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第143話 湯煙ちゃぷちゃぷ紀行 -2-

「……ここが……」 俺は目の前に建てられている温泉宿の渋い藍色の大きな暖簾を見て、思わずこの世界のごった煮な緩さを思い出してしまった。 「…………中途半端に懐かしいな……、何か……。うむ……」 「? アサヒさん、どうかしました?」 「んー~~にゃ、独り言ー」 「そうですか? ……まぁ、行きましょうか? こっちです」 「おー行こう行こう」 危ねー。危ねー。微妙な俺の"記憶喪失"な立ち位置が揺らぐところだったぜぃ。 そんな感じで適当に誤魔化して、俺はハウルの言葉に乗っかり温泉宿の暖簾を潜ったのだった。 そしてハウルを前に幾つかの角を曲がり、奥の方に連れててこられたのは温泉入り口の戸……ではなく、貸切完全個室な温泉部屋だった……。 「せっかくなので……貸切の浴室、借りました。ある程度広いですし、疲れたら寝れる部屋もあるんでゆっくり入れますよ」 「おおッ! ハウルナイス!!」 さすがハウルー! ここを利用して、色々便利な事を知ってるんだな! ハウルの言葉に俺は喜々としてトタトタと脱衣所を横断し、ガラリと横引きの戸を開ければそこには……。 「おおっ!? 風流、ふーりゅー、だな、おぃ~~~!」 「そうですか? アサヒさん、気に入ってくれました?」 「そうだよ! すげぇ……! ハウルありがとなー、気に入ったよー。俺、俄然入るの楽しみになってきたし!」 ハウルの質問に答えながら、俺は前方に広がる風景にテンションが一気に上がった。 だってさ、湯船に使われているのは「樹齢何年なんですか!? バームクーヘンですか!?」、って位の太さの切り株をくり貫いて作られているんだぜ!? 俺……いや、ハウルが大の字になっても余裕で浸かれそうな底の広さをしてるし……。ま、流石に泳げないけどな。 こう思うのも、ハウルの方が俺より背丈や体格が良いからなんだけどさ。 んでもだな、男二人が浸かってもまだ余裕そうだってのがポイント高いよなー! しかもさ、良い~~い匂い。深呼吸……しちゃいたくなるような、さ。ああ……木の香りは落ち着くなぁ……。 そしてニンマリ笑顔の俺はそのまま振り返り、その勢いのまま後方のハウルに抱きついた。 「ハウル~! 早速入ろう!」 ぅお~! これはサクサク脱いでしまおう! ま、ネチネチと脱ぐ必要無いしな。 ―パサ! プチプチ…… 「あ、あの、自分で脱げますから……! 大丈夫です……!」 「んぉ? そ?」 どさくさに紛れてハウルの服を脱がしに掛かったんだが、アッサリ断られた。ちぇー。 ……ならさ、ならさ、ならさぁ~~こっちでスキンシップしよーぜー、ハウル~~~…… 「…………んじゃ、流しっこ、しような? ハウル~。まずは俺がハウルの背中、流すなー?」 俺は笑顔でそう言って、モクモクと大量に泡立てたタオルをハウルの前で振った。 だって貸切! 俺達以外誰もない空間……! ……そう、俺達以外居なかったら、"流しっこ"敢行なのだよ!! ふっふっふー! しかもハウルはこんな良さそうな場所を確保してくれたんだ! サービスしちゃおうかな!! そして終わった俺はハウルの後ろに陣取り、ワシャワシャと泡立て済みのタオルでハウルの幅広の背中にゴシゴシを開始した。 ―ゴシゴシ……ゴシゴシ…… ……んん~~~……ひろーい。面積ひれぇなぁー、ハウルー。軽く触手も動因したくなっちまうなー。……まぁ、しないけどさ~。 そんな感じでゴシゴシしていたらハウルの真新しい傷やら古傷やら……が気になってきた。 浅いのや深そうなのが結構あるなぁ……。この世界の治療法って、どんなのが主流なんだ? とりあえず薬草や治癒魔法があるんだよな? 外科手術とかもあるとして……。ハウルは冒険者として、全部経験してそうだな。 ……そうだ! この温泉のお礼も兼ねて、怪我の傷を微力ながら治療しようかな! 「ハウル、一番新しい怪我……。この前……怪我したトコって……どこだ?」 「この前怪我した処ですか? もう大分完治してますけど……ここ、です」 「……そっか……」 言われながらハウルの身体に視線を向ければ、確かにそこんは大怪我だったのではと易々と予想出来そうな大きな傷が薄っすらと残っていた。 ……こうして見るとハウルって、やっぱイイ身体してるよなー。胸板……厚いもんなぁ。俺もまぁ、多少は有る方だけど……鍛え方の差かなー、これは。男だけど、美乳って感じだよなー。けしからん。 そんな感じでハウルの身体を見てたら、俺の内側にとある感情が湧きあがってきた。 こんな身体を前に、俺はどうにも抑えられなくなったんだよ。やっぱ、ハウルの身体はけしからん。 ……ま、とりあえず治療……治療……。 そこで俺は胸下から左脇腹に残る傷に、治癒魔法を乗せた手でゆっくりと撫でて治療を施したのである。 かーちゃんも言ってたけど、俺の治癒系統の神聖魔法は他と比べると高レベルまで使えるらしいから、ハウルの傷も思ったより早く満足のいく出来で完了した。 「アサヒさん、ありがとうございます」 「んー。いやいや~。もっと早くこうしてやれば良かったな。悪いな、ハウル」 「そんな……」 ……治療は完了したが、俺は名残惜しげにハウルの素肌に触れながら会話を続けた。 「……ところでハウル、俺さぁ……今、ハウルに触れて、すげぇ……とある感情が湧いてるんだけど」 「え? 何の感情ですか?」 「……んー? 簡単に言うと、…………"ムラムラ"? つまりさぁ? ……ハウルと"シたく"、なっちゃったんだよー」 「ぇ……ええぇ!?」

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