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第15話 王都ぐるり旅 -1-

俺の眼前には大きな幅広の建物があった。 その建物を見上げて、俺は視線を左右に動かす。 やがて視線が看板らしき物を捉えた。 そこには『アレックス&ケインの武器・防具店』と、何とも分かりやすい店名を記した物がでかでかと掲げられていた。 分かりやすい、って重要だよなー。迷いようがない。 「さ、ここが武器屋さ。中で防具屋と繋がっているし、地下に鍛冶屋もあるから、王都ではここが一番便利だよ」 「おおッ!? すげぇ!」 「うん、だからさ、既製品からオーダーメイドまでしてくれるんだ」 店に入る時、扉の脇に『地下:鍛冶屋"ラビットジャンク" 強化・属性付加・オリジナル等も行っております。お気軽にご相談下さい!』という看板が置かれていた。 そしてそれを一瞥して俺はレンネルに続いて店内に足を踏み入れたんだ。 中は結構静かで俺達以外は客が入っている雰囲気が無かった。 そこで俺は店内を見回しながら、物色を始めた。 やっぱ、"剣士"登録したから、剣かな……。どんなのが良いのかな? 見本とか何本か置いていて、触ったり振ったり出来るみたいだけど、刃は潰されていた。そりゃ、危ないもんな。 「いらっしゃい」 物色を始めた俺の脇を、杖を大量に抱えたおっさんが声を掛けながら通っていった。 別に店でお客に何気無く声を掛けていく、ってあるよな? まさにそれだ。 俺は特に返事もせず、飾ってある見本品を眺め続けていた。 「いらっしゃい」 そして再び声おっさんにを掛けられたんだ。 あれ? さっきと同じ人?俺は移動していないんだけど……。 二度目のおっさんは籠手を抱えて店の奥に消えて行った……。 俺が「?」と思っていると、隣のレンネルが説明してくれた。 「ああ、ここの店は双子の店主なんだ。 最初に声を掛けてきた人は武器屋の"アレックス"さん。 今アサヒに声を掛けた人は防具屋の"ケイン"さんだよ。 とりあえずな見分け方は、髪の毛結んでいるのがアレックスさんで、無いのがケインさんだよ」 なるほど。俺は店の看板を思い出した。『アレックス&ケインの武器・防具店』、だもんな。 「ところでレンネルは"剣"の事、詳しい?」 「え? いや……俺、メインは"ナイフ"や"ダガー"とかだから……」 「そっかー」 俺がフラフラと剣を見る様に、レンネルはナイフの感触を確かめていた。 「……って……」 「どうした? レンネル」 「この見本のナイフで手ぇ切った……潰しが甘かったのかな……?」 「んじゃ、俺が治してやるよ」 「え?」 とりあえず辺りを確認して、近くに誰も居ないのが分かった。 「ちょっと我慢してな?」 「え? うん……」 そして俺はしゃがんで昨日の要領でレンネルの指を口に含み、舌で舐めた。 口内に僅かにレンネルの血が滲み出てきた。それも舌先で舐め取る。 「んぅ……」 「……!!」 俺の行為にレンネルが驚いたのが、ピクリと動いた指先から分かった。 見上げて見ると、顔を赤くしてレンネルのグレーの瞳が潤んで揺れている様に感じた。 濃い青灰の猫耳がピクピクしている。 まぁ、治療の仕方が舐める以外分からないから、こうしたんだけど……こんなに動揺するとは……。 舌先で完全に傷が塞がったのを確認して、俺はレンネルの指を口内から出した。 確認すると完全に傷は塞がっていた様で、俺はとりあえず布を出してレンネルの舐めた指を拭いてやった。 「どぉ? 治っただろ?」 「あ、あああぁ、ああ! 治った! 治った! ありがとう!!」(こいつ、無自覚だ! 無自覚に色気振りまくタイプだ!!) レンネルが酷く動揺している様に感じるのは気のせいかな? さて、じゃぁ店主にオススメとか聞いてみようかな? 俺は早速、品物を並べていた武器屋店主・アレックスさんを捕まえて聞いてみた。 理由を話したら彼は快く俺について来てくれた。 「どういうのが希望なんだい? 大体で良いよ」 「実戦的であんま重くないのが良いなぁ……」 「ん―――……威力重視じゃなければ、これとかか?」 そう言って店主は俺に一振りの片手剣を出してきた。 とりあえず適当に振ってみる。 "ヒュンヒュン"と空気を斬る音が心地良い。 「良いね、これにしようかな……」 「そうかい?」 「うん、初めてだから良く分からないし……。 これ、二本買うよ」 「二本?」 「うん、予備って意味もあるけど、双剣にしようかと……」 「そうかー……まぁ、この位の重さと長さならそれも可能かもなぁ。 じゃぁ、この時間なら……納品は明日で良いかな?」 「構わないよ」 また明日ここに来るのかー。 聞けば、注文を受けてから研いだり色々調整をするらしい。 その場ですぐ渡せるのもあるが、俺が選んだのはそのタイプでは無い様なのだ。 「手前味噌だけど、ウチの防具はなかなか良い物揃ってるよ」 防具かぁ……前線で戦うとなると、鎖帷子くらいは着といた方が良いのかな……? 鎧は重くて手入れが大変そうだから、俺向きじゃなさそうだし。 「んー……まぁ、考えときます……」 「そうか。入用の時は良かったら相談受けるから、宜しく。 じゃ、前金を貰おうか。残りは納品の時貰うから」 そして会計が終わり踵をかえそうとしたら、アレックスさんに呼び止められた。 「はい、これあげるよ」 「これは?」 「ウチの地下にある鍛冶屋の名刺。 それ持ってくと、三割引してくれる、ってわけ。 武具・防具屋もだけど、鍛冶屋も宜しく! 良かったらいつでも良いから使ってみてくれ。 それとウチの店の名刺も。俺はアレックス、ってんだ宜しくな」 「ああ、ありがとう……俺はアサヒ。宜しく」 そうして俺達は店を出た。 陽が真上に感じ、何となく今は昼かと感じた。……メシ……。 「よし、レンネル! どこかでメシにしようぜ。 レンネルの食いたいモンで良いよ、連れてってくれ」 「え? あ、うん……う~ん……」 そんなレンネルが連れて行ってくれたのはピザ屋だった。 本当、この世界の食べ物は俺の前に居た世界と似ている。まぁ、便利だな。 この出てきたピザも熱々でとても美味い。 「あー……あのさ、魔方陣の描かれてる紙……って分かるか?」 俺の突然の質問にレンネルは食べていたピザを完食してから口を開いた。 「"空間魔法符"の事? いいよ、次はそこに行こうか。先生起きてるかな……?」 「先生?」 「うん、次元転移魔法を研究をしているリリサ先生だよ」 それからピザ屋を後にし、俺達は白い家の前に来ていた。 一見すると普通の家だが、玄関らしき扉の脇に小さく『次元転移魔法研究所』と書かれた看板が取り付けられていた。 レンネルはその家の窓を覗き込んで俺の元に帰ってくると、「居た! しかも起きてるからチャンスだよ」と言ってきた。 そこで俺達は扉を開け、中に入った。 扉には鈴が備え付けられていて、"チリチリ"と俺達が来た事を中の人物に告げていた。

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