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第163話 俺的には"デカイ・モフモフ・ツヤツヤ"。 -5-
「……えーっと……友人の…………手助けをしてきた!」
「何だ、それ?」
アリエントの前に戻ってきた俺は、開口一番にそんな事を彼に告げた。
そしてアリエントは当然だが、要領を得てない。突然過ぎて、当然だ。アリエントは普通だ。
しかし、ここでマゴついている訳にはいかない!
そこで俺は、更にアリントに近づき、迫る様に話を無理矢理繋げた。
「と、とにかくだな! アリエント!」
「お、おう?」
「これ、どーしよ……」
「"これ"?」
言いながら片眉を器用に別々に上下させたアリエントを連れて、俺は木々の葉で隠したブラック・モフモージャ・ストロングホーンの場所へ連れて行った。
一応、軽く血抜きの処置を施しておいたけど……。大丈夫かな?
そんな事を考えながら、俺はアリエントの前に仕留めたブラック・モフモージャ・ストロングホーンを晒した。
「さっきの"これ"は、このブラック・モフモージャ・ストロングホーンの事なんだ」
「……ブラック・モフモージャ・ストロングホーン……。マジモンか、アサヒ……」
「ハイ……。これを狩るのを手伝ってました……」
「…………エメルに相談しよう……」
「うん……」
目の前のブラック・モフモージャ・ストロングホーンから視線を放さずに、アリントが俺にそう提案してきた。
そうだな。エメルだ。リーダーで商人のエメルに丸投げ相談しよう。
―……夜中、だけど……。
俺はエメルを起こすのを悪いと思いながら彼のコンテナに行き、半分ぽんやり気味のエメルをブラック・モフモージャ・ストロングホーンの前に連れた来た。
するとさ、エメルの瞳に突然に光が宿って覚醒したんだ。
「ぅわ!? ブラック・モフモージャ・ストロングホーン!?」
「ああ、そうなんだ、エメル……」
「稀少・美味い・高価! 稀少・美味い・高価!」
……エメル視点だと、これはそういう解釈になるのか……。
確かトゥは"強い・美味い・高価"だったな。
こう見てみると、"美味い・高価"は共通なのか。ふむ?
「とりあえず、冷凍を……。冷凍倉庫車、スペース余ってたかな!?」
そう言ってからのエメルの行動は素早かった。
俺はこのブラック・モフモージャ・ストロングホーンをエメルに全て丸な…………託した。
交渉事はエメルの方が色々顔も広いし、得意だろうからさ。
売り上げの一部をエメルに渡す契約をして、後はお任せだ。
でもさ、売る前に俺はブラック・モフモージャ・ストロングホーンの肉を一部、朝食にして皆と食べた。
だって気に成るじゃないか! あんなに"美味い"等と連呼されればさぁ? エメルなんか、さっき大事な事なのか二度言ったぞ!
そして食べた結果……食味は牛肉っぽい感じ。
ただし、口内で蕩ける。こういう肉は、塩、胡椒で肉汁滴るレア調理をおススメする。シンプルで良いんだ。
だって、"肉自体"を楽しむんだからな。
「美味かった……。これしか言えない……」
……最終的な感想もシンプルになってしまった。
魔物も美味いのは美味いんだな……。皆も「美味い」と朝なのに、ペロリと平らげてくれた。
そして俺は膨れた腹を撫でながら、宛がわれたコンテナのソファーに寝そべってブラック・モフモージャ・ストロングホーンを家畜化していったら、どうなるのか……、と考えてみた。
だってさ、『猪 → 豚』ならさ、『ブラック・モフモージャ・ストロングホーン → ???』になりそうじゃないか?
「…………ま、しないけど……」
だって、あの巨躯と凶暴な性格……管理が大変そうだ。
そう言えば、トゥはブラック・モフモージャ・ストロングホーンをどうしたかな?
「……ふぁ……っ……」
そう考えている内に、俺はゆっくりと眠りに落ちていった……。
―……ドォオオオン……ドォオオ……ン……
独特な熱と湿り気を含んだ空気、耳を重く打つ波音。潮騒。
……海だ……。海が近いんだ。
俺は緩く覚醒し始めた脳内でそれを感じた。
そして次に鼻腔に溜まっていく潮のにおいに、前世の記憶が引っ張り出された。
海水のにおい始めは周りの今までの空気と違う海水の独特のそれに、俺は僅かに身を引いてしまうのだが、時間経過と共にそれに溶け込んでいる自分が居る。
シーフィールムのにおい、俺は嫌いじゃない。むしろ早く海が見たくてウズウズしてる。
子供の頃に連れて行かれた海釣りや潮干狩り、母親との貝殻拾いが断片的に思い出されてきた。
釣りは最初は仕掛けが自分では出来なくて、良く父親に仕掛けを作って欲しいと強請った。
それからジワジワと自分で色々と覚え、自分で単純な仕掛けが作れるようになった頃、俺は釣りに行かなくなった。
正確には単純に父親にくっ付いて連れて行かれていた子供の俺は、父親が行かなくなった途端、遠場の海釣りに行けなくなったのだ。
似たような道具が手に入れば、まだあの仕掛けは作れるだろうか? ……まぁ、多分……無理だろう。
……今思えば、夜釣りも面白いが、単純に海を楽しむなら、俺は早朝の海が好きだ。
夜中から始めた釣りを経て、陽が昇り始めの海面の赤や黄色、白、青、緑、紫……それを静かに見ているのが好きだったんだ。
これはシーフィールムの海を早朝散歩とか、してみる楽しみが出来たな。
ここまで思考が加速して、俺はアリエントの声に引き戻された。
「アサヒ」
「……あ、ああ、アリエント……何?」
「そろそろコンテナが止まるぞ」
「そうか。分かった」
もう着くんだな……。
弾んだ感情と、少し身構えている自分と……無鉄砲な思考がぐるぐると混ざりあって、俺は鼻から深呼吸をした。
そして……
「…………さぁ! みんな! シーフィールムに到着したよ!」
……そして、エメルの声がコンテナの停止と同時に頭上から聞こえてきた。
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