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第27話 赤い炎と二つの黒き影の来訪 -1-

「……アサヒ、あの子だよ……」 「………………」 俺達は今、城壁内にある森の中に身を潜めていた。 夜の闇で更に色を濃くした木々の陰から、俺はアビの視線の方向を辿り、件の人物を確認した。 そこに立っていたのは、赤毛の遠目でも分かる美しい少女だった。 彼女は黒いフード着きの長いローブを纏った二人の人物を従えていた。 そして彼女にピタリと寄り添うその姿はまるで影のようだ。 ……でも俺はあんな知り合い居ないし、見た事も聞いた事も無い……。 「知らないな……。それに、どうやって城壁内に入ってきたんだよ……」 「あるんだよ、ある意味抜け道が」 「……?」 俺はアビの言葉にどういう事かと思った。 「この王都は一部、外の森や谷と繋がっているんだ。 つまりさ、谷で出来ている崖をそのまま城壁として使っているんだ」 「………………」 「まぁ、普通の人ならそんな切り立った所、利用しないよ……普通ならね」 「……普通じゃない、って事か?」 「簡単に言うと、そう言う事。僕は霧になって移動出来るからね、場所はあまり選ばなくて良いから色んなルートを知ってるんだ」 まぁ、俺の宿の部屋にも窓枠の隙間から出入りしているしな……。 何となく想像がついた。 「それで……? アビ、知っている奴のなか?」 「……女の子は知ってる。けど、後ろのローブの男二人は知らない……」 そんなアビは眉を寄せて、困った顔をしていた。 ……ってか、知っているのか! 知り合いなら、何とかこう話しをだね……。 「あの子はね……ぁ……あ……あれ……!?」 「アビ!?」 何とアビは俺の目の前で"石"に戻ってしまったのである! 一体、どういう事だ?! コロリ、と黒いオブシディアンに戻ったアビは当然ながら言葉を発しない。 そしてその石は良く見ると。細い半透明な糸で巻かれていた。蜘蛛の糸の様である。 「……面白い"石"の反応があったから来て見れば……ふふ、手間が省けたわね」 声のする方を見れば、あの赤毛の少女が立っていた。 手を掲げて、陽炎の様に揺らめいている。……何か術を使ったのか? そして俺の方へ歩みを進めてきた。 「人型をとる"石"なんて、本当珍しい。……それは私が貰うわ」 少女が言葉を発したと同時に、掲げえていた手を"クイ"と引き寄せる動作をしてきた。 それに石が連動して、綺麗に彼女の手に石が収まった。 俺はアビを取られた事に動揺して、周りの変化についていけなかった……。 しゃがみながら前に一歩踏み出そうとした瞬間に、両脇の後ろから取り押さえられてしまったのだ! 地面の冷たさが俺に伝わってくる……。 「んなっ……!?」 「よし、良くやったわ、お前達……そのまま取り押さえておきなさい!」 鋭くローブ姿の人物二人に指示を与えると、赤毛の少女は更に俺へと近づいてきた。 ふわふわした赤毛が炎の様に見え、俺は一瞬目を細めた。 夜のこの闇の中差す、月光に赤毛が輝いて見える。 しっかし、俺を取り押さえている奴等の手の冷たさは……人じゃない様に感じる……。 しかも手袋をしていても、何となくペタペタした感じが更に人っぽくない。 そこで俺を左右から取り押さえている人物を何とか振り向き様に見ると、直ぐにその異様さに気が付いた。 「……何だ!? 半分透けてる……!?」 そう、その長身のローブの下は、半分透けた人型をしていたのだ。 ……しかも全裸……! ……まぁ、正確に言うと、全裸に近い男の人型だ。 身に着けているのは、黒いローブと手袋と皮靴……ってどこの変質者だよ!? 俺は一瞬で来た見た目の衝撃に開いた口が塞がらなかった。 そして、そんな俺を見て、少女はどこか勝ち誇った様に俺に説明してきた。 「ふふ……スライム人間、とでも言っておこうかしら?今は私の言う事を聞く下僕の様なものだけど……」 「す、すらいむ……」 「じゃぁ、仕上げと行きましょうか? ほら、全部飲みなさいよ……」 「ふが……!? が、かはッ?!ん、ん……んぐ……ぐ……んぐ……!!」 突然鼻を摘まれ、口の中にドロドロの水色の液体を流し込まれて、俺は一瞬判断がつかず思わずそれを飲み込んでしまった。 う、うげー! 最悪!! 味も最悪!!!! 俺は思わず俯いて呻いた。 こんな物、俺の記憶の中に存在しない最悪さだ! 絶対に不味い食べ物ランキングでダントツ1位だ!! アンタが大将だ!!! そんな俺の苦しさを他所に、この激マズの液体の製作者の少女は俺の顎を掴み、上にあげた。 「私、貴方にすっごく逢いたかったの……」 「………………」 俺の顎に指を這わせ口から溢れた液体をすくい、唇に塗りつけながら、少女はうっとりと俺を見てくる……。 ……何、この状況……。 俺は本当に思考が着いて行けず、口を僅かに開けて少女を見ていた。 すると少女はその場に立ち上がり、俺に今更自己紹介をしてきた。 「……私の名前は"メルリーナ"……あの洞窟のトロールの妹よ!」 「!!!?」 これは衝撃的だった……。 あの、あのトロールの妹ですら驚きなのに、悪いがあの兄にして、この美少女……?! 「貴方の名前は?」 「……ア、アサヒ……」 う……思わず衝撃でとっさに答えてしまった……。 「ね、アサヒ……貴方、何故私のお兄様を殺したの?」 「……俺の質問に答えたら言ってやる……」 「……あら、この状況で私と取引をするの? ……でも良いわ。何?」 俺はそこでメルリーナに質問したんだ。 「……メルリーナ……お前何で兄殺しが俺だと分ったんだ……?」

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