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第21話 かーちゃんのデータ解析! ……の巻 -1-
「……じゃ、僕は行くよ」
朝になり急にアビは俺に言って来た。
「浄化されてからね、僕、使える力の質が本来のものに変ったみたい。何だか懐かしい気分……」
瞳を閉じて、アビは記憶を思い出しているのだろうか?
何だか……見ていて切なくなってきた……。
でも、俺がここで変に後悔をするのは、アビに対して失礼な気がする。
ここはあえて違う方へ……。
「……俺と一緒に外、歩かないか? ……気分転換とか……」
「…………ありがと、アサヒ……。でも、僕、ちょっと一人になりたいんだ……」
ふ、振られた……。少しショックだ!
でも、アビはそんな俺を見て、少し笑ってくれた。
俺もつられてアビにゆるい笑顔を返した。
そんな俺に今度はアビが近づいてきて、一言いってきた。
「…………けど、キスして」
「……………………分かった……」
そして俺はアビの唇に自身のを重ねた。
少し冷たい彼の体温が唇から俺に伝わってきた。
そして……
「……!!?」
「……ん…………アサヒ……ご飯貰ったよ!」
そう言うと、アビはニヤリと笑ってきた。
俺は急に生気を大量に吸われ、ベッドの上に倒れてしまった。
ピリピリとした痺れが四肢の末端に感じられ、思わず呻き声が出た。
「ははは! "ご飯"は変わらないみたいだ!!」
「ア、アビ……!」
「何かあったら、来てあげるよ!またね~」
ベッドに縫い付けられた様に動けない俺を尻目に、アビは笑い声を上げながら霧散して窓枠の僅かな隙間から出て行った。
俺はその後、朝にしっかり起きたのに、活動を開始出来たのは何と昼過ぎな事態になってしまった。
武器や洗濯物の受け取りの時間指定は特に無いが、何ともいえない気分だ……。
「……はぁ、やっと動ける……」
軽く頭を振って、気分を変え、俺はとりあえずメシを食いに部屋を後にした。
さて、何を食べようかな……。
生前の世界といくらかリンクした情報を持ったこの世界でも、やっぱり興味が湧く。
そんな事を考えながら、宿に備わっている『熊の左手』に入る。
するとネルが直ぐに俺の元に来て、空いているテーブルに案内してくれた。
「なぁ、ネル、ここのオススメは何だ?」
「んとね……いっぱいあるよ」
おおう……なかなか手強い返答だな。
「……その中から、ネルの好きなの教えてくれよ」
「うん、分かった!」
俺の言葉にネルは少し考えたみたいだ。
……そんなにあるのか……。
「今の気分は"レンゲバチのバターハニートースト"! アイスクリームとメープルシロップをたくさんかけたやつ……!!」
キラキラした瞳を俺に向け、ウットリと両手を組んでいる。
「……じゃ、それ一つ。あとこのライチとアロエのジュース」
「はーい!」
元気良く返事をしてネルは奥へと消えた。
ああー腹減ったなー……。
そして次に現れた時、ネルは件の"レンゲバチのバターハニートースト"とジュースを運んできた……って、前見えてるのか!? 心眼か?心眼なのか!!?
俺が冷や冷やしているのを他所に、ネルは慣れた足取りで危なげも無く俺の居るテーブルまでそれを運んできた。
"カチャリ"とテーブルの上に置くと、「ごゆっくり」と笑顔とお決まりの台詞を俺にくれた。
そして俺はすぐさまやってきたバターハニートースト……これ、丸々だぞ。一斤だ。
まぁ、それを適当に備え付けられてたナイフで切り、アイスとメープルをのせてフォークで刺したのを、ネルの目の前に持っていき「あ」と口を開けて見せた。
するとネルは反射的にか、俺と同じ「あ」とやってきた。
そこに切り取った物を入れてやると、モグモグ美味しそうに咀嚼を始めた。
「アヒャヒ、ありがとぅ……」(モグモグ)
「いや、また美味しいの教えてな、ネル?」
「……うん! またね!」
そして彼女は再び奥へと消えていった。
それから俺はその料理を食べたんだが、甘いながらもあっさりとした蜂蜜の味わいが何とも癖になりそうだと感じた。
香ばしい焼いたパンのまだ温かい余熱で溶けたバターとアイスがコクを出して、メープルのやや癖のある甘みがアクセントとして出ていた。
まぁ、単純に美味い。量に驚いたが、意外とあっさり完食出来て少し驚いたけどな!
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