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第40話 僕に世界を教えて -4-
―……コトリ……
小瓶だ。だが、瓶自体に意匠がこらしてあり、独特の重厚さがある。
そして机の上に置かれた小瓶の中には黒い粉が入っていた。
「………………」
「………………」
「………………」
「……これは?」
最初は無言だった俺達の中で、リンデルがエメルに話しかけ始めた。
「これは、とても貴重な品なんだ!」
「だから……何だ?」
「これを飲むと、何と霊力が備わってゴーストが見えるようになるんだッ!」
「「………………」」
エメルの回答に、俺とリンデルは文字通り"目"が点になった。
「…………また、お前は胡散臭い……」
「ははッ、嘘々! いくらなんでも、無い無い!」
エメルの軽い口調に、リンデルはやや怒っている様な呆れた感じのする声色を出した。
雰囲気からすると、いつもこんなやり取りをしてそうだけど?
「エメル……」
「ゴーストが見えるのは嘘だけど、貴重なのは本当だよ?」
リンデルの不満そうな呼びかけを意にも介しない様子で、エメルは話を進めていく。やっぱり、慣れてるな、これは。うん。
「これはブラックドラゴンの鱗を潰した物なんだ。これを武具とかに合成すれば、かなりの防御力とか付加属性が望めるって訳」
「……なんだ、お前にしては凄くまともな物じゃないか……」
「まぁね~。それに、ここまで"粉"にするのに結構苦労するんだ。だから、貴重品」
そこまで言うと、エメルはニコニコとした笑みを更に深めた。
「本当、苦労したよ~。この鱗入手は……今回の仕入れの超目玉商品! ま、この"粉"意外はそのままの形状で取引するけどね……小型だけど」
「良く入手出来たな……」
「……じゃぁ、エメルがブラックドラゴンを"獲った"って事?」
エメルの話を聞いていると、自分で獲ってきたみたいだ。
「まぁ、討伐がてらに商品入手が僕の主なスタイルだからね……そうだよ。
もちろん、僕一人でやった訳じゃないけど。仲間と……今回はルツ君にも参加してもらったけどねー。
こう見えても僕は一応"戦える商人"だからね……。周りの商人とはちょっと違うかな?」
そう言いながら、エメルはニコリと俺の質問に答えてきた。
うえぇー! ドラゴン狩り!
怖そうだけど、何か、こう……気分が高揚してくるな!
確かに、エメルと組めば色んな体験が出来そうだ。
こうして自分で商品を入手する為に、色々な所に行きそうだからな……!
「……どう? 僕との旅、気になってきた?」
「きた!」
これは即答だろ!
答えながら、軽い興奮で身体がザワつく。
「ところでエメル、そのブラックドラゴンの鱗はどこで買えるの?」
「これ? 僕の商品は個人でも取引してるけど、今回は……『アレックス&ケインの武器・防具店』の下の……鍛冶屋『ラビットジャンク』は知ってるかな?」
「……何となく、分かる気がする。行った事は無いけど……」
レンネルに連れて行ってもらった時の記憶を引き出しながら答えた。
確か、"強化・属性付加・オリジナル等もやっている"とか何とか書いてある看板を見た様な……?
「そう? そこの店主に以前から頼まれててね。今回は彼の所に行けば色々してもらえるはずだよ」
「なるほど」
「うん、今回のブラックドラゴンはね、急に入れた依頼商品だからね。
だから、ルツ君にも急ぎの召集をかけたんだ。彼、グリフォンで移動してるしさ」
……だからルツがあんな夜に出掛けて行ったのか。ふーん?
「じゃ、ルツがいつ王都に戻ってくるか、分かる? だって途中で別れたんだろ?」
「ルツ君? 彼なら多分、明後日くらいに王都に戻ってくると思うよ」
「明後日かぁ……」
エメルの言葉を聴きながら俺はルツの顔を思い浮かべた。
そんなに時間は経っていないと思うけど、妙に懐かしさを感じる。
知り合いが出来るって良いもんだなぁ……。
ロイさんに聞いてもらった予定日とそんな狂いが無いみたいし、とりあえず安心かな。
それにしても、ブラックドラゴンかぁー……。
小型、とか言ってたけどそんな簡単に獲れないでしょ、何となく。
俺がスライムだった頃に居た洞窟もそれなりに冒険者が来てたけど、実は"何か"が居たのかな?
ほら、あまり奥には行った事ないからさ……。
手前で"こはん"は十分にありつけてたし、非力なスライムで奥に行くのもどうかと。
魔物同士でも、縄張りとか天敵とか色々有るんだよ……。
……有るん、だけど……。
……―少し、あの洞窟に潜ってみたくなったのは、俺……の心だけの話だ。
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