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第2話 祝☆一万人切り!
『おめでとう御座います! 貴方は一万人の精を得ました! スライムから、人の器へチェンジ出来ます!
さらに、今まで得た冒険者のスキルで貴方と相性の良いものは自動で受け継がれます!
なお、スライムの能力も使えます! ただし、新月の夜や人の器が持たない時はスライムに戻りますので注意して下さい!
そして、人の器を安定させる為に、たまに"精"が必要ですので、どうにかして得て下さい! これは人型をとれる種族だしたら、どの種族でも構いません。
では、人にチェンジしますか?』
「………………(………………)」
『……もしもし? しますか? しませんか?』
あまりに突然な事に俺がフリーズしたぜ。処理落ちしたわー。
"ばーん!"ってな感じで両手を広げ、満面の笑みを浮かべて浮遊している青年を俺は見上げた。
背後に光を背負っている。……正直眩しい。
『あれ? 止まってます?』
「……コポ…………? (……一万人…………?)」
すでに俺は時間感覚がおかしくなっている自覚があるから、どの位スライムで居たかは正直分からない。
でも、一万人は多すぎだろ……。
冒険者はパーティーで来たりするから、確かに複数の精を同時に頂いた事も何十回とあるけどな。
あとは一日に何回も、とか?
今居るこの場所に留まっていたわけじゃないからな~……。
ここは割りと静かな所なんだ。まぁ、そこが今は心地良いんだけど……。
まぁ、うるさく吼えてる奴もたまに居るけどさ……。
最近では洞窟に棲みついたトロールがうるさいくらいだな……。
あいつ、自分の溜め込んだ宝石類を毎晩毎晩飽きる事無く数え上げ、宝石を褒め称えるんだ。
それがまるで念仏の様で、正直俺は少しまいってきてる。
でも、まぁ、こっそり覗いた奴のコレクションの宝石達はどれも美しく、褒め称える奴の気持ちも分からんでもないがな……。
……話が逸れた……。
しかし……一万人って……食事何回してんだ俺は。
そう考えると、年齢的には幾つなんだ……。スライム歴十年以下な感じがしないな……。
『……貴方、どう思っているか知りませんが、とうに年齢は三桁ですよ?』
俺の思考が読めるのか、コイツは?!
更なる衝撃の事実を告げられ、おれは表皮をプルプル振るわせた。
「コポポー!? (俺の思考が読めるのか!?)
コポッコッポポ!! (いいか、俺に半径3m以上近づくなァ!!)」
『あの、距離関係無いですし……』
「コポー! (がーん!)」
『はぁ……とりあえず、ここから移動しますか……』
「コポッ!? (あ!?)」
俺は急な浮遊感に思わず声を上げた。
だって、浮いてるんだぜ?
プルプルと表皮が波立つ。何だかむず痒い……。
『……気を失っている様ですが、彼の近くに居ない方が良いでしょう……』
「コポ(まぁ、な)」
そうして俺達はふよふよと浮きながらその場を離れた。
洞窟の中を左に右にとこの青年は好きな様に移動している。
まぁ、良いんだけど。俺は大体把握しているけどね。
やがて僅かな光が漏れさすやや広い空間に俺達は出た。
へぇ……こんな場所も有ったのかと感心していると、青年は俺を岩の上に下ろした。
青年は俺の前に来ると僅かに眉を上げ、口をへの字にしていた。
「コポォ……? (それで……?)」
『も~……"それで……?"じゃないですよ……。
さっきも言いましたけど、一万人の精を受けた貴方は人になれる権利を得たんです!』
「コポポ(マジでか)」
『大マジですから! 今度こそ、ようぅううっく聞いて下さいよ?!』
そう言うが速いか青年は光を背に、再び冒頭の台詞を更に感情を込めて言い上げた。
『……おめでとう御座います! 貴方は一万人の精を得ました! スライムから、人の器へチェンジ出来ます!
さらにッ!! 今まで得た冒険者のスキルで貴方と相性の良いものは自動で受け継がれます!
なお、スライムの能力も使えます! ただし、新月の夜や人の器が持たない時はスライムに戻りますので注意して下さい!!
そして、人の器を安定させる為に、たまに"精"を受けて下さい! 人の器を安定させる為に、たまに"精"が必要ですので、どうにかして得て下さい!
では! 人に、チェンジ、しますかッ?!』
バ―――――ン!!!!
"決まったぁ!"的な感情を醸し出しながら、青年はチラリと俺に視線を向けた。
俺は触手を出して、ビタビタと岩肌を叩いて拍手らしきものを送っといた。
俺の行動に少し気を良くしたのか、青年は笑顔になってくれた。
『コホン……では、改めて……人にチェンジしますか?』
「コポ! (人にチェンジするぜ!)」
今度は即、俺は青年に答えた。即答ですよ。
こんなチャンス、二度とないぜ……!
……そこで俺はとても基本的な事に気が付いた。
「コポポッポポ? (ところで、アンタ一体何者なんだよ?)」
『ええ? 今更ですかぁ?では……。
私はこの世界の神の一人である……』
「コポ(神様か)」
『はい』
「コポッポポ! コポコポー! (んじゃぁ、アンタの事は"かーちゃん"って呼ぶぜ! "かみさま"の"か"を取ったぜ!)」
『ええええ?!』
「コポー? (愛称は親しみの表れだぜ?)」
『……そうですかぁ? まぁ、貴方には特別に……本当に、とーくーべーつーに! とりあえず、その呼び名を許しますよ……!! まったく……。
私の名前に"か"が入っていて良かったですね……。でも、必要なら変えてもらいますからね!』
「コポ! (はい!)」
神様……かーちゃんはやや不満気に言ってきたけど、最後は良いだなんて、神様は懐が違うなぁ!
呼び名も出来たし、急に親近感が湧いて来た……! うおぉぉぉ……!
「コポー(かーちゃん)」
『……何です?』
「コポポ! (何でもない!)」
『はぁ……』
俺は今、スライムになって初めてではないかと思える会話をしている!
思えば長年孤独だったのかも……。あまりそうは感じてなかったけど、急に自覚してきた。
ああ、意思の疎通が出来る、って素晴らしい!!
しかも相手は神様だぜ! ありえねぇ! テンションあがって来たぁ!!
「コポー! コポー! (かーちゃん! かーちゃん!)」
『はい?』
「コポポー! (かーちゃんとこうして会話出来て、俺嬉しい!)」
俺は全身をグネグネさせて、喜びをアピールした。
そんな俺を見てかーちゃんは一瞬目を見開いたと思ったら、柔らかく笑った。
『私も嬉しいですよ。さぁ、そろそろ人になりますか?』
「コッポ! (おう!)」
するとかーちゃんは俺の返答に満足気に一度頷き、数歩後ろに下がった。
手にはいつの間にか錫杖が握られており、先端に付いている宝石から、淡い光が揺らめきながら煙のように出ていた。
そして光の煙が俺を包んだかと思うと、急に硬質化し、俺はその中に閉じ込められてしまった。
それは、「あ」も「う」も、なにも言う間もない一瞬の出来事だった。
閉じ込められて訳も分からない突然の出来事なのに、恐怖とは無縁なこの暖かな闇に俺は知らずに力を抜いていた。
暫くして、包まれた闇の中で俺は段々意識が遠のくのを感じ、眠る様な感覚にただ全てを預けた。
そして俺は暖かな闇と混ざり合った。
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