくん、一人かね?」 「よー、おっさん。一人だけど……シュトールを探してるのか?」 おっさんの問い掛けに俺はシュトールを探してるのかと思い、聞いてみた。 だってさ、俺は見た通り、一人ラグのに座って寛いでる状態だからさ。 ちなみにシュトールはこの砦内で実験的に俺とは別にタヌハチと部屋を共有しているんだけど、案外上手くいったのか確り寝れている様だ。 「いや、彼ならあっちでタヌハチと遊びながら最後の調整しているのを見たよ。今日もしばらく掛かるんじゃないかな?」 「そっか……。ま、飯も食い終わってるし……放って置いても大丈夫かな? あ、皿洗い終わったぜー」 俺の言葉に笑顔で「ありがとう」と言いながら、おっさんがどこかジリジリと俺との距離を詰めてきた。俺は内心「?」と思いながらも、おっさんの次の行動を待ってみた。 胡坐で敷き布の上に座っている俺の左横に、おっさんが立ち膝の格好で話し掛けてきた。 俺はそんなおっさんと視線を合わせる為に顔を上げた。 そして、そこにはやや真剣そうな目付きのおっさんが俺を見つめていて……。 こうして見ると、おっさんは美形な方だから勘違いでも少し頬が熱くなってきた……。 俺が"ほけっ"と見返してると低めな声質が俺の名を呼び、会話が始まった。 「……ところで、アサヒくん……」 「何?」 短いが、ここまでは……雰囲気的にも"良かった"んだ……。

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