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第4話 天上にて

一人の青年が石の台座に横になっていた。 辺りは冷たい空気で満たされており、僅かに息が白くなる程だった。 そして台座の脇で一人の少年が地面にすわり、一つの水球を覗いている。 水球にはアサヒが映っており、全裸で色々考え込んでいる風だった。 そんなアサヒを見て、少年はくすりと小さく笑った。 「うん、上手くいったみたいですね……良かった」 少年がニコニコと笑顔でいると、彼の隣の石の台座が急に輝き出した。 光は寝ている青年を包み込み、やがて彼の中へと吸い込まれていく。 少年は立ち上がり、青年に近づくとその顔を覗き込んだ。 青年の瞼が僅かに動いてるのを確認すると、彼は一歩後ろへ下がり青年の意識が戻るのを待った。 唇が動き、空気を取り込むと青年は閉じていた瞼を開け、深い濃紺の瞳で辺りを確認した。 瞳が少年の服を捉えたので、少年が直ぐ傍に居るのが分かった。 そして上体を起こし、少年の方へ顔を向けた。 「お帰りなさいませ、カーティティス様」 「うん、ただいま、ルーセル」 "カーティティス"と呼ばれた青年は柔らかな笑顔で答えると、ルーセルと呼ばれた少年も笑顔を作った。 「随分早く帰られましたね?」 ルーセルの問いかけにカーティティスは少し俯きながら答えた。 「ああ……。あまりアサヒが可愛いものだから、つい実体化して加護を与えてしまってね……。 おかげで神気の減りが早くて……帰りが早まってしまった」 「口から直に加護を与えすぎたせいじゃないですか?」 「それも……あるかもしれない。……え? 何でそんなこと分かる……。あ! お前、水球で私の事を見ていたのか!?」 「やだなぁ……僕は水球で綺麗なアサヒさんを見ていただけですよぉ……」 「それでは私の事を見ていたも同じじゃ……!」 「さー、お仕事お仕事!」 「誤魔化さないで下さい……」 カーティティスの不満気な声に振り向きもしないでルーセルは扉へと歩みを進めた。 そんな従者であるルーセルの態度にカーティティスは僅かに口を曲げた。 しかし、直ぐに気を別な方向に持っていった。 「あ! 新月の時の話と、人の器がもたない時や受け継がれたスキルなんかの話がまだでした!」 「ええ? 何です、急に……」 「私とした事が、いけないけない……ははははは……」 「あ! そんな事言って、下界に行く理由を……!」 そんな棒読みめいた彼の台詞に、ルーセルはやや諌める声を上げたのだった。

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