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第123話 ウロボロスの血族 -2-
「―……じゃ、ディル以外は揃った、って事で軽く今回の内容を説明していくね?
それと、この席に来てくれた、って事は僕の提示した内容を理解して依頼を受けてくれると勝手に解釈させてもらうから、そのつもりで。
報酬の相談や依頼キャンセルする時は早めで宜しく。
……って、依頼キャンセルはしないでくれると嬉しいな?」
多分、ディルさんは今からの話の内容を把握しているんだろうな。エメルと一番一緒に行動してるみたいだし。
言い終えると"コホン"と少しもったいぶった咳払いをエメルはし、俺は無言で頷いた。
そしてエメルは先程の咳払いから一呼吸置いて、再び口を開いた。
「……今回はね、"海"方面に行こうと思うんだぁ」
「海?」
「そう、うーみー」
そう言いながらエメルは両手で軽く水をかく素振りを見せた。平泳ぎの様な……犬掻きの様な…………………………何泳ぎなの、それ。
「そしてメンバーは、僕とディルとアサヒくんと、アリエントくん、あとグリンフィートくん! それにね、シュトールくんも誘っちゃったァ!」
明るい笑顔を振りまきながらエメルがメンバーの名前を次々と発表していく。
この場に居るって事はメンバーとして呼ばれたんだろうと予測はついていたが、実際聞かされるとその内容にビビルな。
俺は両隣の二人のどちらにも顔も声も向けずに、前方の男……エメルを見続けた。
「強力な魔法いっぱい使える子が欲しかったんだよね~、僕ってば超ラッキー! テヘペロ♪」
"ラッキー"じゃねぇよ! 結構余裕だな、エメル!
グリンフィートは勇者の家系の現勇者で、シュトールは魔王の御曹司、多分次期魔王なんだぞ!! 世界が平和でも、不穏な組み合わせをわざわざ作るなよー!
「………………」
「………………」
ほら! 何か二人を纏う空気が何だかダークマタ化してきただろ! 何か絶対、暗黒物質生成してるだろ――――!!! 混ぜるな危険!!!
「ねぇ……危ういのって、ドキドキするよね……? ふふふ……」
エメルー! 理解してこのパーティにしたのか! この冒険野郎!!
しかも俺の目を見て事、小声で呟くなー!
そしてエメルはこのタイミングで、自身の隣りに座っていた……獣人を紹介してきた。獣人の彼はそんなエメルに慣れているのか、ずっと腕組み状態で静かに瞳を閉じている。
「そうそう、アサヒくんには紹介まだだったよね? 彼は"アリエント"くん。彼はレンジャーなんだ。色々期待してるよー」
「ふん……俺は当然の仕事をするまでだ。俺の邪魔をしなけれなそれで良い」
エメルの言葉に閉じていた瞳を開き、アリエントと紹介された獣人の彼は低く落ち着いた声で言葉を発してきた。
アリエント……は犬の獣人なのかな? 黒いピンと伸びた耳が自信に満ちている気がする。尻尾は細めで何か格好良いな。ドーベルマンの様なシャープな印象を受ける。
……まぁ、俺が居れば実は大概何でもこなせるから大丈夫なんだが、そこは黙っておく。
基本、皆と楽しくしている方が好きだからな。別に力を誇示したい訳じゃないし……必要ならやるけどさ?
「あの……俺、アサヒってんだ。宜しく、アリエントさん……」
「"アリエント"で良い。俺も"アサヒ"で良いか? 呼び方があまり堅いのは好きじゃないんでな……」
「分かった。俺の呼び方はそれで良いよ、アリエント」
硬質なアリエントに"二へ"と笑っておく。愛想笑い最強。
俺の笑いにアリエントは片方の口角を上げて返してくれた。
何だ? 案外馴染めそうだな?
「ディルはもう少ししたら来ると思うよ。魔力メンテした剣と僕の魔工製の銃を受け取ったら来るって言っていたから」
「まこう、の……銃?」
「うん。僕の武器はね、魔力を込めた弾丸を銃で撃つんだ。"魔法"は使うけど、魔法使いとはちょっと違うんだよ」
そう言いながら、エメルはニヤリと笑い、俺に「興味があるなら、少し説明してあげるよ」と言ってきた。俺はこれに素直に頷くと、エメルは「ではね~……」と話を始めた。
「僕の武器はね、強力な魔法武器を作る最新の技術で出来てるんだ。何と、"人工"の魔法武器なんだよ~!」
「人工……? それってどういう事なんだ?」
……魔法武器。"マジックウェポン"って事か。でも、"人工"とは……?
「魔力を含んでない物に、選んで……カスタムして魔力を込める技術で出来てるのさ! ま、同じ物でも色々相性は存在するけどね……」
「……?」
「例えば、火属性が付加されている剣を所有したいと思ったら、その火属性を含んでいる魔法剣か、外部からの膨大な魔力注入に耐えられる魔法剣……。
ま、どの道、弱くても"天然な魔法剣"が必要になってくるんだ。この代物はなかなか見つからないから、結構なレアリティを誇っていて取引すると相当お高いんだよ。下手すると、高額を出して偽物を掴まされちゃうからね。要注意だよー。
そして自分で見つけるにしても、それこそ古代ダンジョンの奥とかね? 王族とか、お偉いさんの家系が所有してるのが専らだ。まー、それでも例外はあるけどね。大体ね、大体……。
そして! ……つまりね、普通じゃ、"ほぼ無理"、なのだよ。アサヒくーん」
「……ふんふん?」
「……でもさ、欲しいよね? ね?」
そう言いながら、エメルは俺に笑顔で聞いてくる。
俺は自分の中に属性武器を扱える……魔法剣士のスキルがあるのが分かってるから、行く行くは是非欲しいと思っていたんだ。
「まぁ、欲しい……な。……俺も欲しいから、出来たら水属性のを探そうと思っていたんだ……」
「ええ? そうだったの!?」
俺の回答に「そっかそっか」と言いながら、エメルは自身が頼んでいたアイスティーで喉を一旦潤している。
「僕は"戦う商人"だからね。冒険……探索、採取、運搬依頼とかも受けながら諸国に色々品物を届ける旅をしているんだ。
今回も運搬、採取依頼を同時にこなすよ。戦闘有りかもだから、その為の君達だからね。頼りにしてるよ。
……まぁ、その、僕と取引している中にね、"魔工都市"があってそこで作られた魔工製品を僕が使っている訳なんだ」
「へぇ? そんな所……あるんだ」
「あるよ。名前くらいは……って、ごめん。アサヒくんは記憶喪失だったね……」
う……確かに俺は『記憶喪失』設定だった。素直にハの字眉で申し訳なさそうに俺を見るエメルに、逆に俺が何だか悪い気がして来た。
「あ、いや、ぁ、うん……。以前は知ってたのかも……? エメル、悪いな……」
「アサヒくんが謝る事無いよー。僕の方が悪かったね。
それで、僕の武器は"魔機工都市・ハスマヒナ"で作られているんだ」
「魔機工都市……ハスマヒナ」
「ん。そう。んでぇー、この人工魔法武器はね、手軽な魔法武器ってなだけじゃなくて……。
魔力が低い……または、持たない人物でも、魔法を使えたり大技を使えたりする魅力もあるんだよ!」
「え……!」
「驚いた? ……でも僕の場合は、"興味"から所有しているんだけどね。今は"商人"だけど、元は"魔法使い"職なんだよ?」
そうか……エメルは魔法使いでもあるのか……。まぁ、リンデルも魔法使いだしな。兄弟と考えるとそれも普通か……。
「ま、実はまだこれ自体もまだまだ高額だし、開発途中な感じでね。そんなに市場には出回ってないけど……そのうち広まると僕は踏んでるんだ」
……どうやらエメルは"新しい物好き"な傾向があるようだな……。それは商人として向いてそうな気がする……。
「それに、今回はシュトールくんに弾に魔力込めるの手伝ってもらうから、いつもより楽だよー」
そう言いながらエメルは今度はシュトールに笑顔を向けている。そんなエメルにシュトールは「任せておけ」とだけ言い、タヌハチを相変わらず肩車状態でいる。……この余裕な感じ……。シュトールは魔力が余り気味だから、丁度良いのか……?
エメルはシュトールの言葉に、「う~ん、心強い!」と更に破顔させてきた。
そんなエメルの説明が終わったかと感じた時、俺の後方からタイミング良く新しい声が登場した。
「……待たせた、かな?」
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