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第127話 双蛇の巣 -3-

「受けても良いかな?」 「ぅえッ!? うけッ!?」 ヤバ。半分予想はしていたけど、実際言われると中々ショックデカいな。 俺が口をパクパクさせてると、「ね? ……じゃ、受けるから」と一方的に進められ、エメルはアルのおっさんの言葉を受け入れちまった……。 ショック激増。マジ涙目状態な俺に、ディルが「……アサヒ、そう悲観するな。何とか手を打ってやるから。エメルもただの守銭奴じゃないから。……な?」と小声で慰めてくれた……。 ……うう。ディル、それマジなんだろうなー? ディルの励まし……? の言葉を受けて、エメルを見れば、"バチコーン☆"とウィンクされちまった……。 よ、よし! 俺はエメルのそのウィンクの力強さを信じる……ぞ! 「まぁー……行く海底洞窟で何が起こるかちょっと分からないから、僕も実際は何とも言えない部分があるけど……。戦力は十分だと思うから、うん。 それに、そこの"琉榮の珠藻"って、一応、そこだけで採れる貴重アイテム扱いだし。単価がとっても高いんだよねー」 「!!!」 ―……やっぱ商人! エメルは商魂逞しい奴なんだ!! ニコニコ笑顔のアルのおっさんに、軽くウハウハ状態のエメル、ちょっと困り気味なディルにほんのり涙目な俺……。 そんな様々な結末を迎えて仕事内容の話しは終わった……。 ま、細かそうな話は全部ディルに任せた状態だが。 そして俺は"一人で採取"が気になってるけど、ここはもうしょうがない……受け入れる。………………受け入れる…… ―……ぃよーし、やったろうじゃねーかァ! 元齢三桁、一万人切りスライム舐めんなぁ!! ……っと、思わず力んじまった。そして来たこの波は…… 「―……ごめん、ちょッとトイレ……」 スゥが出て行って仕事の話しの後、俺はトイレに行きたくなったのだ。 うーん……。スゥに変に緊張したのと、仕事の話が終わって気が緩くなってトイレが近くなったんだな、これは。早くスッキリしてしてしまおう。気分転換もしたいし。 アルのおっさんにトイレの場所を教えてもらって、俺はやや警戒気味に通された部屋を出てトイレへ向かった。だって、スゥに会いたくないじゃんか? そしてトイレが終わった帰り道で、俺はあるものに遭遇した。 「にゃ、にゃ、にゃ!」 「……は? 猫??」 「にゃーう!」 何だ!? 突然毛長猫が現れて俺の足元をぐるぐると回り始めたぞ!? しかもなかなかな高速具合……やるな、コイツ……。回る輪から逃げる為の一歩が出せない。 顔も長い毛が揺れていて、コイツ、見えてるのか? 何だ、見てるうちに新手のモップに感じてきた……。 「おい……あんまり回るなよー。……お前の飼い主はこの屋敷に居るのかな?」 「にーぅ。にうにう~」 とりあえず、『猫踏んじゃった → フギャー!』の流れは避けねばと、俺は足元を回る猫の首根っこを掴み持ち上げた。 お? この猫、大人しく丸まった……。なかなか頭が良さそうだな。 それにしてもこの猫……異様に軽いんだが……? まるで羽根の様な軽さだ……けど、実体しているんだよな?? 「ケーシー、ケーシー……」 猫を見ていたら今度は男の声がしてきた。何だか名前っぽい言葉を発しているようだな……。もしかして、この猫の名前か? 改めて猫を目線に引き上げて見ていると、先程の声の男が後方から俺に話し掛けてきた。 「―……それ、その猫……。俺に渡して貰えるかな?」 何だ。やっぱり、あの"ケーシー"はこの毛長猫の名前だったのか。でも一応、確認確認。 「……この猫、アンタの?」 「そうだよ。……この屋敷で初めて見る顔だな」 「まぁ……そうだな。俺、仕事の話しに初めてここに来たから」 俺の言葉に男は「ふーん?」と小首を傾げた。 そんな彼に所望の猫を返してやる。「ほら」と男の腕辺りの高さに猫を持って行けば、男は俺から猫を受け取り腕に抱えて撫で始めた。口の端が少し上げて、「あまり俺から離れるな」と猫相手に話しかけている。 この現れた男……俺と同い年位の印象を受けるな。髪は……暗めな赤。艶やかな暗めな赤……って何だか不思議な印象だ。 そして今度は大きめな金色の双眸を細めて、俺の事を見ている。何だか値踏みされている? だからでは無いが、俺も見返して素直な感想としてはこの男は可愛い系だな。ちょっと冷たい印象のある……可愛い子ちゃん。これだ。 脳内で俺がこんな事を展開してると、彼の口が動き始めた。 「そうか……。名前は? 俺は"リン"。気軽に"リン"と呼んでくれ。そして猫は"ケーシー"。捕まえてくれてありがとうな」 「俺? 俺は"アサヒ"。俺もそのままで……」 そうかー。この可愛い子ちゃんは"リン"って言うのか。 「分かった、アサヒ。……アサヒ」 「うん……?」 言いながら視線を一度猫へ向けてから、俺へリンは視線を合わせてきた。 彼の金色と俺の虹色が空中で絡んだと、そう感じた。 一瞬、無言でカチリと合わさって、直ぐにリンの瞳が横に流れた。 「アサヒは……いや、何でもない」 「……? そうか?」 サラサラと髪を揺らしてリンは言葉を断ってしまった。だけど、面白気に口の端が上がっている。何だろうな? 俺に何を言おうとしたんだ、リン……。 「―……また会えると良いな、アサヒ。再会」 リンはそう一方的に俺に告げると長毛猫を腕に収めて俺の前から来た方向へ帰って行った。 そして背を向けて帰っていくリンの肩から、ケーシーが俺の方を見ていた。 瞳とかは確認できないけど、俺は"見ている"と、そう感じたんだ。 トイレから帰って来た俺を待っていた様で、エメルが「そろそろ……」と言い出した時、アルのおっさんが一つの提案をして来た。 「……では、スゥの経営している"パオパオパオ"で、宜しければこれから親睦を深める為にも食事でも如何ですか? スゥに伝えて、今は半療養中な彼の店のナンバーワンに特別に給仕させますよ」 あれ? その店の名前……どこかで聞いた事がある様な……? 「せっかくですが、僕とディルはまだ仕事で回る所があるので……。アサヒくん、頼めるかな?」 「え!?」 「頼むよ。ね?」 お、俺が一人で接待を受けんのかよ? 何だ、この流れ!! そんな、ウィンクなんかして……お願いとかって、エメル軽く考えてるだろ! 俺がエメルの名前を呼ぼうとした時、"ぐぃ"と右腕を後ろに強く引っ張られ、俺は思わず後方にたたらを踏んだ。 すると、"トスッ"と言うような何かに当たる音と、左肩に手が置かれた。 「では、行くとしますか、アサヒくん?」 「~~~……ああ、分かった……」 そうして俺は喜色満面なおっさんにガッツリ手を引かれて、某歌の"ドナドナ"的にエメル達と別れたのだった……。

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