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第153話 治療とステップアップお勉強会 -1-

コトコト……コトコト…… 何かが僅かな振動で揺れる音と、自分を揺らすそれに俺は目蓋を緩く上げた。 ……何だろう? 目蓋を上げて寝そべったまま、辺りをキョロキョロと見れば、やや薄暗いと感じる室内に座っている人物……。黒いピンと立った犬耳に、同色のしなやかな細い尾……の、アリエント。 …………そうだ、今はエメルの依頼を遂行している最中で、俺は彼の輸送コンテナの一つに乗っていて…………アリエントの酒に案の定、酔って寝たんだった。 「…………アリエント……、アリエント……」 「……ん? どした、アサヒ? 起きたか」 俺はまだぼやけ気味だがアリエントに呼び掛け、彼の言葉に「うん」とだけ返答をして俺はその場に身を起こした。 「……はぁああぁぁ………………だるぃ……」 「水でも飲むか、アサヒ?」 「ぅん……飲む……」 俺に甲斐甲斐しく接してくれるアリエントは、細くしなやかな黒い尾を揺らしてどこか機嫌が良さ気だ。 そして俺はと言えば、アリエントの膝からいつの間にやらクッションの上に頭にあった様だ。 う……。まだ頭がぼやける……。どこかチカチカする。 俺が俯いて居ると、視界に入る様に水の入ったグラスがアリエントからもたらされた。 片手で受け取り、「ありがと」と礼を述べて俺はグラスを受け取り、中の水を気が済むまで身体に流し込んでグラスから口を離した。 「……っぷぁ! 水が美味い!」 「……一気か、アサヒ」 アリエントの言葉に「んッ」とだけ声を出して、俺は口元を手の甲で適当に拭った。 渡された水は温くなく、冷えた物だった。もしかしたら、何らかの冷蔵庫的な物があるのかもしれない……。 俺がそんな感じでいたら、急に室内が明るくなった。 「……明るく……?」 「ああ、そろそろ夜に差し掛かるからな。明かりを点けた」 「そっか……夜なのか。…………俺、結構寝てたんだな」 せっかく外の景色を見る良い機会だってのに、もったいない事をしたな。酒もだが、これも失敗した。 俺が個人的にガックリと肩を落としている時、対照的に明るいエメルの声が頭上から降って来た。 「……んー……、コホン、コホン……! みんな、コンテナ内でどう過ごしているかな? そろそろ今夜の宿泊場所に着くから、そのつもりで。以上!」 ……なるほど、そろそろ野営地に着くのか。 そしてエメルのそんなアナウンスの後、直ぐに脇道にコンテナは逸れていった。 一応は獣道ではないそれなりの幅の道を進んで行き、やがてコンテナが止ったかと思えば、頭上から再びエメルの声が降って来た。 「みんなー、今日の野営地に着いたから、一旦外に出て集合ー」 エメルの言葉に俺とアリエントはもちろん、全員がコンテナから降りてエメルの元に集まった。 「みんな、コンテナ内はどうだったかな? そんなに窮屈じゃなかったと思うけど……」 エメルはそう言いながら俺達をぐるりと見回してきた。そんなエメルに誰も不満の声を出さなかった……って事は、不満無くここまで来たということだな。 俺達の態度にエメルもそれを感じたのか、一つ頷くと別な事を口にして来た。 「今日の野営地は比較的安全だと思うけど、魔物っての強さがピンキリだから十分注意して欲しい」 そうだな。厄介だよなー。出来れば厄介な戦闘はしたくない……。 「あと、この振り分けで今から見張りをしていくから……」 そう言うとエメルは地面にそこらにあった木の枝の端で、ガリガリと円グラフみたいな物を描き出した。 その円グラフは適当に分割線が引かれており、エメルはその線と線の間を枝で行き来させながら「最初のここから、ここまでは僕とディルで見張るから……」と説明を始めた。 どうやら見張りの順番と、簡易的な時間の早見表らしい。 その表からいくと、俺とアリエントは最後の深夜から早朝にかけてが見張りの役割だと分かった。 「それじゃ、見張る時はこの砂時計を次の人に渡してね。この砂時計が終わったら、交代だよ。それと、アリントくんとアサヒくんまで行って終わったら、一応一言声はコンテナ内に掛けるけど出発するから、そのつもりで」 そしてそんなエメルの説明が終わり、俺達は解散、それぞれのコンテナへ戻った。

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