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第29話 赤い炎と二つの黒き影の来訪 -3-
―……ペタリ……
……そうだった。俺の状況を一瞬忘れかけていた……。
……な、何!? 触手の本数が増えてる……!!
……えっと……えーっと……何か……何か……
「……コ、コポ! (止めろ!)」
「「!?」」
……俺から突然発せられた声に、スライム人間の二人は動きを止めた。
おお……! スライム語がまだ使えたのはラッキーだ!!
……そう言えば、スライムの能力も使えるんだった。いやぁ、良かった……。
そして俺の発した言葉にメルリーナは不審そうな顔をしている……って事は、メルリーナはこのスライム語が理解出来ないんだな……。
これは使えるのでは……。
「コポポッ! (俺の話を聞けッ!)」
「……コポォ? コッポォ……? (何だぁ?お前、俺達の言葉が使えるのか?)」
「コポー、コポポポー? (はぁーん? 適当な事言ってんじゃないか?)」
……まぁ、俺は今"人"だし、こいつ等がそんな感想を俺に言ってくるのも、まぁ……分る。
「コポ! コポポッポ! (適当じゃない! 俺は元、お前等の居る洞窟でスライムだったんだ!)」
「コポ? (はぁ?)」
「コポーポ! (証拠は?)」
そこで俺は、洞窟内の幾つかの隠し部屋を答えてやった。
……普通の見方じゃ気が付かない場所で、道から外れたルートをわざと教えてやる。
…………そう、小さな者やスライムでしか入れない様なところだ。
あの洞窟はさ、トロールが溜め込んでいた以外にもお宝が眠っているんだ。
もちろん、ヤバイ魔物なんかも棲み付いているけどな……。
トロールが居た場所は、実はほんの触りの方だ。
……奥は俺も良く分らないけどな……。
下手に奥に行って、ヤバイ奴等の餌にはなりたくないからな……。
スライムの俺なんて、本当にグミとか葡萄とか、そんな感じで"プチ"とやられるのがオチだ。
「コッポゥ……(……なるほど? 良く知っているじゃないか……)」
「コポ(それと、これを見ろよ……)」
「? (?)」
そして俺はメルリーナに分らないように身体から触手を出し、二人の身体を突付いた。
スライムの能力はこういう触手も出せるのだ……。
「コポ!(ほ! これは本物か!)」
「コポーポ!(世の中は変で不思議な事もあるもんだなー!)」
……どうやら俺があの洞窟のスライムだと認めたみたいだ……。
―……た、単純だ……。
今は、それに助かったんだが。ゆるくて良かった!ゆるくて良かったぁ!
「コポ! (あと、お前等、俺がどんだけ人を襲ってきたか知ってんのか!)」
「コポ~(しらね~よ)」
「コポポー? (そうそう、俺達だって、一度見た仲間は大抵覚えているぜ?)」
……そうかそうか……まぁ、俺は単独行動をしていたからな。
良いかーよっく聞いとけよ、お前等!!
「……コポポ!! (……一万人だ!!)」
「コポポポポー(げぇ!? そんな猛者だったのか!?)」
「コッポー! (俺達の今の上位ランカーの襲撃総合数なんか目じゃねぇな……!)」
そんなランキングなんかしてたのか……。
まぁ、洞窟内は基本暇だしな……。
……ってか、数を数えられるのか……意外と知性があるのか? ……悪いが。
「コポ! (キング! キング・アサヒ!!)」
「コポ! ポ! (キング! キング・アサヒ!! アサヒ!!)」
……何だ、その合唱は……!
しかも確り俺の名前まで入れてやがる……。
「……いつまでそうやっている気なの……早くしなさいよ! "コポコポ"煩いわよ! 夜が明けちゃうじゃない!!」
「「!!!」」
現れたメルリーナの声にスライム人間の二人は肩を震わせた。
あ……嫌な予感……。
俺がそんな予感をした時に、二人から何本もの水色の半透明な触手が勢い良くローブの中から出てきたんだ……!
そしてそれは勢いをそのままに、俺の身体に巻きついてきた。
冷たい触手の締め付けに、俺は思わず上ずった声が出た……。
あ、あの和やかなムードは何だったんだ……!?
「ぁ……ぅあ……!? やめ……!」
「コポー! (ああ、キング! 俺の意に反して触手が……?!)」
「ぃ……いや、だ……!」
「コポー……! (キング、すまねぇ! 術者には逆らえねぇ……!)」
「……そうよ、早くやってしまいなさい……! 夜の今がチャンスなんだから……!!」
肌を這って来るこいつ等の触手が……! 上手いところを這って来る!
……しかも媚薬の効果も伴って、かなりヤバイ……!
一応俺も武器を持って来ているから、応戦しようと思えば出来るんだけど……何か気が引けるんだよなぁ。
言葉交わしちまったし、元・同族だし……第一、俺だって穏便にいきたい……。
……まぁ、痺れているから、手に武器を持ってもどこまで持ってられるかが問題だが……。
まだ治癒が終わらないのか、この媚薬とせめぎ合っているからか……そこは俺には分らない。
いっそ、パラメーターとかあれば良いのに……。
「んンン……!? おい、服の中に……そんな……来んな!!」
「コポォ……! (きんぐ……無理……!)」
「……は、ぁ……あぁ……!」
ぐ……! 服内への侵入してきた触手に抗えない……!?
俺がそんな上ずった呻き声を出し始めた時、急に身体から触手の感覚が消えたんだ。
「コポ!? (何だ!?)」
「コポポ! (う、浮いてる!)」
そう、奴等が言っている通り、二人は空中に浮いていたんだ。
な、何がどうなっているんだ……?
「……その辺でストップだよ」
「……アビ!?」
声の先には、月光の下アビが立っていた。
脇には驚いて座り込んでいるメルリーナと、彼女のハンカチが落ちている。
どうやらチャンスを窺っていた……のか?
「……さっきは少し驚いたけど、僕だって伊達に長い事生きている訳じゃないからね……?」
そう言葉を発すると、スライム人間の二人をメルリーナの下に浮かせながら持って行き、アビはそれとは逆に俺の下にやって来た。
「アサヒ、ここは僕に任せて、早く逃げて……! いくらスライム達を手なずけても、今は無理だ。
あの子のかけている術を解くか、気絶させて意識外にしないと……。もしくは、何か"夜"が関係しているのか……」
「……ア、アビ……!? でも、お前……」
突然のアビの提案に俺は驚いた。
武器は使いたくないから、逃げるのは……とりあえずな感じで解決はしないけど、今俺はどうこう出来る状況をしていないからな……。
でも、それだとアビが……。
「……僕は大丈夫。いざとなったら霧に変化出来るから……。それにあの子をほっとけない……」
「……わ、分った……アビ……」
俺を見た後、メルリーナを見たアビの表情に、俺は……俺は今は彼に頼るしかないと思ったんだ……。
はぁ……俺はどうやらデータの管理と出力と……この世界の事をまだまだ学ばないといけないな。
これでは力があっても、無駄だ。無意識に近い状態で使ってばかりでは何も使えないに等しい……。
そんな事を考えながら手足に力を込めると、何とか立ち上がれた……けど、薬の効果でふら付く……。
……実は、僅かな衣擦れでも……ヤバイ……。
そんな俺を見て、アビは「動けるね?」と確認してきた。
俺はその確かめる問い掛けに頷く事で答えた。
「じゃ、……また遊びに行くね、アサヒ?」
「あ、ああ……また来いよな……!」
……何だかフラグくさい台詞が気になるが、俺はアビから離れて森へ向かった。
アビの厚意を無駄にする訳にはいかないからな……!
後ろからメルリーナの声が聞こえた気がしたけど、俺は振り返らなかった。
……それは、振り返ったら、足が逆の方へ歩みを進めそうだったからだ……。
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