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第42話 甘さは控えません。 -2-

「さて……」 俺はエメルに教えてもらった通り、鍛冶屋『ラビットジャンク』の看板の前に立っている。 看板の脇には地下へと降りる階段が伸びていた。 俺はそのままその階段を利用して、地下の店へと向かった。 思ったより短い距離を下りるだけで店の入り口に着いた。 入り口の脇の壁には、上に置いてある看板に似た台詞が書かれていた。 要するに、"強化・属性付加・オリジナル等もやっている"云々……のやつだ。 一応、俺は買ったばかりの二剣を佩いて来た。 この剣の重さとかにも慣れる意味合いもあるけど、単純に何か施したくもあったのだ……。実際にするかは決めていないけど。 初めて来店する店、って変に緊張とかするよなー。 とりあえず俺は店内に足を進めた。 「………………へぇ?」 店内は想像していた感じではなく、やけにあっさりとしていた。 カウンターと、ショーケース、壁には様々な武器……何かの見本かな?至ってシンプルだ。 ショーケースにはどうやら"素材"等が並べられている様だ。 そしてカウンターには店主らしき人物と、客が一人話し込んでいた。 彼らの間にあるカウンターには一振りの剣が置いてあり、どうやらそれについての様だ。 うぉ。先客かぁ……。 見た感じ"剣士"って感じの人物だな……。背は俺より高そうだ……。 何より、少し涼しげな目元が印象的だ。ま、フツーに爽やかな二枚目な容姿。 「………………」 え? 俺を見てる……? ……いや、もうちょい下に視線がいっている気が……。 あ。もしかして、この"剣"? 剣なのかな? でも俺がこんな事を数秒考えているうちに、その人物は俺から視線を外して再び店主に話しかけ始めた様だ。 少し遠くの方から、「じゃぁ、この剣のメンテ、頼んだぞ」「おぅ、任しとけよ。今回は少し派手に使ったなぁー」等の話し声が聞こえてきた。 聞くでもなく耳に入ってくるのだからしょうがない……。 そして俺は足早にショーケースの前に移動した。 中には整然とした佇まいで品物が並んでいた。 その中から、俺は自分が目的とする物をとりあえず優先的に目で探した。 え? 探している物は何か、って? そりゃぁ、あれだ、エメルの『ブラックドラゴンの鱗』だ。 やっぱり、実際見てみたいじゃないか。 「何かお探しで?」 俺がケースの中を見ているうちに、例の剣士は帰ったらしく店主と思しき人物が親しげに俺に話しかけてきた。 こっちの人物像はある意味荒くれ者、って感じか。何だか力強い荒々しさがある。おー太い二の腕! 胸筋もすげえし! まったく鍛冶職に向いてる身体にみえる。ハンマーとか振るしさ! 職人だ、職人! かっけぇなー! 「ん?」 「あー……"ブラックドラゴン"の……」 「"鱗"か!」 最初、俺の言葉を軽く促しながら聞いていた店主だったが、"ブラックドラゴン"の言葉に強く反応してきた。 どこか俺の答えを"ワクワク"と待っている様な店主の態度に内心、面白くなってきた。 「そう、それ」 「そうかー。いや~、情報が早いねアンタ。ドラゴン類は結構人気でさ、これだ」 そう言いながら店主は布に包んだドラゴンの鱗……もとい、皮を俺の目の前に置いた。 黒くやや光沢のあるそれは、触ってみると意外と鉱石に似た雰囲気があった。 手の甲でノックする様に鱗を軽く叩くと、"コーンコーン"と澄んだ音が返ってくる。 「まだ並べて無いんだけど、もしかしてアンタはこれで何か作るかい?」 「……いや? まだ決めてないんだ……でも、興味はあるかなぁ……」 「なるほど? まぁ、必要ならまた声かけてくれよな。ただし、これは人気商品だからな?」 最後の方で店主は"ニヤリ"と笑ってきた。 暗に"今がチャンス"と言われている様だ。ふ~ん? ま、俺はその鱗にも興味があるのは確かだが、今は店主の後ろに鎮座している物に興味の対象が移っちまった。 それに、剣に何かと考えているけど、まだ具体案が無い俺は何となく踏み出せないでいるのだ。 とりあえずその後ろにあるのを聞いてみようかな? 「……後ろにある、それは? その一つ目の頭蓋骨……」 「ああ、このサイクロプスか? こいつは鍛冶の神様に一応あやかろうと思って置いてんだ」 「サイクロプス……が?」 「そう、サイクロプスが。コイツは"バケモン"として扱われる反面、俺ら鍛冶の中では"神様"でもあるんだ」 へぇ? 見方によって色々有るもんだな。 俺はサイクロプスの単眼の頭蓋骨を眺めた。 見慣れてない物を見ているせいか、何だか不思議な気持ちだ。 俺と店主がそんな他愛ない会話をしていたら、後方のドアが開閉される気配を感じた。どうやら新しい客が来た様だ。 「あれ? アサヒさん?」 「おー、ハウルじゃん」 俺が店主と話していると何とハウルが現れた。 ハウルと店主は顔馴染みの様で、ハウルに気軽に「よぉー」とか声を掛けていた。ハウルもそれに対して「ども」と短く返事をした。 「ハウル、出来てるぜぇ~」 「ああ、俺、避けるよ」 「……何かすみません……」 俺よかハウルの用事を済ませた方が良さそうだったから、俺は店主の前の位置をハウルに譲った。 店主も特に何も言わず、ハウルに会話対象が移った様だ。 「まったく……確実に仕留めるのも良いけどよ、身体も大事にしろよなー。俺の食い扶持が減るじゃねぇかよー」 「ははッ、酷い言い方ですね……」 「まぁ、俺は頼まれれば仕事はちゃんとするからな。折れた剣も新素材入りで強化しといたぜー?」 そう言いながら店主は「自信作だ」と言いながら、ハウルの目の前に大剣を置いた。 なるほど?確かに強そうな雰囲気がある剣だ。 「……新素材って、俺を実験台にしてません?」 「してねーよ! ヒデェなぁ~!」 「冗談です。では、これ……」 「おう、毎度!」 ハウルは言いながら代金を払っている。その瞳は出来上がった剣を試したそうな雰囲気が見て取れた。 だけど、こうしてハウルと会えたんだし、俺はちょっとハウルを誘う事にした。 「なー、ハウル、何か食い行こうぜ? この前のお礼に奢らせてくれぃー」 「別に良いですよー」 「そ、そうはいかないぜ! ハウル! さ! 何か! 何かないか!!」 お前のほのぼのした空気に俺は流されないぞ! さぁ、ハウル、言え! お兄さんに何でも言ってごらん?!! (一応、俺の方が年齢が一コ上なんだ) 両手を広げで無言でハウルを見つめていると、ハウルは「う~~~ん」と考え出した。よし、その調子だ! 「……なら、アサヒさんに付き合ってもらいたいお店があります。良いですか?」 「おー良いぜー行こう行こう!」 よし! よく頑張ったハウル、ナイス! 「じゃ、ハウル行こう!」 「あ、は、はい……?」 「ぁ……わり」 「いえ、良いです」 俺は思わずハウルの手を引いてた。 そして放そうとした俺の手を、逆にハウルが握ってきたんだ。 "くッ"って掌にハウルの力が加わった時は少し驚いたけど、俺も握り返した。

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