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第131話 パオパオパオ・No.1!……を探れ? -1-
「さぁ、ここですよ」
「はぁ……」
着いた店、"パオパオパオ"に入りながら、俺は未だにアルのおっさんに手を握られ引かれながら奥の……個室の部屋に連れて行かれた。
この店は手前は食べ歩きや土産の目的の点心等を売って、次に大衆食堂、そして奥は個室を幾つか有した店構えの構造をしていた。
通ってきた道の途中には池があり、その上に橋を通していたり、人工の小さな滝を配置していたりと他にもなかなかな趣向があった。
俺は物珍しさに、アルのおっさんが手を引いて移動してくれているのを良い事に余所見しまくった。
そしてそうこうしてる内に目的の部屋に着いたのか、おっさんは歩みを止め、部屋の前ではチャイナドレスのおねーさんが待機してた。
そんな彼女に扉を静かに開かれ、俺とアルのおっさんは部屋の中に歩みを進めた。
俺達が部屋に入ると、おっさんは目配せでおねーさんと下がらせて……人払いした様だ。
その事は気が付かない振りをして、部屋を見てみれば、中央に机とゆったりとした長椅子があり、ポツポツと料理が数種類並べられていた。
―……並べられた料理を見る限り、『中華料理』って感じだなァ?
見た目にも良い点心、または一品物が、幾つかは湯気を立てながら並べられてる。
点心にいたってはシュウマイ、餃子、春巻、花巻、豚まん、桃まん、小龍包、胡麻団子、チマキ……物によっては同じ物で調理が違う物が並べられている。
そして俺は勧められた椅子に座り、目の前の物達に視線を向けた。どれも美味そうだ……。
「さ、食事会にしては人数が少ないですが、どうぞ遠慮しないで食べて欲しい」
アルのおっさんの言葉に甘えて俺はその幾つかを自分の皿に取り、俺は早速食べ始めた。感想と言えば、
―……ぅま!
全部にこの言葉が付く。とにかく美味いのだ。
そして餃子でも水餃子のそれは"金魚"に見立てられて飾りが施されて、透明なスープの中を泳いでいる様に配置されてたり、見た目にも楽しい。
シュウマイも皮を花弁の様にヒラつかせて、着色されて赤かったり黄色かったり……。
饅頭類も色んな色でカラフルだ。皮のほのかな味に合わせて中の餡も様々で、肉だったり、魚のすり身だったり……白餡、胡麻餡、他にも様々だ。
もちろん、この他にも名前はちょっと分からないが、美味い点心に箸が踊る。
俺がそんな点心に夢中になってき始めた時、アルのおっさんが急に話し掛けてきた。
「……私はあの雨の日、実は半分はアサヒ君をこの店の一員に、と声を掛けたのだが……」
「ふぐッ!? ……けほッ、けは……けは……ッ!」
あの日の事をこの場で言うか!?
「残りの半分は……私の元で君を動かしたかった。でも、あの一件にアサヒ君が絡んでいるとなると、スゥは君をどう扱うか……。スゥのお気に入りあの子の事もありますしな」
「……?」
「…………どうですかな? 今回のエメル君の仕事が済んだら…………私の元に来る、と言うのは?」
「……ぇ……?」
そう良いながら、アルのおっさんは笑顔で自分の膝の上をポンポン、と軽く叩いて俺に見せてきた。
まるで「座れ」と言われている様だ……。いや、言っているのか。うむ?
「君には"蛇"ではない、特別な"椅子"を用意しますぞ」
「は……ははは……?」
"蛇"? そもそも、アルのおっさんの指す"蛇"の意味がいまいち分からないんだが?
「私の膝の上でただ気持ち良くなって、確実に安全が保障されている……。どうかね?」
ぉおおぃ……それって……? それってさぁ……?
俺は行儀が悪いと分かっていながら、何も抓んでいない箸の先を僅かに口内に含んだ。
そしてアルのおっさんの方を見る。顎を僅かに引いて彼を見ている俺は多分、迷っている様な上目使いだろう。
答えは「いいえ」だが、どう答えた方が良いかな? まぁ、俺はそんな上手い断り方は出来ないだろうけど、ちゃんと言っておかないとな。
俺の答えを待っているアルのおっさんはどこにそんな自信があるのか分からないが、緩い笑顔で俺の"良い"答えを待っている様だ。
「アサヒくん?」
「……ぁの、突然だし……無理です。俺、今の生活が気に入っているんで」
「そうか……。………………そうだな、性急過ぎたかな?」
「………………」
「なら、気が向いたら座りにおいで。とても可愛がって上げるよ」
そう言いながらアルのおっさんは腕を伸ばし、俺の皿に新たな料理を並べた。見栄えの良い、そして確実に美味い点心が皿を埋め尽くしていく。
……何だ……? 餌付けされてる気分だ……。
「―……私の助けが必要な時は、君次第でいくらでも助けてあげよう」
「………………?」
「この事はエメルくん達には内緒だよ、アサヒくん?」
「……ぇ、ぁ……」
「まぁ、私の助けは対価が必要だけどね。必要な時は、コレに"シャア・アル、助けて"と囁いてごらん」
そう言うと、アルのおっさんは俺の右手の甲に双頭蛇を模したと思われるY字と、その上に数字の"2"を手元の水で描いてきた。
驚いた事に書かれた模様は淡く発光して、やがて消えた……。どういう構造してんだ……。
「……出来たら、使って欲しいですな。遠慮無く」
た、対価が必要なのに、ポンポン使えるか!! しかも対価の内容は……
「―……いらっしゃいませ。―……遅くなりました。申し訳御座いません」
「―……おお、来たか」
「!?」
俺がアルのおっさんに対価の内容を聞こうとした瞬間、新たな人物が登場してきた。
そして俺は、この遅く現れた人物に衝撃を受けた。
茶色の髪に猫目な釣り目……一見、アジア系美少女……。この特徴を全て兼ね備えた人物……それは、
―……スイ!
な、な、な……何で"スイ"が!? 何であの、エドの家で密かに女装家政夫をしていたスイが双頭蛇のアルのおっさんの部下……スゥの店で働いてんだよ……!?
しかもここでも女装……深いスリットの青いチャイナドレスとかって……。マジハマり過ぎてて驚くわ!
「この"スイ"はこの店のNo.1の子でしてね。可愛がってやって欲しい」
「あの、宜しくお願いします」
うわ! 名前……やっぱ"スイ"なのか!
そうか……スイはエドのトコでの家政夫以外でここでこうして働いて借金を……。
昼はエドの屋敷で、夜はこの店なのか……。ううう……。泣けてくる……。
「―……さて……食事の途中で残念だが、私はスゥの用件を聞きに屋敷に戻る。……後は任せたぞ、スイ」
「はい」
「……………………スイ?」
―……あれ? ちょっとまてよ?
アルのおっさんはスゥと繋がってて、スゥは店のNo.1が怪我してると。そしてその怪我は俺が付けたもので……。
そうなるとだな、『ケイ → スイ』の流れが……出来ないか?
ケイがスイ? スイがケイ? ……どっちも同じか……どうにかして確かめてみないと……。
多分、まだ完治していないと思われる怪我をさせた脚が見れれば一番良いんだが……。さて、どうしたものか……。
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