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第134話 パオパオパオ・No.1!……を探れ? -4-
「……にくまん……。……ミト……」
そして脳内に浮かび上がった、情報屋の兎の獣人である"ミト"。
そうだ。この"パオパオパオ"はミトが以前口にしていた店だったなー、とか今更思い出した。
媚薬に苦しんだ俺を助けてくれたハウルにお礼にと甘いモン食いに行って、俺が食い切れないくらい頼んじまったのを、ハウルがミトを呼んでペロリと平らげたんだよなぁ。そん時、確か……。
"一回無料で情報提供"、してくれるんだったな?
目の前には『特製・葉上肉まん!数量限定!本日は2玉分』の文字が……。
「………………この大きい肉まん、三個、包んでもらえる?」
「はい、分かりました。お包みしますので、少々お待ち下さい!」
俺の注文を受けて大きい蒸篭がパカと開けられ、店員のおねーちゃんは蓋から落ちる水滴がまんじゅうの皮に落ちない様にサッと慣れた手つきで取り払った。おお~……鮮やか。実はこの水滴が皮の上に落ちると皮が変化しちゃうからさ。見た目も大事だよな?
肉まんはろ紙とかじゃなくて……キャベツの葉の上にデン、デン、デン、と蒸篭の大きさに合わせて数個置いてあった。
そのキャベツごと、一つ一つ今度は大きめなろ紙で包んで最後は紙袋に入れて俺に渡してくれた。
おーおー、その敷いているキャベツ、一緒に食べるんだね?ほんんわか味が滲みてそうで美味そうかも……。
ごくり。
誘惑に負けた俺は、最初に頼んだ分とは別に一つ追加して"パオパオパオ"を後にした。
「……さて、次にやる事は……」
そう言いながら俺は図書館近くの適当なベンチに座り、ミトに魔法符で「アサヒだけど、用があるんだ。会えないかな?」と送ってみた。するとミトから、「良いよ!どこに行けば良い?」と直ぐに返信が返って来た。
そこで俺は居場所を教え、ゆっくりと自分用にと買った肉まんを咀嚼しながらミトを待つことにした。
しっかし、この肉まん美味いなー。豚肉はそれこそ大きめ粗引き、具材も丁寧に作られている。そしてキャベツをもぐもぐ……。味が滲みて美味い……。まんじゅうも大きいながら、フカフカ、あっさりでこれだけでも結構食べ飽きない……かも。
そんな感想を肉まんに下しながら、ベンチで"ほけー"と咀嚼嚥下活動をしていたら、声が聞こえてきた。
「―……アサヒー! お待たせ! 俺に"用"なんだよな?」
おお?俺が肉まんを食べ終わった頃に、タイミング良くミトが走って現れた。ナイスタイミング。
「ミト、これお土産。パオパオパオの特製・葉上肉まん」
「??????」
俺の出会い頭の台詞に、ミトは盛大に"?"マークを飛ばしている。
そりゃそうだよな。急に呼び出しておいて、第一声がコレじゃぁな。
そう……俺はスイの事を調べてもらう為に、情報屋のミトを魔法符で呼び出したのだ。
「実はお願い……調べて欲しい事が……」
「……ああ! ハウルとスイーツのあの時タダ情報提供約束のか! 良いよ~。ただし、あんまり複雑な情報収集は勘弁ね? タダってバレるとラギ様に怒られちゃって、お仕置きされちゃうからさぁ~」
ミトは自分が言った内容を覚えてたんだな。これは助かる。話が早いじゃないか。でもさ、"ラギ"様って誰?
「ラギ? ……様?」
「そう。俺の一番の上司様~、ってわけ。まぁ、俺が所属している情報屋の総元締めのお方なのだよ!」
「へ、へぇ?」
俺の言葉にバーンと胸を張ってドヤ顔でミトが言ってきた。情報屋の世界も色々あるのか?
「……あ! でも、ラギ様にわざとお仕置きされるのも良いかも……。他の奴等より一緒の時間が得られる~……えへ、あは、あははッ。あッはー! ラギさまぁあ!」
おいおい、ミト……そんな頬を赤らめてトロンとした顔……どうしちまったんだよ? しかもクネクネと身を捩じらせて……。短めなウサ耳をピコピコ忙しく動かし、なんとまぁ……。
「―……おっと! 妄想に飛んでた!! それで? それで、用件は何?」
「ああ。そうだな。用件は"パオパオパオのスイ"って奴の事を調べて欲しい……」
「ええー!? スイ? あの、スイ!? スイを調べるの!?」
何だ何だ?今度は"スイ"に対して、身を乗り出した反応をしてきてるな?
「頼む」
「うぅ~……。こういうのは大概、知りたくない事を知っちゃうんだぁ……!」
「そうかもしれないけど……な? ミト~……」
「……アサヒ、ずっこい! その顔でお願いされたら、断れないじゃんよぉ~……」
どんな顔なんだよ、それは……。
「でも、スイは良いよねー。俺、密かにファンなの」
そう俺に言って、ミトは「しょーがないか。引き受けるよ!」と俺に協力してくれる意思を示してくれた。マジありがてぇ。
「―……あのさ、ミト。俺、しばらく仕事でここを離れるんだ。報告は……」
「ん? そうかぁ。んじゃぁー報告は魔法符でするよ。見たら、一応燃やして? この流れで良い?」
「良いよ」
俺の言葉にミトは「おけ」とだけ答えて、瞳を閉じて何かを考える素振りを見せてから、再び瞳を開いて俺に話し掛けてきた。
「なぁ、アサヒ? 今後、情報を欲しかったらこうして俺を呼ぶのも良いけど、ショットバー『moonbeam』に行ってみなよ」
「むーんびぃむ?」
「そうそう。そこはラギ様がマスターとしているんだけどさ、色んな情報屋や情報、人物が集まる場所でもあるんだ。便利だよー? 俺の仲間も動いてるし」
「そうか……でも、ショットバー……って、酒……だよな?」
「まー、そうだね。"酒"だね。でもまぁ、幾つかソフトドリンクとかあるから。何? アサヒは酒はダメなタイプ?」
「ダメ、ってか……弱い?」
以前のルツとの事を思い出して、俺は記憶を辿りながらミトに答えた。
酔うと……何だか、こう……むしょうに他人にムラムラ絡みたくなるってーか……。ま、相手にもよるかもしれないけど。
「ふ~ん……? ……なぁ、ところで……この肉まん、今、食べて良い?」
「ああ、そうだな。温かい方が美味いもんな?良いぜ」
「ヤッタ! ありがとな、アサヒ~。……んぐ、んむ、む……むはぁ! ホカオカ肉汁! ジューシィ~~な味わい!! キャベツのしんなり具合が最高だぁ~! ああー、労働中の身体に滲みるねぇ……。うん、サイコーっす!!」
美味そうに肉まんをパクつくミト姿の、口の端からの液体が涎なのか肉汁なのか……ちょっと判断つきかねる。
でも、まぁ、美味そうに食べてくれてるから、買ってきて良かったなァ。
「―……アサヒ、ありがとな! 最高の差し入れだったよー」
「は? もう食べ終わったのか?」
「終わったよ! 情報屋は確実さと速さが大事だからね!」
ニンマリ笑顔で俺に答えると、ミトは「んじゃ、俺行くね! まだ仕事残ってんだ~。じゃね!」とセカセカと俺の元から飛び出して行った。
俺はそんなミトに「来てくれてありがとな。ミト、頼んだぞー!」と声を掛けると、「任せろーい!」と手を振りながら答えて……粒になって走り去ってしまった。
消えたミトの方向そ少し見てから、俺は天上に薄っすらと現れ始めた"それ"に目を細めた。
「"moonbeam"……"月光"……ねぇ?」
ミトからの情報は俺に状況に対する"一筋の光"になるか、それとも……勝手な解釈だけど、"ゲッコー(ヤモリ)"とか……。
「―……ヤモリなら隠密行動として……壁とか、登れたりして?」
―なんてな。
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