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第18話 月夜の二人 -2-
さて、部屋に帰った俺は今日リリサ先生の所から買った空間魔法符の説明書を見てみる事にした。
そこで俺はベッドの上に紙袋から取り出した冊子を二つ置いた。
お? 何だ? 説明書の他にもう一枚紙が……って広告だ。
何々……手紙を送れる魔法符?
……ああ、ルツがギルドと洞窟で遣り取りした時に使っていた、あの魔方陣の書かれていた紙か。
読んでみたら、メールに近い機能をしていた。
つまり、相手の名前を登録する用紙に登録して、必要な時に魔方陣の書かれた紙の上で燃やす。
すると書かれた紙が転送されて相手の魔方陣に出現し、相手が返事を書いて燃やすと、こっちが使用した魔方陣の紙に文字が浮き出て返信が読める仕組みになっている……とまぁ、こんな感じだ。
名前登録は紙を増やせば無限の様だ。結構便利かもな。
さて、それで俺が今回購入した"空間魔法符"の方だが……まぁ、似た機能をしていた。
例えば、Aの出現用の魔方符を必要な所に置き、Bの転送用の魔法符を使うと、BからAへ物体が転送される仕組みの様だ。
ただしこれは生物……"生きている"のは転送してはいけないそうだ。
つまり、例えば"猫"は駄目でも、"野菜"とかなら可能、ということだ。
この説明書には書いていないけど、リリサ先生が言っていた"組成組織圧縮"とか"現状維持構成の同時再現"だかとにかくそんな複雑そうな問題があるんだろうな、多分。俺は良く分からないけど。
まぁ、今度何か試してみようかな……。
とりあえず俺は、今使用しているこの部屋に出現用の魔法符を一枚冊子から破り置いた。
そしてふと、窓を見ると今日は満月だった。
「……満月か……」
俺はその時、かーちゃんの言葉を思い出していた。
"新月の夜はスライムに戻る"
「……新月の時はどこかに隠れるしかないかなー……」
俺はその時を想定しながら、ベッドに寝転がった。
そしてその体勢で満月を見上げる。
新月の一日を乗り切れば、俺はまた人間の姿になれる……。
……かーちゃんに会いたいなぁ……
無性に俺はかーちゃんに会いたくなって、俺はかーちゃんの姿を思い浮かべたまま瞳を閉じた。
……俺はいつの間にか眠ってしまった様だ……。
一度天上の月を見て、俺は次に何気無く下を向いた。
そしたら、レンネル一押しのギルド横の薬屋から一人の男が手提げ籠を持って出てきた。
俺は興味が惹かれて、彼の後を追ってみる事にした。
機会があれば話しかけてみようかな……。
彼は静まった大通りを抜け、どうやら郊外の方へと歩みを進めているみたいだった。
俺は昼間レンネルと歩いて得た道の情報を思い出してみた。
少ない俺の情報でいくと、彼はどうやら"森と合体している植物公園"へ向かっている様だ……。
まぁ、郊外と言っても結局進めば城壁があるんだろうし、この時間はどうせ昼より通行制限がかけられていると俺は思った。
一定の距離を保ちながら身を潜めつつ、いうのは案外難しいな……。
そんな事を考えながら俺は迂闊に隠れていた木から一歩踏み出した。
「僕に何か用かな?」
男の声に俺は声のする方へ顔を向けた。
そこには、俺までそれなりに距離があるのに、薬屋の男は月を背に、俺に対峙していたんだ。
正直驚いた。
「……えっと……何してるんですか?」
「…………君、それ冗談じゃないよね?」
「……冗談じゃないです……」
「………………何だか気が抜けた……。良いよ、君さえ良ければ僕についておいで」
そして俺に軽く言うと、彼は俺に背を向けて再び歩き出したんだ。
俺は今度は彼のすぐ後ろをついて歩いた。
特に明かりも無いのに、満月の明かりが濃くて、歩くだけならそれだけで結構十分に感じられた。
やがて開けた場所に着くと、彼は籠から布を取り出すとそれを広げ、何か草をそこに並べ始めた。
俺が彼の行為に疑問を抱いていると、彼の方から説明してくれた。
「月の魔力には、"癒し"の効果が強く含まれていると言われていてね……。僕はそれに期待して、こうして薬草を月光浴させているんだ」
「へぇ……そうなんだ?」
「それに、今は魔王の力が強いだろ? それに伴ってこっちも……月の魔力も強化されていると思うんだ……」
そうこうしているうちに彼は、持って来た薬草を全て並べ終わったみたいだ。
「……あんた……」
「僕は、"リンデル"。君は?」
「あ……っと……俺は"アサヒ"。宜しく」
「うん、宜しく、アサヒ」
そう言ってリンデルは俺に笑いかけて来てくれた。
何だか落ち着いた雰囲気の人だな……。俺より年上そうだし……。
そうだ。せっかくだから、この世界の事でも聞いてみようかな?
「あのさ、俺に魔王とか月の魔力とか、そういうの教えてくれないかな?」
「良いけど……?」
不思議そうにリンデルが俺の事を見てきた。
……結構基本的な事なのかな?
じゃぁ、これだ!
「俺、記憶喪失で……今、色々知りたいんだ……」
「ああ、そうなのか……。それは大変そうだ……。良いよ、僕が分かる範囲で説明するよ」
「ありがとう!」
「!」
笑顔を作った俺に一瞬、リンデルは驚いた様な顔をした……気がするけど、まぁ良いや。
そんな感じで俺が笑顔で居ると、彼が話し始めたんだ。
「魔王……まぁ、"魔族"は"闇族"とも言われているけど……ちなみに魔族と魔生物が主に"闇族"だよ。
そしてこの世界を司る最高神の一人、カーティティス神は『月』と『夜』、『海』、『精霊・妖精・闇族』を主に司っている。
カーティティス神の月の魔力は"闇族"に繋がっているんだ。
もしかしたら、今はカーティティス神の力が強まってる周期なのかもしれない……。
だからかな? 今の魔王の力が強いのは……」
そう俺に説明してくれながら、リンデルは天を仰いだ。
今の満月はただ濃く光っていて、俺達を照らしている。
リンデルは月から俺に視線を移すと、「まぁ、簡単だけど、こんな感じかな?」と話しの終わりを教えてくれた。
「助かったよ、リンデルありがとう」
「そう? 良かった」
「……なぁ、また俺に色々教えてくれないか?」
「僕で良ければ、いつでも」
そう言ってリンデルは月を背に俺に答えてくれたんだ。
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