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第11話 新規登録でおねがいします。

「おおっ……!?」 初めて来る王都は思っていた以上に活気に溢れていた。 ……あれ? でも何だか、女性が極端に少なくない? 男ばっかり目にする気がする……。 スライムだった頃の記憶を思い出してみても、そう考えると女の人はかなり少なかったかもしれない……。 冒険者だから、男が多いと思っていたけど、実は人口的に少ない割合なのかな……? 「アサヒ、こっちだ!」 ルツはそんな俺の手を取り、とある建物の前で足を止めた。 「……ここは?」 「ここが、王都のギルドさ。 とりあえず報告して報酬を貰うから、お前は登録を済ませろよ。 宿とか、他の事はそれからだな」 「うん、分かった」 俺の返事を聞くと、ルツは荷物を入り口に居た青年に預けた。 ああ、グリフォンのレイは王都に入る時に、城壁に居た人にルツが預けていた。 馬は入れるみたいだけど、ああいう魔獣は駄目みたいなんだ。 そうして俺達はその建物の中に入った。 入ると、右手側は軽食を扱っている店があるのか、何人かの冒険者が談笑しながら飲食していた。 逆の左手側はカウンターになっており、何人かの受付らしき人がそれぞれ冒険者と話をしている。 中央には階段があって、上にも何かあるようだった。 「俺は上の階にあるカウンターで今回の報告と報酬を受け取ってくるから、アサヒは……」 そう言うと、ルツはカウンターに居る係りの人物達を確認している様だった。 「あ、居た居た……。ロイさん!」 ルツの声に、一人の男が反応して、こちらに顔を向けた。 ……あの人、"ロイ"って名前なのか。 「ロイさん、こいつアサヒ、ってんですけど、ギルド新規登録で今お願い出来ますか?」 「新規か……」 「あ、あと……ちょっと訳有りで……」 「…………分かった、処理する」 少し悩んだ風だったけど、ロイさんは俺の担当をしてくれる事になった。 「じゃぁ、俺はちょっと用事済ませてくるから……。 ロイさん、宜しくお願いしますよ」 「おう、行って来い。任せとけ」 そしてルツは俺の頭をポンポンと軽く撫でて、上の階に行ってしまった。 「じゃ、始めようか。そこに座って、アサヒ」 「あ、はい」 俺は言われた通り、対面のカウンターの椅子に腰を下ろした。 「……んで? あんた、どこから来たんだい?」 「あー……俺、記憶喪失で……名前以外は……年齢くらいしか分からないんです……けど……」 「……あ、そう……。そういう事……」 そう言うと、ロイさんは登録用の紙に色々書き出した。 「え ?俺、書かなくて良いんですか?」 「……じゃぁ、あんた……書けるのかい?」 「……書けませんけど……」 「だろ? 俺が適当に処理しとくから、任せとけよ……」 「……はい……。あ、でも俺、年齢は21歳です」 「ん~~~? はい、了解っと、"21"ね」 サラサラと必要事項を書きながら、ロイさんは俺に話しかけてきた。 「……別にあんたみたく記憶喪失の奴は、初めてじゃないからね……」 チラリ、と横目で俺を見て、ロイさんはそっけなく言ってきた。 ……誰か知り合いに、そういう人でも居るのかな? それとも、俺みたいな記憶喪失の冒険者が他にも居るとか? まぁ、俺の記憶喪失は嘘なんだけど……。すんません! 元スライムです!! 「さぁ、あんた、これは自分で決めてくれよ? "職業"は何にする?」 「"職業"?」 「まぁ、簡単に言うと、"剣士"とか、"魔法使い"とかそんなんだ」 う……うう~~~ん? 俺、何て答えたら良いのかな? パーセンテージにしたら、どの職業が高いのか……。 一万人の生体データがあるから、大概出来そうだしなぁ……。 「えっと……」 「何となくでも良いぞ?」 「け、剣士……剣士で登録お願いします……」 「ん、無難だね。"剣士"っと」 ロイさんはそんな事を呟きながら紙にペンで記していく。 「はい、完了、っと。ご苦労様。 じゃぁ、少し奥で処理してくるから、ここで待っててな」 そう言い残すとロイさんは奥の部屋に消えていった……。 それから少しして報酬を受け取ったルツが、俺の脇に来た。 「どうだ? 登録出来たか?」 「うん、もう少し……」 「そうか、これ、お前の分け前な」 そう言うとルツは俺の脇に重そうな袋を一つ置いた。 ここの物の価値はあまり分からないけど、明らかに多そう……。 「ルツ、これ多くない?」 「ん? 今回、お前頑張ってくれたもんな? 当然だろ?」 そう言うとルツはワシャワシャと俺の頭を撫でた。 「仲良いな、お前ら……」 「ロイさん」 「良い傾向じゃないか、ルツ……」 「………………そうかな?」 「ああ、楽しそうだった。 ……さ、アサヒ、登録が完了したぞ。 依頼を受けたい時はここのカウンターの誰でも良いから話しかけるといい。 まぁ、俺が一応あんたの担当者だけど、別に気にしないでいい。結局、俺に回ってくるから。 上の階は報告と報酬を受け取るカウンターがあるから。依頼失敗しても上、な。 向こう側の軽食屋は情報屋とか、他の冒険者とパーティーくんだりまぁ、色々だ。 後はルツに教えてもらったり、利用していくうちに覚えてくだろ……。 たまにギルドイベントとかあるから、お前も参加してみるといい。報酬も出るしな」 ロイさんは俺に説明しながら、一枚の魔方陣の紙を出してきた。 「これが、ギルドカードだ。アサヒ、左手を出してくれ」 「? ……こう?」 俺が左手を出すと、ロイさんはその魔方陣の紙を手の甲に乗せてきた。 すると、紙の魔方陣が輝き出し、一瞬の痛みを伴い、俺の手の甲に魔方陣が転移してきた。 そして俺の手の甲にプリントされた魔方陣はジワリジワリと消えていった……。 「必要な時はまた出てくる仕組みになってる。忘れたり、無くさないで済むだろ」 「……なるほど……」 「ただなぁ、"切り落とされない"様に注意しろよ? 皮膚を剥がされたり、滅茶苦茶に破損してもある程度大丈夫だけど、無くなったら見れないから」 「え……」 「偽装がさ、たまにあるんだよ」 「……うぇ……」 マジそれだけは勘弁して欲しい……。 「さ、これで完了だ。これから宜しくな、アサヒ」 「……宜しく、ロイさん」 はー。結構かかったなー。疲れたー。 俺はそこでロイさんと別れた。 ルツは何か考えてた風だったけど、急に俺の方を向いてきた。 何だろ? 「あそこでメシ食ってこう」 「うん、はー……お腹空いたー」 そう言えばメシ、まだだったなー……。 そして俺はルツにくっ付いてギルドの軽食屋に足を向けた。 ギルド内の軽食屋に入ると知り合いが居たみたいで、ルツは声を掛けていた。 「ハウル、グリンフィート!」 声の先には薄い色合いの金髪の大柄な青年と、くすんだ緑色の髪をした少年がテーブルに一緒に座って食事をしていた。 彼らはルツの声にこちらを向くと、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で片手を振ってきた。どうしたのかな? そんな二人に俺達は近づいていった。 (ルツさんと居る美人、誰だろな? あのルツさんが、人を連れているなんて珍しいなー) (うわぁ……綺麗な人だよ……) 「何だ、お前ら何コソコソしゃべってんだよ……」 ルツのやや不機嫌そうな声音に、金髪の青年が顔をこちらに顔を向けて喋り出した。 「ああ……、ルツさんが他に人を連れているのが珍しくて。それに美人ですし、気に成ったんです」 大柄な男の言葉に、隣に居た少年の剣士くんも大きく頷いている。 ……へぇ? って事は、ルツって普段から一人で行動する事が多いのか。 そう言えば、レイも"珍しい"って言ってたな……。 それに、俺の事も褒めてくれるの?ありがとうな。 俺はとりあえずニコニコ笑顔で居る事にした。 「まぁ、少し色々あってなぁ……。 今回、ここのギルドに新規登録した"アサヒ"だ。仲良くしてやってくれ。 んで、アサヒ、こっちのデカイ男が"ハウル"、こっちの少年は"グリンフィート"だ」 ルツは簡単に俺と彼らの紹介をしてくれた。 おお! 新しい人との出会い!! 「俺は"アサヒ"ってんだ、宜しくな、ハウルさん、グリンフィートくん」 「う、うん! 宜しく、アサヒさん! でも、俺の事は呼び捨てで良いよ。俺もそれで良い?」 「宜しく、アサヒさん。俺も呼び捨てて良いですよ」 「そうか? んじゃ、呼び捨てにさせてもらうよ。 グリンフィートも俺の事、呼び捨てで良いぜ」 おおー何だかほのぼのしてるなー。 何この二人、癒し系? 両方犬属性っぽいしなー。 「俺達、メシまだでさ、ここ一緒していいか?」 「どうぞ、ルツさん、アサヒさん」 「ありがとな」 「ありがとう」   そして俺達はここでメシを食う事にした。 俺は椅子に座りながら彼らに質問してみた。 「ところで二人は職業は何?」 「俺は重装だけど剣士だよ」 「ハウルは剣士か」 そうかー剣士かー。ハウルは背がでかくて体格が良さそうだから、大剣とか使うのかな? 迫力ありそうだなぁ。 「グリンフィートは何だ?」 「ん? 俺? 俺は、職業"勇者"だよ!」(二パー) ……え? ゆうしゃ? ……勇者??? ………………ッえええええ!!!?

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