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第151話 発進!カタツムリ商隊! -4-
ついについについに……この"出発"の瞬間が来たんだなと、俺は一人じんわり浸っていたら、アリエントは慣れているんだろうな早速自分の荷物をゴソゴソと……。
「……何も起きなきゃ、俺達は基本シーフィールムまで暇だ。まぁ、今日の野営地までまだ時間が有るし……飲むか」
「飲むの!?」
「飲む。これが俺のスタイルだ、アサヒ」
そう言いながら荷物から酒瓶を探し出し、備え付けの棚からグラスと水を持って机の上に置いたアリエント。
……まさか……"酒だけ"じゃないよな?
そんな事を考えていたら、ゴソゴソと袋をやりだして机の上にカリカリのガーリックパンを切られてはいるが、一本分展開してきた。
…………ぐッ! ガーリックとバターと塩とパンの匂いの四重奏で、俺の胃を遠隔攻撃してきやがって!
アリエント、それは飯テロだぞ! こ、こうなったら俺の辿る道はただ一つではないかな? んんんッ??
「……んじゃ、俺は食べる」
そう。マキちゃんのお弁当を食べるのだ。
そして俺は宣言通りに弁当を展開した。
マキちゃん作のお弁当内容は……
パンケーキが三種、クルミパンにレーズンパン、から揚げ、卵焼き、海老の香草焼き、外はカリカリ内側トロリなチーズ乗せのミニハンバーグ、タコとカニさんウインナーにブロッコリーやカリフラワー、ニンジンのほんのり塩胡椒味の茹でただけの物、アスパラベーコン、……等々。後は恐らくネル作のチョコチップクッキー。だってさ、このクッキーのチョコチップの量は……ネルしかしないと思われる量だし。サービスと受けとっておこう。味は悪くないんだよ、チョコチップが多いだけでさ。
……うん、至って普通だ。普通なのが嬉しい。
「……ぅお? マキちゃんのか。相変わらず美味そうだな。……一部見慣れないクッキーがあるが……」
「そうだけど、アリエントはマキちゃんのお弁当は知ってるのか?」
「ルツので何回か……な」
そっか。ルツとアリエントは仕事を何回かこなしている知り合いなんだな。
「……んじゃ、アリエントも良かったら食べる? 適当に摘んでくれて良いからさ。あ、クッキーは多分宿屋の看板娘の作品だと」
「そうか? ……んじゃ、お言葉に甘えようかな……。それじゃ、アサヒも良かったらこれ食べてくれ」
アリエントはそう言って、再び荷物をゴソゴソ……。そして今度はオリーブの香り高いトーストを数個、机の上に置いた。
オリーブパンにはピンク色の……たぶん、ローズソルトの岩塩? それに、ローズマリーが散らされていて、シンプルながら食欲をそそられる……って、アリエントはパン、好きなのかな?
俺が「ありがとーな」と言っているうちにアリエントは、まずはマキちゃんの弁当から柔らかジューシーそうなから揚げをパクリとした。
口を動かしながら「美味い」と言って、アリエントは今度はグラスに口を付ける。
俺はしっとりぎみのパンケーキをパクリと……。そしたらさ、このパンケーキ……蜂蜜とパターを練り込んでいるみたいで、ホンワカじゅわりと俺の口内に真の味が広がってさぁ? 思わず瞳を閉じで自分の世界で堪能しちまったぜ。
残るパンケーキは多分、チョコ味と緑で……抹茶? 全くこの世界は何でも有りそうで便利だな!
……それにしても……今、この俺達のコンテナに乗り込んで来る奴がるとしたら、ソイツはこの匂いの刺激に確実に口内に涎が溢れてしまうだろう。
もう、軽い行楽状態だな。どちらの食べ物も美味しい。そして窓の外の風景でも楽しみながらいると、どうも旅行気分になっちまう。
俺はマキちゃんのお弁当とアリントからの物を頬張りながら、そんな事を考え窓の外を見ていた。
そして気が付いたんだけどさ、このコンテナのカタツムリ行列はそこそこのスピードらしく、景色の流れが案外速く感じる。なかなか優秀な物らしい。
俺も何か乗り物、欲しいなー。エメルにハスマヒナの技師さんをいつか紹介してもらおうかな……。だって、外の世界を歩くなら、乗り物があった方が便利じゃん? 俺だって生前は……バイクで……。……うん、まぁ、安全第一だよな。ああ、俺も安全な乗り物が欲しいなー。
そして外からアリエントに視線を移した時、俺はふと気になってしまった。
「……ところでアリエントの酒の……種類は何?」
「ん? この酒は"ウィスキー"だ」
「アリエント、ウィスキー……好きなのか?」
俺の質問にアリエントはグラスをユラユラと揺らして、少し間を置いてから答え始めた。
「んー? 好き、って言えば、好きかな? ウィスキーはこうして瓶詰めされてりゃ、大体味の変化は起こらないからな。いつでも同じ味が楽しめるし、こういう稼業ににゃ管理が楽で便利だ」
「へぇ? そうなんだ」
「おう。確かな。あと、度数も高いから身体があったまり易いし、有る程度薄くても飲めるしな」
「ふーん……」
「アサヒ、飲んでみるか?」
「い……いや、いらない……」
あ。この流れは……マズい? ルツの言葉が過ぎり始めた。酒は注意。アリエントの勧めは注意。
「ちびっと、いくか?」
「ちびっとも止めとく……」
アリエントの声と視線から逃れる様に俺は俯いて、何とかやり過ごそうとした。
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