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第12話 君は勇者サマであるか! -1-

……ゆ、勇者!? 勇者、ってアレだよな!? 魔王とかとよく最終決戦する人類最後の最強の希望の星、実質的メシア様ですよね!? ね!? 「……………………………………………………」 「あれ? アサヒ、どうしたの? ……ねぇ、俺、何か変な事言ったかなぁ……??」 そう言うと、グリンフィートは焦った様にルツとハウルに意見を求めた。 「ああ……アサヒは記憶喪失なんだ。 だから、職業の"勇者"の意味が分からないのかもしれない」 「え? そうなんですか? アサヒさん、記憶喪失なんですか……大変ですね……」 「そうかぁ! じゃ、俺が"勇者"とか、俺の家系の話するよ!」 ルツのフォローに二人はそれぞれの反応を示した。 まぁ、グリンフィートの話によると、この世界での彼の立ち位置はこういう事みたいだ……。 この世界は代々、勇者対魔王がなりたっており、世代交代ごとに戦っているみたいなんだ。 勇者が勝つと「光」の加護・光の眷属が強くなり、魔王が勝つと「闇」の加護・闇の眷属が強くなる。 ちなみに人間は"光の眷属"に属するらしい。 そしてこれは次の世代交代まで続く……。 どちらかが『挑戦』して、勝者の属性に勝手に世界が傾くらしいんだ。 ちなみに、『挑戦』をするときの年齢は15歳を超えていれば良いんだと。性別は関係なし。 まぁ、もちろん『防衛』が起こり、同じ属性が続く時もあるそうだ……。  そうそう……『互角』の時も同じ属性が続くんだってさ。 他にも細かい決まり事や、権利剥奪、相続とか色々あるみたいだけど、大まかに言うとこんな感じなんだそうだ……。 結構めんどくさいな! ちなみに『負ける』と世代交代で次の後継者が一族の中から自動的に選ばれるんだと。身体に"印"が現れるんだってさ。 力の強い順に選ばれるらしいから、グリンフィートは勇者の一族で今一番強い力を持っている、って事だな。 そして『勝つ』と勝者が負ける以外は、相続を決めるまで勝った奴の力が継続されるんだ。 でも、そいつが勝っても、直ぐに一族の他の者に相続させる奴も居るそうだ。 相続を受けると、"印"はその指定された奴に現れるんだと。 ちなみに魔族は人と同じくらいの寿命で、魔力は絶大らしい。腕力はそれぞれ個人差が激しいそうだ。 そして、この世界の今の時代は魔王の力の方が強い。……勇者が負けた、って事だな。 グリンフィートは一族の中で今の世代の『勇者』の称号を得た者として、ギルドに入って修行中らしい……。 勇者と魔王の関係を聞いていて、スポーツの対戦みたいなイメージがきた……。 もしくは、まじない的な祭りとか、収穫祭とか……。どこか祭りめいてる……。 ほら、『今年は○○が勝ったから、△△がよく育つ!』、とかそういうのと一緒だ、多分。うんうん。 「そうそう、魔王の息子が見聞を広める為に旅してるんだって! いつか会えるかもな!」 そう言いながらグリンフィートは楽しそうに笑う。 そんな俺達に軽食屋のお姉ちゃんがオーダーを取りに来た。 俺は良く分からないから、ルツと同じ物をお願いした。 どんなのが来るのかな? ちょっと楽しみだ。 「……じゃぁ、グリンフィートは今幾つなんだよ?魔王に挑戦出来るの?」 「俺? 俺は今、16歳だよ。 挑戦は出来るけど、まだまだ……。先代の話だと、今のはすんげぇ強い魔王らしいんだ……。 その魔王に俺も勝てるか分からないよ……。 向こうが相続を息子に譲っても、その息子だから、多分力は強そうだし……」 「そうかー何か大変だな……」 ……ほう。一応挑戦出来る年齢なんだな。 「ルツとハウルは?」 「俺は26歳だ」 え? ルツは23歳くらいかと思っていた……。 意外に若く見えるんだな、ルツは。 「俺は20歳だよ」 ハウルは年相応だな……。俺のいっこ下か。 「そうかー俺は21歳……くらいだと思うんだ、自分が」 「……何だアサヒ、年齢は思い出したのか?」 「うん、何となくね……何となく。あはは」 少し濁しとく……。何となーく、ルツの視線がイタイ……。 「お待たせしましたぁ!」 その時、タイミング良く店の姉ちゃんがお盆を二つ持って現れた。 よし、これで話題を変えるぞ! 出てきた料理は簡単に言うと、"グラタン"だった。 アツアツの、多分……"海老グラタン"だ! プリプリの海老がふんだん使われていて、ホワイトソースが変にしつこくないのが良いな……。 そしてクラッシュされたアーモンドの香ばしさに、焦げ目が最高だ! ああ、でも温かい食べ物、って美味いなぁ。 俺の口内の味蕾が今、活性化されていく実感……。ああ、俺の味覚は死んでなかった!!! そう言えば、これが人として人の食べ物を初めて摂取した瞬間じゃないか? 俺は勢いのままに、一口、二口と匙を口に運ぶ。 美味い食い物、って食べてるだけで勝手に笑顔になるなぁ、本当! ボーノ!! 「美味い! これ美味いよ、ルツ!」 「「「…………………………」」」 ……あれ? 何で皆そんな穏やかな目で食ってる俺を見てるの? 「……アサヒさん、これも食べなよ……」 「え? ありがとう、ハウル」 そう言ってハウルは自分の皿から大量にあるパイらしきものを一つ俺にくれた。 「うん、これも美味しいな! ありがとうハウル!」 貰ったパイを早速食べてみると、苺らしき程よい酸味と甘い味わいが口内に溢れた。 ……ハウルは甘党なのかな? だって、皿に山盛りでコレがあるんだ。 そして、何でそんな穏やかな目を俺に向けるの!? ねぇ、皆、どうしたのさ!!?

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