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第25話 尋ね人? -1-
――……サワサワ……サワサワ…………
「…………?」
風と……草の……音?
「!」
俺はそこで自分の状況を思い出して慌てて上半身を起こした。
「……俺、ここで寝たのか……」
とりあえす俺は辺りを見回した。
当たり前だが、誰も居ない……。
……と思ったら、俺に一枚の布が掛けられていたんだ。
俺は安堵の息を漏らしかけていたが、それに気が付いて逆に息を呑んでしまった。
良く見ると、チェックの薄手の布……ストールとか言うのかな? 大判のストール……?
羽織ってきたのを、俺の為に掛けてくれた様だ……。
柄の雰囲気から考えると、性別はどちらでも使えそうな物に感じた。
再び辺りを見回しても当然誰も居ない。
本当、誰が俺に布を掛けてくれたんだ……?
「……これ、どうしよう……」
とりあえず俺は掛けられた布を小脇に抱えて街へ戻った。
あの場所はまた行くつもりだし、何かの機会にこれを掛けてくれた人物に会えるかもしれない……!
そう思うと、少しドキドキしてくる……。
どんな人物なんだろうな?
そして俺は来た道を戻り、草原から市街へ入った。
朝の街はまだ穏やかに感じるものの、どこかしらか起こす声や、朝食を作る音や匂いに包まれていた。
まだ人もそんなに外に居なく、ややひんやりとした空気が俺を包んでいる。
こういう雰囲気の空気は嫌いじゃない。
俺は少し遠回りして宿に帰ることにした。
少し知らない道をわざと選んで行く。
少しずつだが、俺の中に王都の地図が出来上がっていくのが、楽しい。
ここでデジカメとか、そういうのがあれば街撮りとかも可能かもしれないが、生憎この世界にはそういう物は存在していない。
俺は自分の中に景色を留めて置くしかない事を、少し残念に感じた。
でも、どこかで……そういう技術がこの世界に存在していたら、面白そうだけどね。
俺は今のところ王都しか知らないし、他の都市とか見当も付かない。
普通の人から魔法使い、リリサ先生みたいな考えを持つ人まで居るんだから、どこか"機械"系の人が居てもおかしくなさそうな気がしてきた。
「……外、か……」
いつの間にか少し高い位置に出た。
眼下に広がる景色は城壁の少し先の方まで見えた。
とりあえず森だった……。のどかだ……。
「……あの先には何が有るんだろう?」
……そして俺はある事を思いついた!
ルツやグリンフィートはいつ帰ってくるのか、ロイさんに聞いてみようと思ったのだ。
ハウルは近場に村があるって言っていたし、ルツやグリンフィートはどんな所を知っているのか教えてもらおうかと。
「おっし! ギルドに行くかー! あ。そうだ……」
俺はとりあえず懐から空間魔法符を取り出した。
「これこれ……試してみるか……」
俺は取り出した空間魔法符を手に、辺りを見回した。
さっきの掛けられていた布を、俺の部屋に送ってみようと思ったんだ。
そして少し離れたところにベンチがあったから、俺はそこに空間魔法符を広げて、布を上に置いた。
すると以前見た時と同じ様に、布が空間魔法符に吸収されて消えていった。
「よし……これは便利かもな……」
そして俺は空間魔法符を折って、再び懐に仕舞い今度はギルドへと足を向けた。
「……へぇ? ギルドはもう開いているのか……」
中に入ると、人はまばらだけど思い思いに動いていた。
そしてカウンターを見ると、何か書類を確認しているロイさんが居たんだ。
「ロイさん、おはようございますー」
「……おう、アサヒか。おはようさん……」
少し素っ気無い態度は多分ロイさんのデフォルトだと思うから、そのまま知りたい事を俺は言った。
「なぁ、ロイさん、ルツやグリンフィートはいつ帰ってくるんだ?」
「……さぁなぁ……。そうだ、"手紙"で聞いてみろよ。用意してやるからさ」
そう言ってロイさんは例の手紙転送符2枚とペンを俺の前に出した。
「ルツとグリン用だ。書いて渡してくれたら俺が処理するから」
「うん、分かった」
俺の返事にロイさんは頷いて、その場で再び書類に目を通し始めたんだ。
さて、問題は俺が文字を書けるか、だ。
……とりあえず名前を書いてみるか……。
…………お? 何かペンが動く……って事は、俺はとりあえず文字が書けるんだな!
一応自分でも読めるし、多分大丈夫かも!
俺は自分が文字を書ける事に安堵して、意気揚々とペンを進めた。
とりあえずいつ帰ってくるのかが大事な目的だからな、出だし辺りはこれだ。
そしてもうルツの分が書き終わりそうな時、急にロイさんに声を掛けられた。
「……アサヒ……お前、何語書いてんだよ?」
「え!? ……あー……んと……、なになに語……?」
「何だそれは……とにかく、色々混ざってんぞ……」
「ぅえ……?」
……ロイさんの言葉で何となく分かってきた。
つまり、俺は一万人のデータを持っていて、それらは全て共通の言語じゃない、って事だ。
今ですら、多分勝手に翻訳しているんだろう……。
だから、読めたりしゃべれたりは出来るが、書こうとすると混ざるんだ。
……例えば、俺が『スライム』と書くとする。
俺は自分で『スライム』と書いたつもりが、知っている人から見ると、『巣らiム』とかに見えるんだ。
これは面倒だ……。誰かに教えてもらうしかないかな……。
とりあえずルツとグリンフィートはいつ帰って来るんだか……。
だって、俺が今書くと、それこそ何を書いたのか分からない暗号文みたいなのが出来上がるって事だもんな!
しかも自分じゃ判断出来ない……。
はぁ……どうしよう……。
「お前、記憶を思い出しかけてて、混濁してるんじゃないか? あと、俺が簡単な文だけど、手紙送っといたから……」
俺が唸っている間になんとロイさんが二人に手紙のやり取りを済ませていてくれていた!
「ロイさん、ありがとう! …………はぁ、でもどうしよう……どう勉強すれば良いんだよ……」
「……なぁ、アサヒ、ギルド隣の薬屋のリンデルにでも頼んで書き文字教えてもらったらどうだ?
見たところ元はあるんだから、すぐだろ。リンデルは確か複数の言語が扱えたはずだからな……」
「え? そうなの!?」
「ああ、あいつは"魔法使い"だ。魔法書を読むのに、色々必要だったんだってさ」
「……へぇ……」
「お、返信が来たぞ」
「!」
ロイさんに教えてもらったけど、ルツは2、3日くらいで、グリンフィートは5日くらいかかるそうだ。
グリンフィートの方が移動距離が長い為そんな日数らしい。
なるほど。
そしてリンデルかぁ……。
そうだな、頼んで教えてもらうか。
「ロイさん、色々ありがとう! リンデルに頼んでみるよ」
「おぅ。頑張ってな」
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