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第115話 素質十"二"分な俺 -1-

―……月が赤い……。 「――…………そうですね……大気に含まれる魔力の量の変化で月が赤く見えるのかもしれませんね」 「へぇ?」 「確かに、増減している魔力の量で何か変化が起きるのかもしれませんよ?」 今日は魔力の増減が激しいのか……。 以前かーちゃんと会話をした内容を思い出してしまった。 ゴロリと横たわっている俺の視線の先には、赤い月……。 「―……んじゃ、部屋で寝ている、ってのは詰まらないよな?」 俺は誰に返答を求めるでもなくそう呟くと、ベッドから言葉通り飛び起きた。 俺の突然の動きにオッチャンが「??」と身体を左右に振って来たので、「ちょっと出掛けて来るな」と軽く声を掛けてお留守番スリープモードに切り替えて俺は部屋を出た。 このフロアは相変わらず静かだ。シュトールが同じフロアに居るには居るが、シュトールはシュトールの時間を過ごしているだろう。 俺は人が居るけど静かな宿から街の雑踏と灯りへ独り、溶けたんだ。 目的地は『植物園』……ジンに会いに行くのだ。 植物園は24時間入園可能だし、入り口の事務所にジンが居てくれれば良いな……とか、願ってしまう。 あと、俺の事、忘れないでいてくれると助かる……。あれから結構経ったような気がするしさ? ちょっと、気になってきたんだ。 フラフラと雑踏を抜け、今度は静かな道を幾らか歩き、俺は『植物園』の事務所のドアを叩いた。 「―……やぁ、来たね」 「うん……月が、赤かったから……!」 俺の訪問音に出て来てくれたのはジンだった。 しかも俺の事、覚えてくれてる! 俺はその事に安堵し、嬉しさから笑顔でジンに答えていた。 ここまで考えていた事が杞憂に終わって、逆にテンションが上がったんだなー、俺ってば。 「今日の担当は僕だけなんだ。でも大丈夫。ちゃんと"離席札"置いておくから」 「へ?そうなの?」 俺を迎え入れてから、ジンはいそいそと何やら準備を始めて事務所内をあっちこっちと動き始めた。 「本当に来てくれるとは思ってなかったよ……。嬉しいな」 動きながらジンが笑顔で俺にそんな言葉を掛けてきて、俺は「いやぁ……」とだけ言葉にして笑顔で返しておいた。 ジンの手元を見れば、籐カゴに幾種類かの花が入っていた。 赤、青、黄色、白、紫、ピンク、クリーム、オレンジ……本当、色取り取りだ。 カラフルだなー……。でも、その花、何に使うんだろう? ジンの動きを見ながら、外の赤い月を思い出した。 赤い月は魔力が乱れている……。 これはかーちゃんの言葉だ。以前会った時に、俺の質問に対して言われたなの言葉だ。 俺のこの不安定さも、実はこれに引きずられているのか……? 「……ところで何で俺を誘ったんだ?」 俺の質問にジンは用意の手を止めて後頭部の髪を少し整えながら、しどろもどろ……と言った感じで答えて来た。 「ぁ~……それは…………アサヒは"素質"が十分ありそうだから誘ったんだけど……まさか、本当に来てくれるとは思っていなくて……」 「そしつ?」 「ん~……何て言うか、"雰囲気"? "フェロモン"? ……そんな感じ?」 「ふいんいき?? ふぇろもん???」 随分大雑把な感じだなぁ……。 「……ふは……! 何それ……」 「あのさ、俺……もしかしたらアサヒに……ちょっとその……魅惑のフェロモンなアサヒに、無茶苦茶なお願いを急にする事があるかもしれない」 「俺に?」 「ん、そう。割とガチでマジ……」 おーおー本当に真剣な目で……。ふーん? 「……良いよ。ジンのお願い……きくよ」 「……!」 「ただし、俺のお願いも聞いて」 交換条件を出してみた。 「良いけど……どんな? 俺に出来る事?」 「うん、ジン次第だけど出来る事だよ」 「……俺、次第? ……それで?内容は?」 「ん? それはさ、俺と"友達"になってくれよ」 「友達?」 俺の答えにオウム返しをしながら、ジンは不思議そうな顔を俺に向けた。そんな……不思議そうな顔しなくても。 「俺さぁ、王都に来てまだ間も無いんだよね。だから知り合い……友達が欲しいんだよ」 「そうだったのか……。ああ、俺で良ければ」 「マジで? うん、じゃ、ジンとは今から友達な?」 「ぉ、おう……」 本当は元スライムとか、記憶喪失設定は黙っておく。記憶喪失の方は必要な時に言えば良いだろうし。 俺はニコリ、とジンに笑顔を向けた。ほーら、こわくないよー? そんな俺の笑顔に少し戸惑いながらも、ジンは笑顔を返してくれた。 んじゃ、お互い"成立"、って事で! 「へへッ、ジーン~、早く出かけようぜ?」 「わッ、っと、アサヒ……急に抱きつくなよ……もうちょいだから……」 急に抱きついたのに、ジンってば平常運転か。 そんな感じでジンに纏わりついていたら、「離席札も置いたし、準備出来たよ。さ、行こう」と言われた。 ……んではー……出発進行ー!!

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