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第34話 ゆらゆらと漂って -1-
森で気を失った後、次に目を開けたら半分知っている部屋だった。
要するに、宿の部屋だ。しかも"ハウル"の部屋。
部屋の空気が違うんだよな。ま、あの状況から考えると当然か……。
「…………あ……れ?」
「あ、起きました?」
声のした方に視線だけ向けると、少し覗き込むような形でハウルが俺の直ぐ脇の椅子に座っていた。
手には本があり、どうやら何かの物語の様だ……。
俺は今度は上体を起こして、視線だけではなくハウルの方を向いた。
「……もしかして、そこに居てくれた?」
「だいたい居ましたよ。少し席を外した時もありますけど」
ハウルは俺のそんな質問にゆっくりと答えながら俺を覗き込んできた。
な、何だろ?
「……もう大丈夫なようですね?」
俺の様子を確かめて、ハウルは再び身体を元の座っていた椅子へと戻した。
あれ? おかしいな?
俺の方が一つ上だけど、ハウルの方が今は上に感じる……。
あれ? あれ? あれ??
「……と、とにかく、ハウルのお陰で本当に助かった! 絶対何かお礼するから!!」
「そうですか?」
「そうだよ!」
そんなやりとりとしながら俺はハウルとの行為を思い出して、少し気恥ずかしくなったけど、ハウルはそんなに気にしていない様子だ。
……まぁ、その方が……お互い良いのかな?
そんな事を考えながらチラリとハウルを盗み見る。
一瞬視線が絡み合った後、ハウルは何か思い出した様で言葉を発してきた。
「あ、そうだ……」
ハウルはそう言い残すと部屋から出て行ってしまった……。何だ何だ?
そして戻ってきたハウルの手には、コップが持たれていた。
僅かに香ってくる、この薬草めいたものは……一種の薬かなんかと考えられる。
「さ、アサヒさん薬湯を用意しておきましたよ、どうぞ」
「…………ぅ……」
や、やっぱり……そういう物だったか……!
「そういう苦いのはヤだ。……ダメ?」
ベットの上から見上げるようにハウルをチラリと見る。自然上目使いだ。
少し待ったが返答が来ない……。
不思議に思い、彼の顔を見ると、顔が赤くなってた。
「……お、俺は必死に……意識を保っているんですから、そんな顔、しないで下さいよ……」
「……ハウル?」
「…………アサヒさんは無自覚でずるいですね……」
「え?」
少し拗ねた顔のハウルはいつもとは違く、年下だと強く感じる顔つきで俺を見ていた。
……そ、そうそう、これだよ、この攻めてる感じ……!
「ふっふっふー」
「……何で今度はそんな勝ち誇った様に笑うんですか……」
「だってさー……くっくくく……」
俺の忍び笑いにややむっとした表情をして、ハウルは持って来たコップを俺の目の前に突き出した。
「とにかく! この薬湯飲んでください! その、まぁ、簡単に言うと解毒効果がある薬湯です」
「げぇ……やっぱり見た目からして……」
「効果抜群ですよ?」
濃い緑のタプタプとした液体が、コップに多めに入っていた。
なぁ、こんなにサービスしなくて良いんだぜ? ハウル!
「うぅ……」
「さ、どうぞ」
こ、これは覚悟を……ま、まぁ、あのメルリーナの奴より何千倍もマシだろう……第一、薬だし! 良い方向のさ!
それにハウルがせっかく俺の為に用意してくれたんだ。飲まなきゃな!
そこで俺はおずおずと件のコップを受け取り、それを口に含みは始めた。
う……やっぱり苦い……けど、"無理"と感じる程ではない……。濃い目に作ったのか舌がやや痺れるけど……。
俺が渡された薬湯をチビチビと飲んでいるとハウルが言葉を掛けて来た。
「……アサヒさんと……ルツさんは付き合っているんですか……?」
「…………俺とルツは付き合ってないよ。第一、出会ったばかりだし……」
な、何だ、その質問は……。一瞬、間が空いたじゃないか。
長いスライムだった時期と、短い人になってからの期間で俺の感情は色々ゆるかったり希薄だったりしている。
"好き"という感情がいまいちどの種類か掴めない。例えるなら、"好き"は平面的な感じだ。
俺はハウルの突然の質問に意識半分で答えた。
ハウルの方を見てはないが、空気が少し揺れた気がした。
「そう……ですか」
「うん、そうなんだよ」
「そうですかー……」
そう呟きにも似た小さな声を出しながら、ハウルはベットの空いている位置に上半身を突っ伏してきた。
……まったく年が上か下か分からなくなるなぁ、ハウルは。ま、俺より一コ下なんだけど。
そんなハウルをそのままに俺は薬湯を飲み続けてるんだけど……。
「やっぱ苦い……! 舌が痺れてきた!」
「……でも、それ全部飲んで下さいよ……」
「うへぇ!」
俺の言葉にハウルは突っ伏したまま声を掛けて来た。声がくぐもって聞こえる。
俺はそんなハウルの言葉に再びコップの端に口を付け飲み始めた。
「………………」
「……何?」
「……何でもないです」
今度はハウルは無言で俺が飲んでいる姿を見ている。何だか妙な気分だ。
こういうのはさー少し苦手なんだよなー。ま、黙ってるけど……。
うーん、苦い! 減らない!!
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