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第41話 甘さは控えません。 -1-

「ところで、早速だけどアサヒ君に次の取引の時に護衛を頼みたいんだけど?」 エメルの声に、一気に現実に引き戻された。 突然の事に、間抜けな声が出た。 「え? あ、うん。いつ?」 「まーいつとはまだ決まっていないんだけどね、その時は宜しく! 俺も少し休みたいし、準備とかあるしさぁ……」 特に決まってないのか……。あ、でも連絡が来るのかな? 何だかはっきりしないのは少し落ち着かないけど、まぁ、しょうがないか。 「じゃ、俺はこれで帰るよ! ディルが待ってるからさ!」 「そうか。エメル、ディルに迷惑掛けるなよ? 愛想つかされないようにな」 「か、掛けてないし! ディルに愛想つかされるとか、こ、怖いだろ……いくら兄さんの冗談でも止めてくれよ……!」 「ディル?」 「ああ、僕の長年の相棒で一番の戦力なんだ! 今度紹介するよ」 ……一番の戦力……。 何だか、その言葉の響に筋骨隆々の大男を想像しちまうな。 "ニカー"とした満面の笑みが太陽をバックに仁王立ちしている。 「そっかぁ、それは楽しみだな……」 「うん、じゃぁまた近いうちにね。兄さんもまたね」 「ああ、またな」 エメルも帰るし、良い頃合かもしれない。 それじゃ、俺もリンデルにお礼を言ってそろそろ宿に戻ろうかな? 宿に戻り俺は早速、登録用の用紙にリンデルとエメルの名前を書き入れた。 良し良し、何だか知り合いだって実感湧くな。 今後も機会があれば、こうして増やして行きたい。 一通りの雑用を終えて俺は自分の寝床に潜り込んだ。 うん、やっぱり自分のところが一番落ち着く。 俺は眠りにつく間、リンデルのあの部屋を思い出していた。 リンデルの部屋の事を思い出すと、エメルは色んな所に行っているみたいだ。 うーん……早くエメルから連絡来ないかな……。 ベットの上で寝返りをうつと、僅かだが窓のカーテンの隙間から月明かりが漏れていた。 ……そう言えば、新月は気を付けた方が良いんだよな。スライムに戻るんだっけ? 自由に見えて、少し自由じゃないこの俺自身……。 まぁ、でも"人"に成れた事は素直に嬉しいし、楽しい。 俺はこの生活が気に入っている。 「かーちゃん……新月の時の説明にまた来てくれんだよな? ……あーあ、いつでも好きな時に会えれば良いのに……」 ……俺の呼びかけに答えてくれる時も有る、って言っていたけど、そう簡単じゃないだろ。 まず無理だと俺は思っている。 そう、かーちゃんは神様な訳で、俺を人にしてくれた。 他の出会った人達とは少し……俺の中の印象が違う。 俺をこうして"人"としてくれた時点で違う、って言っちゃそうなんだけど、こう……何か……気に成り度合が違うんだよ。 「マジ会いてぇ……」 月を見てかーちゃんを思い出す……。何だか、とても感傷的だな? あーあ、……この魔方陣の手紙機能がかーちゃんとかにも使えたら良いのに。 無意味にペラペラと用紙を揺らす。ペラペラしてるだけだ。ペラペラ。 「……サンタに手紙じゃあるまいし、無理だな……ははッ……」 だって、見えない、知らない人にとってはサンタや神様も同じだろう? 想像、空想で俺達は彼らと時間を共有して満足を得るんだ。 やがて俺はいつの間にか闇に飲まれていた。

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