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第155話 治療とステップアップお勉強会 -3-

何とも、タイミングの悪い……。 しかし、ウサギカエルが逃げて既に居ないのに、小鬼は俺を見たまま動かない……。 よく見れば小鬼は何かと格闘した後なのか、腕・太腿、腹に線状の裂傷が幾つも出来ていた。これは先程逃げたウサギカエルの物では無い……。だってあの魔物はこんな……線状の裂傷が残る手足をしてない。そしてそんな前面に対して背中は綺麗なもので、それはこの小鬼が対峙した何かから逃げなかった事を意味してる気がした。 「……ぁのさ、狩りの途中……邪魔したみたいで……すまな……」 ―ぐぎゅうううううううううう! 「……ッ……!? ……あ? ……ぅ、あ、ぁ、あ、ぅああああああーッ!!!」 「!???」 な、何なんだ!? 自分の腹の音で覚醒して、逃走??? 「………………さ、散策の続き、しようかな……」 俺は叫びながら去って行った小鬼に面食らいながらも、散策の続きをする事に決めた。状況による、気持ちの切り替えは大事だぜ……! そして俺がそこを離れ、森の中を適当に散策している内に、澄んだとある場所に辿り着いた。 「……泉……?」 そうだ。ここで少し休憩して、コンテナに戻ろう。 俺はそう決めて足を休める為に泉に近づき、座るのに適当そうな場所を探している時に、ある物を発見した。 「あれ? この服は……」 俺は地面に散乱している布と思ったのは服で、おまけに……土埃に塗れ、所々破けている。 そんな服を見て、俺は心臓が変に跳ねた。 「…………まさか……」 想像したくない想像を浮き上がって来そうな時、鋭い声が飛んできた。 「―……俺の服、盗るな!」 「……は!? 盗ってない!」 声のする方を見れば、全裸の子供。…………先程の小鬼が……。 「……ってか、何かで……。前、前くらい隠せよ……!」 「んぉッ!?」 俺に言われてから、小鬼は手近な大きめな葉っぱで股間を隠した。葉っぱ一枚あれば良い…………じゃない!! 「とにかく、俺は盗ってない! 早く服を……」 「身体を洗ったばかりで服はまだ洗濯前だから、服は着ない。汚れる。フンドシを締めるから、少し待つ」 「そ、そうか……」 妙な冷静さが窺える返答を俺に返し、小鬼はフンドシを締め終わったらしく俺に「良いぞ」と声を掛けて来た。 掛けられた声の方を向けば、適当に身体を拭いてまだ濡れている身体の上からピシリと白いフンドシを締めた小鬼が立っていた。 真っ直ぐに俺の方を見て警戒しているのが丸分かりだ。ま、しょうがない。 しかし、ここでこの時空気を読まない音が…… ―ぐきゅ……ぐううぅう~~~…… 「………………なぁ? これ、食べるか?」 「…………!!」 俺の言葉と差し出し開いたハンカチの上にあるクッキーを見て、小鬼は目を驚きに丸くしたんだ。 だってさ、あんな腹の音を聞いたら……あげたくもなる、ってモンだ。うん。 そして俺達はそこら辺に倒れていた木に並んで座り、俺は小鬼に先程見せたクッキーを渡した。 小鬼はそれを「ありがとう」と素直に受け取ると、サクサクと隣りで食べ始めた。 顔と食べる反応を見ている限り、どうやら彼はネルのクッキーを気に入った様だ。美味しそうに食べてる。良かった~。 そんな小鬼の全身をザッと観察してみる。泉で身体を洗った状態で今はフンドシ一枚だから、悪いけど観察し易い。 見れば、やはり裂傷痕が生々しく、同時に痛々しい……。 見ている感じ動ける様だけど、本来の動きは出来なさそうだな……。 ……俺、これ……治せるかな……? そして俺はそんな考えの下、クッキーを食べ終わった小鬼に話し掛けてみた。 「…………さっきの獲物を俺のせいで逃がしたお詫びに、その怪我の治療するよ。そんな傷だらけじゃ、上手く動けないんじゃないか?」 「まぁ……、本調子まで時間は掛かる……」 「ならさ、治すから。さ、こっちに来いよ」 「……うン……?」 俺の声に小鬼は目の前に来て、少しモジモジと身体を左右に揺らして次の言葉を待ってる様だ。 チラチラと俺の方を見て、少しの怯えと好奇心が混じった視線を俺に寄越している。 俺は小鬼のそんな視線を受けながら、座っている状態の俺の太腿の上をポンポンを叩き、微笑みを彼に向けた。 「さ、ここに座れよ?」 「……分かった」 俺はそんな小鬼を膝の上に座らせて、治癒魔法を掛けてやる事にしたのだ。 そして、そんなに怯え無くて大丈夫だと、そんな気持ちを込めて俺は彼に治癒魔法を発動させた手をかざした。 後ろからゆっくりとした動きで灰褐色の肌を撫で、淡い癒しの光で治療を施していく。 そうしながら俺は小鬼に疑問に思った事を聞いてみた。 「あのさ、何でこんな怪我をしたんだ? まだ……新しいよな、この裂傷……」 「今日、大きな獲物、勝負挑んだ!」 ……やっぱり、そうだったか……。 「でも……、負けた」 「何でそんな……無茶そうな勝負を……」 「近々受ける、大人になる為の儀式に挑む訓練!」 へぇ? そんなのが有るんだ? 大人になる為の儀式に……挑む訓練……、ねぇ? 「この姿だから、負けた……! きっと、そう! 大人の身体なら、俺が勝ってた……!」 そうプリプリと言いながら小鬼はシャドーボクシングの様に、拳を作った左右の手を前方の想像の敵相手にパンチを数度繰り出した。

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