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第38話 僕に世界を教えて -2-
「……まぁ、良く使われているものだし、他のも良く目にするのだから、これならすぐに元の記憶と合わさるんじゃないかな?」
「そ、そっか! そっかぁ……良かった……」
「うん、良かったな、アサヒ。じゃ、まとめていこうか」
「おう! リンデル宜しくー!」
そして俺は早速ペンを取り、文字を書いていく事に決めた。
「じゃ、これを使うと良い」
文字を書き始めた俺にリンデルは厚めな本……辞典らしき物を渡してきた。
本を受け取ってパラパラを軽く見てみると、やはり辞典だった。
今の軽い動作ですでに俺は頭の中で、処理が進み何個かは一致が完了した。
そして辞典を使いながら書き取りを始めた俺を見ながら、リンデルは静かに声を掛けてきた。
「君は……不思議だね、アサヒ」
「そう……かな?」
「そうさ。記憶が無い割には、こうして幾種類もの読み書きをこなしているし、例のトロールの話もあるしね」
まぁ、俺は有る意味まっさらな状態とチートな部分が重なっているからなぁ。
でも、まだまだスキルデータは残っているし、上手く使いこなせれば俺ってば最強じゃないかな?
俺が内心そんな事を考えてる間にリンデルも何か思案している様だった。
「……興味が湧くよ」
「?」
「……"アサヒ"に、だよ」
そう言いながら少しいつもと違う笑みを俺にリンデルは向けてきた。
その視線はどこか俺を探っている様な、好奇心の入り混じったものだ。
俺はそんな視線を受けながら、虹彩の定まらない瞳で彼を見返した。
そしてリンデルとの沈黙の中、俺も少し笑みを浮かべてみた。
言葉等は必要としないと思い、これで十分だと感じたからだ。
俺もリンデルに興味が湧いている。
「……続き、しようか?」
「うん」
そして何事も無かったかの様にリンデルは再びペンを動かし始めた。
俺はそのペンの動きに合わせて脳裏に文字を書いていく。
すると、それが鎖の様に繋がり、俺の中に眠っている知識に辿り着いて行くのだ。
この繰り返し。
これだけで俺はそれを自分物にしていく。
簡単だけど、単純作業が疲れを増させている気がしないでもない。
要するに"飽きてくる"のだ。
……リンデルには悪いけど、正直眠くなってきた。
ああ、日差しが気持ち良いなぁ。
俺ってば、結構真面目にやってるじゃん?そろそろ休憩とか、さ、うん。
ってか、俺ってば結構活発に日々活動していると思うんだけど……。
「……アサヒ、そこに用紙は無いけど?」
「へ?」
俺は急に腕を掴まれたと同時に聞こえてきたリンデルの声に、自分が意識を飛ばしていた事に気が付いた。
少しのたくった文字らしき物が見えた。解読不能だ。これは駄目だ。
「眠いのかい?」
「ぅ……まぁ……うん……」
「……しょうがないな……奥のソファで仮眠、するかい?」
「良いのか、リンデル?」
「構わないよ」
そしてリンデルは俺をソファまで連れて行ってくれた。
店内から母屋に入ると一般的に生活用品と感じられる物から、どこか違う土地のものだろうと感じる物まで実に多種多様の物が置かれていた。
店内とは違う空気の変化が新鮮で、少し緊張してくる。
それにしても、リンデルって物を集める趣味があるのかな?
面白そうな物が色々有りそうだけど、今はとにかく眠い……。
「じゃ、このソファーを使うと良いよ」
「うん、ありがと……」
俺があれこれ下らない事を考えているうちに、目的の場所に着いた様だ。
おお……目の前の整えられたソファーの輝かしき魅力っぷりに、俺は全てを早く委ねたくなった。
「ゆっくり眠ると良いよ。おやすみ」
「うん、ありがと……」
同じ事しか言えなくなってる……。
そんな俺を残してリンデルは部屋から店へと帰っていった。
「ふぁあぁ…………ん~~~む……」
思わずクッションに顔をこすり付けてしまった……。
やっぱり意外と疲れてるのかもなー。眠い眠い。
それとも、あのハウルから貰った薬湯に、睡眠効果の物が入っていたとか?
まぁ、それも在り得るかな?風邪薬だって眠くなるしな?
そんな訳で俺は易々と眠りへと落ちたわけだ。
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