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第23話 かーちゃんのデータ解析! ……の巻 -3-

……俺はその夜、一人また外に出たんだ。 今日の月の光は満月じゃないけど強くて、俺は明かりを持たずにこの前リンデルが薬草を月光浴させていた場所まで歩いていった。 郊外に出れば、本当に静かで街の中の喧騒が嘘の様だ。 歩いていく内に、俺の二本の剣が僅かに脚に当たって戻る音以外聞こえなくなった。 周りの景色もだんだん緑が増えていく。 でも、それを抜けると、今度は上には空、下には草原が広がるんだ。 俺はいつの間にか出来上がっている獣道を通って、この前の一枚岩へ向かった。 その間、夜風が草と俺を緩やかに撫でていき、俺は少し立ち止まって瞳を閉じた。 まだ人に成ったばかりだというのに、結構色んな事が起きている気がする。 大きな一枚岩に座って月を見上げていたら、フワフワと半透明の白いベールみたいなのが、落ちてきた……。 それは俺の頭上でクルリと旋回すると、次の瞬間、目の前にかーちゃんが現れたんだ。 「アサヒ、久し振りです」 「かーちゃん!」 俺は優しく微笑んでいるかーちゃんに抱きついた。 かーちゃんはそのまま俺を受け止めてくれて、優しく髪を撫でてくれた。 うーん、やっぱりかーちゃんは落ち着くなぁ。 「さぁ、アサヒ、今から貴方がどんなスキルが備わったか一部ですが見てみましょう……。 では、私の指を咥えて下さい」 「ふぉお?」 かーちゃんは俺が指を咥えるのを確認して、深い青闇の瞳を閉じた。 どのくらいそうしていたか分からないが、「もう良いですよ」と声を掛けられ、俺は指を咥えるのを止めた。 「大体分かりました。……これは少し珍しいですよ? どうやらアサヒはとても高位の聖職者のデータがあるみたいですね……」 かーちゃんの言葉に、俺は自身が治癒と浄化と結界魔法が使えたのを思い出した。 「後は剣士と魔獣使い……モンク……まぁ、まだ一部でしょうけど……盗賊関係も豊富ですね。 ふむ? 弓使い? ……魔法使い……これは高位のも居ますね……まだまだ目覚めていないのもありますし……」 え……まだあるんだ……。まぁ、冒険者の職種は結構多岐に渡ってるもんな……。 「あとは魔法は水魔法が一番相性が良いようですよ?基本魔法はどれも使える様ですけど……。 どうやら、水・神聖・大地・闇・風・炎……の順が今力の強さですね」 「アサヒ、その剣は……?」 「ああ、これ? 俺、ギルドに入ったんだ! 今は剣士だぜ!」 俺の佩いている二本の剣を見て、かーちゃんが聞いてきた。 それで俺は早速ギルドに入った事をかーちゃんに報告したんだ。 「そうですか……では、少しコツを掴めば、魔法剣とかも出来ると思います。剣に魔法を纏って色々出来ますよ。 ただ、魔法に耐えられるだけの剣を入手しないとけませんが……」 「これは?」 かーちゃんの言葉を聞いて、俺は買ったばかりの刀身を月光に晒した。 剣は月光を浴びてヌラリと刀身を輝かせた。 そして俺が揺らした剣を見て、かーちゃんは横に頭を振ってきた。 「……残念ですが、その剣では耐えられません」 「そっかー。まぁ……だよなぁー」 うーん……『伝説のナントカ』とか、そういう剣が必要なのかな? 武器屋のアルフレッドに相談してみようかなぁ……。 それとも、ロイさんに魔法剣士の人を紹介してもらおうかな?だってギルドにいそうじゃないか! そして俺はある事を思い出したんだ。 「……なぁ、かーちゃん、治癒は相手を舐めたりしないといけないのかな?」 「……な、なめッ!?」 「え? うん……相手を舐めたら治ったから……」 「き、基本、手をかざすだけで良いんです!! ただ、その……な、舐めるたりする行為の方が、治癒する量と速さと効果が数段上になるんです!!」 「……それって、"浄化"も?」 「ええ、ええ、そうですよ! 治癒・浄化・状態異常回復等は基本、手をかざすだけで良いんですよ、アサヒ……!」 何故か顔を青くしてかーちゃんが俺に説明してくれた。 そして、"ぎゅう"といつも以上に力を込めて俺を抱いてくれたんだ。 どうしたのかな? そして俺から僅かに離れると、優しく微笑んでくれた。 「では、アサヒ、私の加護を与えましょう……」 俺はかーちゃんのその言葉に無言で頷いて、かーちゃんに身を預けた。 「んっ……」 「……ん……」 やっぱりかーちゃんと唇を合わせるのはすごく気持ちいい……。 ゾクゾクと切なさが半端ない。 誰よりも不思議と俺を満たしてくれる……。 返しの時、俺はかーちゃんの口内に舌を入れて、少し絡めたんだ。 「……ッ?!」 その時、俺は急激な脱力感と恐怖に、自我を手放しそうな感覚に襲われた。 目を見開いてビクビクと痙攣を繰り返す俺に、かーちゃんは慌てた様子で唇を重ねてきた。 「……アサヒ、これはまだまだ神気の溜まりが足りないからです……。私も早くアサヒと……」 「……! …………!! ……!!」 「でも、今は慣らさないといけません。そうしないとアサヒが私の力に堪えられず、壊れてしまう……」 「……か、かーちゃ……かーちゃん……」 「……戻ってきましたね、アサヒ……」 涙声でかーちゃんを呼べば、かーちゃんは俺を力強く抱き寄せてくれた。 俺はその肩に額を強く押し付け、しがみついた。 「……分かりづらいかもしれませんが、今くらいの衝撃があると、人の器がもちませんから、注意して下さい。 一人の時にそうなったら、器が自動修復完了まで数日はスライムのままで過ごす事になりますからね? 今は、私が器を修復しましたけど……」 そう言うと、かーちゃんは俺の背中を軽く"ポンポン"と叩いてきた。 ……何だかあやされている気分だ……。 「……神気が残り少ない様ですので……今日はこの位にしておきましょう……。またいつか来ますね。その時は新月について話して上げます」 「……かーちゃん……! 顔が青い……」 「大丈夫、神気が回復すれば、元に戻りますよ」 「……あ……」 そしてかーちゃんは俺の頬に唇を落とすと、この前みたいに消えていったんだ……。 やっぱり居なくなると寂しい……。 俺は何となく、唇に指を置いた。 かーちゃんが去った後、俺は再び月を見上げる格好で一枚岩に寝そべった。 そう言えば、聞き忘れたけど、かーちゃんは多分『この世界を司る最高神の一人、カーティティス神』なんだろうと思う。 「"神様"、って最初言ってたけど、"最高神の一人"とかって………………………………」 俺はその後の言葉が出てこなかった。 ただ、リンデルの言葉を思い出していた。 "カーティティス神の月の魔力は"闇族"に繋がっているんだ。" スライムだった俺は、闇族に属する。 何だろうな、俺は少しかーちゃんと繋がりが深そうだ……。 月光を浴びながら、俺は瞳を閉じた。 そして俺の上をただ、風が通り過ぎていった。

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