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第5話 全裸同士 -1-

「……おい、あんた!」 「……?」 「大丈夫か?」 「……ぁ……?」 男は声がした方に視線を向けた。 そこには、全裸の男が腕を組み、仁王立ちで自分を見下ろしていた。 ……お前こそ大丈夫か…… 地面に仰向けに寝っ転がりながら、男は冷静にそう思った。 そしてそんな男もまた、全裸だった――――。 ……俺を見上げている剣士くんはまだ状況が掴めてないみたいだな……。 まぁ、全裸の男に急に話し掛けられれば、そうもなるわな。うんうん。 そうだ、自己紹介しとくか。笑顔笑顔……。 「ああ、俺は"アサヒ"ってんだ。よろしくなー」 「……ルツだ……」 やっぱり疑ってんだろうなー。 声色から何となく感じるわ。 いや、俺はめげない……! 言うんだ、アサヒ……! 「あ~……突然で悪いんだけど、服、貸してくれねぇかな?」 「……服?」 「そう、服。俺さ、気が付いたらこの洞窟に全裸で転がってたんだ……けど……」 「………………………………」 「名前以外何も……、わ、分からなくてさ……、記憶喪失……に……俺……」 や、やばい……! 急すぎだし、緊張して上手く言えねぇ……! しかもルツの沈黙が怖い! 更に美形の睨みって怖いのな!! ああ……何だか涙が……。 「……そうか、よっぽどの事があったのかもしれないな……」 ふわ、と頭に手が置かれて……あれ? 頭撫でられてる? お、俺慰められてるの?? あるえー? 「ルツ……さん……?」 「"ルツ"でいい」 「えっと、その……何で俺の頭撫でてるの?」 「ああ、何だか……弟や妹達の事思い出してな……ほっとけなかったんだ。急に悪かったな」 「え? いや、良いんだ……気持ちいいよ……」 「ははは……」 俺の答えに何が面白かったか分からないが、ルツは短く笑った。 そして俺に背を向けると、服を拾い出した。 んでも、ルツって下に兄弟結構いるのかな?面倒見良さそうだなぁ……なんとなく。 俺がそんな事を考えてるうちに、ルツはそれなりに身なりを整えた様だ。 まぁ、シャツにズボン、みたいな軽装だけど、腰に剣は佩いていて、やっぱりルツは剣士なんだなと思い直した。 「アサヒ、"服"、だったな……いいぜ来いよ」 「うん」 言われた通りルツに近づくと、荷物の中から同じような服を取り出して俺に渡してくれた。 「俺の予備だけど、洗ってまだ使ってないからこれ使えよ」 「ルツ、ありがとう」 ニコニコと服を受け取ったら、ルツはまた少し微笑んで俺の頭を撫でてきた。 何だ何だ?よく分からないけど、笑顔、って事は悪い意味じゃないよな? 俺、スライム生活長すぎて人としての感情に疎くなったのかな? まぁ、着るものでも着ますか。 俺とルツは背丈が似ていたから、サイズ的には大丈夫だ。 ああ、服って良いな、落ち着くわ……。ああ、僅かな石鹸らしき香り……。 そう言えば、ルツは何でこの洞窟に来たんだ? 少し聞いてみようかな。 「ところでルツは何でこの洞窟に?」 「ああ、ギルドからトロール退治の依頼を受けたんだ」 ……ああ、奴かぁ……。 俺はあの宝石を数え上げるトロールを思い出した。 ってか、ここら一帯にはトロールはあいつだけだからなぁ。 俺がそんな事を考えていると、ルツが話しかけてきた。 「そうだ……アサヒ、俺のトロール退治、手伝わないか? 成功したら幾らか報酬から渡すから、それで色々揃えたらどうだ? 無一文じゃ、やってけないだろ? な?」 何て魅力的な提案……! 「それから俺が街まで連れてやるよ。 その時、ギルド登録もしたら良い。とりあえず金が必要だろ?」 ああ、ルツ、アンタが今の俺の神様だ……! アンタ最高に輝いてるぜ……!! 「……ルツがそれで良いなら、俺としては嬉しいけど……」 「よし、なら決まりだな!」 そう言うとルツはワシワシ、と俺の頭を撫でた。 何か、ペットめいてる撫で方だなーとか感じ始めた。 まぁ良いや。癖なのかもな。俺はこれ、嫌じゃないし。 「ところで、そのトロールの事だけど……」 「ああ、そうだな、話すよ……」 ……まぁ、俺がルツの話をまとめて話すとだな…… 王都にあるギルドに複数の商隊からトロール退治の依頼がきたんだ。 そのトロールは商隊だけを襲っては、宝石や装飾品関係だけ奪っていくんだとさ。 その額が結構いってるみたいでさ……まぁ、複数からうばってりゃあそうなるわな。 しかも何人か死人まで出してるなんて、最悪だよな? それをルツが引き受けた、ってわけ。 そう考えると、パーティー組まないで来るルツ、って結構強いんじゃない? スライムの俺なんか、"ぷちっ"て感じかもしれないな……。 でも、そんなルツの生体データも一応俺の中にあるんだよなぁ……。 俺の記念すべき一万人目の男だからな……。うんうん。 ああ? ……ってことは、この洞窟は王都の近くにある、って事か……。 王都かー少し楽しみだな。多分、その王都にルツは帰るんだろ? なんだろう、今まで独りだったし、こうして人と会話するの結構楽しいしなぁ……色んな人と出会えるよな? 王都に行ったらさ! 「へへ~、ルツ、俺トロール退治頑張るね?」 ヘラヘラ笑ながらルツに声を掛けると、ルツは「期待してる」と答えてくれた。 うん、生体データ活用して頑張るよ! そしてルツは立ち上がると辺りを見回し始めた。 どしたの? 「さて、……とりあえず、どこかで身体を洗いたいな……。 ちょっとスライムに襲われてさ……洗い流したいんだ……」 ああ……。……まぁ、今まであえて触れないでおいたけど、そうですよねー。 後ろ、気になりますよねー。ふむむ……。 俺は一応、この洞窟で暮らしていたからね、ある程度何処に何が有るかは把握してるんだ。 ちょっと力になろうかな。色々な意味を込めて……。 「……それなら、俺いい場所知ってるよ?この先に泉があるんだ」 「……アサヒ?」 「あ……。あー、ここに来る途中でたまたま見つけてさ……! 俺も少し利用したんだ!」 「……そうか……じゃぁ、案内してくれるか?」 「ぉ、おう、任せてくれよ」 アブねー! セーフ! ……セーフだよね!? ねッ!? 今後は少し発言に気を付けよう……。 そして俺達は荷物をまとめてそこから泉へと移動を開始した。 俺も少しやりたい事あるし、あそこはなかなか広い空間だから俺のしたいことも出来るだろう。 ……それじゃぁ、旦那、泉まで案内いたしやすゼ!

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