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第152話 発進!カタツムリ商隊! -5-
「……酒はダメなのか?」
「んー……飲めるけど、ルツに釘打たれてる」
「……何だ、アサヒは……ルツの言い付けを守るお子ちゃまか。ま、ルツは真面目な奴だからな。そうだな、子供に酒を飲ませちゃ、ルツに怒られちまうな」
「お……お子ちゃま!?」
クツクツと小さく笑いながら、何て言い草!! 俺だって完全に飲め無い訳じゃないんだからな!
ただ、ちょ……っと、羽目を外し易いと言うか、絡み酒と言うか……。イチャイチャ傾向と言うか……。言うか……。ぃう、……うがー!!
でもさ、でもさぁ!? 一応飲めるのに、何だかこのまま子供扱いはムカついてくるってーかさぁ!
そしてこの時、俺の中に閃光が走った。エウレカ! 閃いた!!
…………そう。そうだよ! ……"舐める"! ペロペロッと軽く舐める、だけなら……。
「…………俺にもそのウィスキー、くれよ! アリエント!」
「へぇ? アサヒ……飲むんだ? これ、甘いジュースじゃなくて辛い酒だけど?」
「知ってるよ! 飲む……ってか、舐める!」
「舐めんのか?」
「舐める」
「……"飲む"、ならやる」
「い、いじわる言うなよ……!」
ちょっと情け無い俺の抗議の声に、アリエントはまたクツクツ笑うと一つの妥協案を言ってきた。
「んじゃ、コレから "舐めすくって飲め" よ」
「ええ?」
「とりあえずストレートが一番、味が分かるだろ?」
そう言うと、アリエントは俺にストレートの液体が入ったグラスを渡してきた。
量は……かなり低目。だけど、確かにアルコールの香りが立ち上っている。
そこで俺はグラスを傾けて中に舌を伸ばして、口元に近づいて来た液体に舌先で触れた。
「……んっ……ん……」
―ぺちゃ……ぺちゃ……
俺のそんな様子を、アリエントは水割りのグラスを掲げて見ている。俺の反応をつまみにでもしてるのだろうか?
「……うぇ……濃い……? これ、濃いよ……。"スー"ってきた」
「ま……その感想は当たり前だ。お前、割らないでストレートだからな、それ。…………話し振りからだと酒に弱そうなのに、まさかマジでストレートで試すとは思わなかった」
「うううぅ……。何だよ、ストレートで試す様に言ってきたのはアリエントだろ? でも、こんな強そうなの……。ルツの言いつけを守れば良かった……」
少しの後悔と飲める事を証明した満足感が合わさり、俺は気分が早くも高揚してきた。身体の奥から、不思議と"じ~~ん……"とした痺れる温かさが湧き、広がりを見せ始めたんだ。
「………………それで? "舐めた"感想は?」
「……森っぽい……感じ? ヒノキ?」
「…………そうだな。慣れれば美味いよ」
「うん」
「水、入れてやるよ」
「……ん……」
アリエントに入れられた少し温め……常温なんだろうけど……、程好く薄められたであろうウィスキーを俺は結局最後までチビチビした。
チビチビしながら、料理もとても楽しんだんだけどさ……?
……結局、こうなるんだ……俺は……。ルツ、アリエント……すまぬ。
「……あれーんと! 膝枕!」
「は?」
「ねる! ねむい! ひーざーまーくーらー!」
三拍子の言葉を発して一方的に決めて、俺は呆気に取られているアリエントの横に移動して無防備な太腿を頭で素早く占拠した。
そして寝心地の良い場所を探す為に頭を這う様に動かして、そんなポイントを探していて気が付いたんだけど……。
「……硬い……。アリエントの太腿、かたい……。ん~~~この部分をもうちょっと……」
「……はぁ? 鍛えてるんだから、硬いのは当たり前だろ!? 柔くてどうする……って、……おい、揉むな! ちょ……今度はぐりぐりと額を押し付けるなー!!」
アリエントもハウルと同じで鍛えてるのかー。そりゃーそうかー。そうかもなー。んー、こうした硬い枕もなかなか良いかもなぁ~。
俺は顔を紅くして叫ぶアリエントを見上げ、左の口角を上げてニヤリと笑って見せた。
「……ふ……。……だが、それがいい~。…………ありえんちょ、……おやすみぃ~……………………ぐーぐー…………ぐぉ…………ッ……」
「は!!? ……あ、ぁ、おい! 起きろ、アサヒ……! アサヒ……!」
近いのに言葉を発すれば発するほど遠くなるアリエントの声を聞きながら、俺は本格的に寝る為に身体から力を抜いた。
アリエントって、人が好いのかもなぁ? 俺のこんな行動を受け入れてくれてるし。直ぐに揺り起こすなり、身体から離せば良いのに……。
……なのに俺の頭はアリエントの太腿の上に乗ったままで、彼の体温と太腿の弾力が感じられた。
だから、アリエントが俺の頬を抓ったり、撫でたり髪の毛を捩ったりするのを俺は眠りの縁で感じながら、好きなままにさせた。
…………そうする事でアリエントの纏う、どこか硬質な空気が柔らかくなっていく………………仲良くなっていく気が、……したんだ……。
ぐぅ……。
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