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第165話 月に愛でられる者 -2-

「じゃ、僕とディルはギルドとか色々用があるから、ここで解散」 部屋の鍵を渡され、特に変わった説明も無く廊下で解散、そして部屋に入ってみれば…… 「うみー!!!」 「……だな」 何と、窓から海が見えたのだ! しかも近い! 俺は時間的に暗くなってきた海面を見つめて、ザワザワとした感覚が生まれた。 眼前の海に昂りが押さえ切れない俺は、後方でアリエントが荷物を整理し出したのを感じた。 そして思い出したのである。 ―……水着を持って来ているじゃないか!! ナイス、エメル! ナイス、俺! 良く思い出した! 「……今から海を堪能してくる!」 アリエントに言いいながら、俺は水着と必要そうな物を即行で荷物から引っ張り出した。 何だか分からないが、気持ちが競っている。 「今から、か?」 「うん!」 「……夜、だぞ?」 「分かってる!」 「メシは?」 「テキトー!」 用意しながら、アリエントが俺に色々と話し掛けてきた。そんな色々と……オカンか! アリエント! 声色に"何で?"という、疑問と呆れが混ざってそうなものを感じながら、俺はスルリと部屋を出た。 向かうは海! そして…… 「……あれが、輝蝶の柱?」 何本も光の柱が海面から上空に出ていて、ユラユラと蠢く様が何となく……"イソギンチャク"を思い出すな……。 こうして見て、害が有る様な……無い様な……。 「ビミョー……」 そんな感想しか出ないが、しょうがない。 そしてそれだけ呟いて右手に持っているパンに噛み付き、咀嚼、嚥下を繰り返す。 とりあえず夕飯用のパンを片手に、ヒョウモ兄さんが言っていた光の柱を鑑賞中な俺。 夜の闇に映える蠢く触手を思わせる輝蝶の群れで出来ている光の柱は、俺には「不気味」って感情よりも「珍しい現象なんだなー?」的な興味が勝っている。 「…………触手……っぽい?」 ……そして、モグモグと口を動かしながら良く分からない位置に着地した、俺の思考。 そして輝蝶から視線を外して、着替えが行えそうな場所をキョロキョロと……。 ……おし。良い感じの大岩がある。あそこの陰で水着に着替えよう。 そうと決まればさっさとパンを食っちまうとするか! そこで俺は決めた大岩に近づきながら、頬と喉の動きを早めた。 そして岩場に着く頃には…… ―んく……っ…… ……よーし、モグモグタイム終了~! 実はこのパン、リューテに即行で作って貰った惣菜パンなのだ。 しかも、今後も言えば作ってくれるとの事。ま、普段からこうした商いもしているんだろうけどさ? 一階は軽食処だしな? 「……ん。腹も膨れたし……。ほんじゃー、泳ぎますかー」 俺は誰に返しの言葉を求めるでもなくそう声に出して、手近な岩陰で水着に着替えた。 そう! メインは触手を観賞しながらメシではなく、海を堪能する事なのだよ! 幸い今はこの砂浜から岩場にかけての海は、周りに誰も居ない様だし……サクサク着替えようかな! そして俺はサクサク着替えを終え、後はザブザブと海に入った。 いつの間にか俺の足裏は地面を踏みしめる事無く、海中に浮いている。そして、そこに…… ―スィ…… 俺の目の前を横切る……黄金色の蝶……。

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