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第139話 恋する看板娘ちん -1-
「――……おはよ?」
「いや、もう……昼だ。アサヒ」
瞳をシパシパさせながら言葉を発した俺に、ルツの丁寧な訂正が加えられた。
そうか。今は"昼"か……。
「……ひる…………………………腹、減った……」
―ぐぎゅぅううう……
「アサヒ、腹の音……狙い過ぎだろ」
「んなこたないよ、ルツ。俺は昨日から腹ペコなんだよ。ははは……っと……」
腹を擦りながら俺は腹筋を使って上半身を起こした。
身を起こしてからも腹を撫でながら座っていると、ルツが「何か作ってきてもらうか?」と声を掛けてきた。
「あー……ッと、俺が行くよ、ルツ~。ついでに自分の部屋でシャワーして着替えもして良い?」
「おう、良いけど」
「ん、あんがとなー、ルツ。そうだ、ルツは何か食べたいのある?」
「特には無い……。まぁ、パンが食べたいかな? 基本、任せるよ。代金は……」
「分かった。あとさ、お金は俺が出すから、別に良いよ」
「え? でもな、割り勘……」
「んじゃ、ルツの支払いはこれで良いよ。それじゃ、行って来るなー、ルツ! ……ん……、ん~」
「……ン? ぁ、アサヒ?」
突然の俺の口付けに明らかに戸惑ってるな、ルツ。
「ハハッ! "行って来ますの"ちゅー」
「んな……!?」
何か言いたげなルツを置き去りに、俺は素早くルツの部屋を出た。
さーて、サクサク自分の用事を済ませて、ルツんトコで食事する為に『熊の左手』に行かないとな。
大概の料理は以前見たメニュー表から察するに出来るみたいだし、そこは大丈夫か。
パン以外は任せるって言われたけど、何を作ってもらおうかな……?
あ。そうだ。ついでに弁当頼んでおこう!
ネルは居るかな?
そこで俺は自分の部屋に戻り、必要な事とオッチャンを撫で回して愛情充電を済ませていそいそと熊の左手に向かった。
すると、上手い具合にネルが一人でおしぼり折りをしていた。
そんなネルに話し掛け、マキちゃんの事を聞けば明らかに瞳を輝かせて会話内容に飛びついてきた。
「んとね、マキちゃんは色んな料理たくさん知ってるの。ネル、マキちゃんの料理なら何でも食べれるんだよ!!」
「……そうか~……ネル、良かったな」
「そーなの! マキちゃんは美味しくてすごぉいのー!!!」
……良く分からないが、腕の良い料理人なのは分かった。俺は細かい事は気にしない。よって、ネルの言葉内容が大体把握出来れば、それで良いんだ。
「んじゃ、ネル……そのマキちゃんに何か軽食と……クエストに持っていく用の弁当を作って欲しいんだけど。お願い出来ないかな?」
「出来るよ!」
俺の言葉におしぼり折りを止め、ネルは"タタター!"と台所へ駆けながらマキちゃんに叫ぶ様に話しかけていた。もうさ、ネルは走りながら会話が通常なんだろうな。
「マキちゃ~~~ん! お弁当のオーダー! んとねんとね、たくさんでおっきいの作ってー!!」
「はいは~い、了解~、ネルちん」
「わぁい! ありがとう! ……アサヒ、アサヒ! 良かったねー! マキちゃんがおいしーの作ってくれるよッ!」
「そっか。楽しみだな……」
台所のマキちゃんから直ぐにトンボ返りで俺のところに駆けて来て、興奮気味にネルが報告してくれたけど、大丈夫か?
そんなネルの後からマキちゃんが台所から出て来て、俺に確認と微笑みをくれた……。
「お弁当は君用で良いかな?」
「……あ、はい……」
うぉ! すげぇ美人! 男? 女? マキちゃんの性別が分かんねぇー!!
声質と背丈とかは男っぽいけど、顔と口調がどこか女らしい……ってか……。
はぁぁ~。これは、マジ見とれる!
「ふふ……俺は"マキシ"。一応、ここの宿の雇われ料理人だよ。宜しく」
「あ、俺、"アサヒ"、って言います……宜しく」
「うん、アサヒくん、宜しくね? 俺の事、気軽に"マキちゃん"って呼んで構わないから」
マキちゃん! マキちゃん! マキちゃん! マキちゃん! マキちゃん!!!!
マキちゃんの飯、いつも最高です!!
……ヤバイ。俺がネル化してしまった。
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