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第26話 尋ね人? -2-

そして俺はロイさんにお礼の言葉を言って、今度はギルドの隣の薬屋の扉を開けた。 ……リンデルも店開けるの早いな! 「……リンデル……居る?」 店の扉を開けたら、内側に設置されていた鈴が"チリチリ"と音を出して、俺の来訪を告げていた。 そして店内は時間的に早いせいか、人特有の温い温度は無く、硬質な冷たさが充満していた。 まだ誰も今日はこの店に来ていない様だ。ま、時間も早いしね。 その中に入って辺りと見渡すと、良く分からない草やら液体等が袋や瓶に入って整然と並んでいた。 リンデルに用があるのだが、俺は興味が惹かれて、薬草の束へ足を向けた。 もしかしたら、この前の月光浴をさせた奴かもしれないと思ったからだ……。 俺が薬草を眺め始めたと同時位に、後方から声を掛けられた。 「……いらっしゃい……あれ?アサヒじゃないですか」 「あ、リンデル、おはよー」 「おはようございます。何か必要な物でも?」 「……あー……あのさ……」 そこで俺は店の奥から現れたリンデルに、先ほどのロイさんとのやりとりを伝えて、文字を教えて欲しいとお願いしたんだ。 リンデルは静に俺の話を聞いてくれた。 「良いですよ」 「……リンデル、ありがとう! マジ助かるよ!」 「じゃぁ、私が店を開けている時間帯で良いですか? とりあえず、用意もありますから、明日辺りから……。私は基本、店に居るのでアサヒが適当に来て下さい」 「うん、分かった! 宜しく!」 「!」 俺は嬉しくてリンデルの手を"ぎゅう"と握ったんだ。 そしたらリンデルは一瞬驚いた表情をしたけど、俺に笑いかけてくれた。 リンデルからは少し薬草の様な独特の爽やかな香りがふわりとしてきた。やっぱり毎日扱っているからかな? ま、俺はこの香り嫌いじゃないけどね! よーし、これで文字の問題も解決だ! 「あ……そうだ……。リンデル、昨日は草原のあの岩に来てないよね?」 「? 行ってませんが?」 「そっか! ありがとな……ちょっと知りたくてさ!」 「……そうですか? あそこは基本、満月に行ってますよ」 「なるほど……あ、そうだ! お礼……文字の事教えてもらう代わりに何か……」 「そうですか?」 「うん、俺に出来そうな事とか、何か他の事でも……」 「そうですね……なら、たまに店番とか薬草取りとか色々手伝ってもらいましょうか?」 「うん! 分かった! 俺、それも頑張るから!」 「はい、その時は宜しく、アサヒ」 そして俺はとりあえずリンデルと別れて外に出た。 いやぁ、急な事なのに、リンデルが引き受けてくれて良かった!リンデルって良い奴だな! リンデルの手伝いも楽しそうだし、面白くなってきた……。 やる事が多いのは大変だけど、楽しいな……! 文字の件が落ち着いてきたら、ギルドの依頼を受けに行き易くなるから、頑張らないと! 書類とか、サインとか必要な時あるだろうしさ。 ……そしてあの布、もしかしたらリンデルの物かと思ったんだけどな……。 少し残念……だけど、知らない人物を思い浮かべるのは、少し楽しい。 どうやら本当に知らない人が俺に布を掛けてくれた様だ……。 ハウルとレンネルだったら、声を掛けて来そうだからなぁ……。 ハウルなら、「アサヒさん、こんな所で寝ちゃ駄目ですよ」とかで、 レンネルなら、「何寝てんだよ、アサヒ。起きろよ!」、ってな感じそうだ。 まぁ、勝手な俺の想像だけどね? 「あとは……とりあえず俺も手紙転送のやつ、リリサ先生の所に買いに行こうかな……」 俺は次の目的を決め、手紙転送符を買いにリリサ先生の下へ行った。 あいかわらず先生の白い家は、一見して普通の民家だ。 でも、良く見るとどうやら隣接する家との間を結構とってる様に感じた。 ……多分、実験で何か起こった時の対応だと思う……。もしかして、頻繁に何かを起こしているのかもしれない……。 そして俺は家に近づき、この前レンネルがやった様に窓から中を確認してみる。 ……まぁ、リリサ先生は居た。 ……居たけど、部屋の中央に大きな円形のクッションを置いて、うつ伏せで寝ていた。 手から落ちた様な位置にペンが転がっているし、ピクリとも動かない……。 「何だか変に不安になる状況だな……」 そして次の瞬間、"ボシュッ"という音と同時に急にクッションが縮み始めたんだ! 俺が驚いている間にクッションはドンドン小さくなって、最後は丸い球体になったかと思うと、自動で飛び跳ねて、リリサ先生の後頭部の上で一跳ねして、床に落ちた。 そしてそれが起きる合図だったのか、リリサ先生がゆっくりと身を起こし始めたんだ。 左右に頭を振って、その時に窓の俺に気が付いたのか、俺の向かってドアを指して来た。 ……入ってこい、って事かな? 「……先生……? おはよ?」 「うんおはようアサヒ。私に何か用かな?」 「うん、今日は"手紙転送符"が欲しいんだ」 「そうかそうか。よし持って来よう」 あっさりそう言うと、リリサ先生は"手紙転送符"を持ってきてくれた。 代金を払い、俺は"手紙転送符"を手に入れた! とりあえず俺は懐から空間魔法符を取り出し、俺の部屋に買ったばかりの"手紙転送符"を送った。 ちゃんと届いていると良いな。うん、便利だ。 あとは皆に名前登録させてもらえば完璧だな! 「……アサヒそれ使ってくれてるんだなどうだ使い心地は」 「うん、まだ使い始めだけど、便利だよ!」 「そうかそれは良かった」 そう言うとリリサ先生は僅かに口角を上げて笑ったんだ。 おおう……先生は無表情が多い感じだから、何だか新鮮だな! レアかもな! そしてその夜、アビが急に俺の元に来たんだ。 黒い霧が収束して、10歳程度の姿のアビが床に立った。 俺は朝、自分の部屋に転送した手紙転送符をの説明書をベッドに寝っ転がりながら見ていた。 そうそう、あの布も無事、俺の部屋に届いていた。 「おーアビ、久し振り……かな?」 「……アサヒ……! のんびりしている場合じゃないかも! ……僕が以前、糧にしていた感情を抱いている子が近くに居るよ……!」 「……え……?」 「……アサヒ、何かしたの?その子、アサヒを捜してるみたいだよ?」 「え? 何で俺?」 「……だって、"水色の髪の男"って言ってた。僕が知っている限り、そんな髪色はここらにアサヒだけだよ……」 妙に不安気にソワソワしながらアビが俺に告げてきた。 な、何だ?ソワソワが移りそうだ……。 「僕、ちょっとその子の所に行く……! その子を知っている気がする……。気に成る……!」 「……待てよ! ……俺も一緒に行く……。俺だって、気に成る……」 俺を探してる、とかって気に成るじゃないか……。 だって、俺は人になったばかりで、そんなに知り合いが居ないんだぞ? 何だか、嫌な感じだな……。 そして俺は真新しい武器を手に、アビと部屋を後にした。

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