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第44話 甘さは控えません。 -4-

そうしてハウルに呼び出されて俺達の前に現れたのは、兎の獣人"ミト"だった。 兎の耳は短めなタイプな様で、それが特徴的だ。 何でも彼は"情報屋"であるらしい。 「俺、ミトってーの、よろしくぅ」 見た感じ俺やハウルと大して変わらない年齢に感じるけど、背が低めな分と大きな瞳が何となく幼さを感じさせる。 ミトはさくっと自己紹介してきて、これまたさくっと名前交換を済ませてきた。営業力高そう。 「で? ハウルに食いモン食わせてやるから早く来いって言われてさー、どれ? これー?」 「そうだ」 「えー? デザート系ばっかじゃん? ハウル、また頼み過ぎたのかよ~」 「お、俺じゃ……」 ほぉー。ハウルは今回の俺みたいな事を度々やらかすみたいだな……。 一応今回やらかしたのは俺だから、ミトには自己申告しておくか。 「情報屋ってのは、結構運動量激しいから直ぐお腹減るんだー。こんくらい簡単だよ、任せて」 そう言うと、ミトはデザートスプーンでアイスを掬い食べ始めた。 「あー、動いた後の甘味は美味しいねー。そうだ、少しでも食べておけば? これ次にいつ食べるか分からないでしょ」 そんな訳で結局、男三人で数多のスィーツを適当にそれぞれ突付き合っている。まぁ、これもアリかなー。 それに単純にこのスィーツらは美味い。 スイーツを突付きながら、ハウルがミトに話し掛け始めた。 「なぁ、ミト、何か面白い情報はないか?」 「ん~? 有るかなー無いかなー?」 ハウルの問い掛けに、ミトはニヤリとしながら茶化した答え方をしてきた。 それから口に運んだスプーンの端を歯で浅く咥えて、"ニヤ~"とした笑みを浮かべている。 一目でミトがハウルをからかっているのだと分かる。仲良いんだな。 「でも、まぁこんな美味しい物貰っちゃったし、特別サービスかなぁ? ……必要な裏の情報、あったら教えるよ。だから知りたい時は俺を呼んでね! 一回、タダで情報提供しちゃうよ~! あはは!」 軽く俺達にそう言うと、ミトは笑顔を向けてきた。 う、裏の情報とかって……。どんだけ把握してるんだ……。 そんなポワポワした見た目じゃ、裏情報に詳しいなんて分からねぇな。 「お、おう、ありがとな!」 「……それは助かる。……ミト、右頬とかにベリーが付いてる」 「えー? マジで? ……んと?」 「……ほら……」 「ん……?」 ハウルに言われてから、なかなか問題のベリーの位置に行き着かないミトに見かねて、ハウルがナプキンで拭いてやってる……。 何だか、ハウルがオトンかオカンの様だ。 そしてミトはその言葉通り、ペロリと平らげてしまった。 見た目とても華奢そうなのに! どこに入っていった?!え?マジ? ミトは「ご馳走様」と締めくくって、「はぁー食べた食べた」とご満悦だ。 ミトの腹が少しポコ腹に感じる。いー感じに膨れてる。 「いや~結構食べたけど、甘いから肉まん食いたくなってきたわ」 サラリと言ったけど、まだ食べる気でいるのか! 「"包包包(パオパオパオ)"って店の点心が美味いよ。可愛い子居るしさぁー、あそこは行って損しないよ」 「まだ食べるのか……?」 「さぁ? でも、まだまだ俺のオシゴトは終わらないんでね~そろそろ行くわー。 今日はありがとな。じゃ、ハウル、アサヒまたねー」 そう言い残すとミトは俺達を残して店を出て行ってしまった……。 その素早さ、何だか不思議の国のアリスの兎を思い出すな。 「……じゃ、俺達も出ますか」 「そうだなぁ、帰るかー」 「今日はご馳走様です」 「いんやー」 店から出ても、俺達の帰る場所は同じだ。同じ宿に部屋を取ってるからな。 そこで俺達は他愛無い会話を楽しみながら帰途に着いた。 帰りの道中で試しに持たせてもらったハウルの大剣は重かった……。こんなの振り回すのかよーすげぇな。 そんな事をしながら歩いていたら、いつの間にか宿に着いた。 ……もうちょっとでハウルと別れるんだよなぁ……。 「ハーウール!」 「なんで…………ん……?」 「……甘いなぁ、ハウル……」 俺は別れ際にハウルに唇を重ねた。 ハウルの方が背が高いから、引き寄せる形なんだけどさ。 「アサヒさんだって、甘いですよ」 「……んン……」 俺の行為にハウルはふざけた様に同じ行為で返してきた。 こうしてみると、ハウルは魔力量があまり無い様だなぁ。 まぁ、そんなの俺には関係無いけど。 チビチビと魔力が自分に流れてくる感覚があったから、こう思ったのだ。 「……?」 「どうしたんです?」 「……いや、何でも無い……」 ……今、誰かに見られた様な……そんな幽かな気配が……。 ハウルは気が付かなかったのかな?それとも俺の勘違い? 「……じゃ、俺帰るわ……ハウルまたなぁ」 「はい、おやすみなさいアサヒさん」 「ん、おやすみ」 ……少し気に成るけど、もうそれは捉えられなかった……。

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