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第24話 月と太陽と水と元勇者
「……また手をかざすだけで良かったのに……。あんなデータ解析をして……」
「い、良いんです!」
「それにまた神気のガス欠じゃないですか……」
「う……」
「まったく! こんなに顔色が悪いのに……全然良くないです!」
カーティティスは今、ベッドに身を横たえていた。
その脇をルーセルが小言を言いながら、パタパタと動き回っている。
そんな彼らの元に二人の来訪者が現れた。
それは少年の様な容姿をした可愛らしい少女と、面立ちが美しい青年だった。
「やぁ、ティティー元気そうだね?」
「パナ……本当にそう思うのか……?」
少女の快活な声に、カーティティスはやや恨めしそうに答えた。
この現れた少女は最高神の一人、名を"パナティ"と言い、カーティティスの様にこの世界の『太陽』と『朝』、『大地』、『人間族・獣族(動物・半獣)』を司っていた。
そして彼女の後方に控えている青年、"ハフスフォール"は元勇者であり、パナティの恋人でもあった。
地上で魔王と戦った後、あまりの強さと美貌に神に愛されて連れ去られたという伝説まである過去の人物なのだった。
そしてパナティは寝ているカーティティスを上からニヤニヤした笑みで見つめ返し、更に「イシシシシ……」とからかう様に笑った。
「神気が戻れば、元気だろ?
それにあんなに唇を合わせて……元気そうじゃないか!」
「え!?」
「……パナティ様! し~~~……」
「あ……今の無し! あはは!」
「ルーセル! また水球を使ったんですね!! 今度はパナまで……!」
二人のやり取りに、カーティティスは赤くなったり青くなったりした。
水の精霊であるルーセルは「新しい布を持ってきます」とそそくさと部屋から出て行ってしまった。
そんな流れを黙って見守っていたハフスフォールだったが、後ろから身を屈め、パナティの耳元に顔を寄せた。
「……パナティ……」
「うん、分かっているよ、ハフス」
彼女をやや諌める様にパナティに声を掛けたハフスフォールの意を、パナティは直ぐに汲んだ。
パナティは先程までの表情から真面目な顔を作ると、彼女はカーティティスに向き合った。
「ところで君のお気に入りくんの"人の器"は、順調に機能してるかい?」
暗に"アサヒ"の事を指している彼女の言い方に、カーティティスは直ぐに反応した。
「大丈夫ですよ。順調です」
「それは良かった!」
「パナのおかげです」
「えへへ~! ハフスも褒めて!!」
そんな彼女の"褒めて"との要求に、ハフスフォールはモミモミと両肩を揉んだ。
瞳を閉じてしばしパナティはその状態でいた。
やがて彼の肩揉みを堪能し終え、パナティは再びカーティティスに声を掛けた。
「魔生物を人にしたい、って相談された時はどうしようかと思ったけど……上手くいくもんだね~!」
「"人"は貴女の方が向いてますからね」
「まぁね。経過も上々の様だし、安心したよ……」
そこには、先程までからかう笑みばかり作っていた彼女とは違く、本当に安堵している笑みをした神がいた。
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