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第50話 気持ちの行方 -2-
そうこうしている内に俺は本当に人の居ないと思われるエリアまで来た。
試しに辺りを探ってみても人の気配は感じられなかった。
「おおー……何となく心地良いなぁ……そろそろ何か読んでみようかな……?」
誰も居ない、って事はさ、俺がどんな本を読んでも気にする奴が居ないって事だろ?
つまりさ、うっかり超難解な本とかさ、珍しい本とか手に取って読んでいても怪しまれないんだ。
そこいらの区別が全く無いからなぁ、俺は……。読めちゃうんですよ。有る程度理解出来るんですよ。多分。
それは俺の中に有る一万人のデータの中にスキルがあれば、自動的に引っ張り出されて変換されてくんだけどさ。
「……何この生き物……『古代の魔生物』? へぇ? ぅわ、グロっぽい……へぇ……」
適当に選んだ本は『古代魔生物の図鑑』みたいな物だった。
造形的にどうしてこういうの道を辿ったのか、全く疑問な不思議な生物が描かれている。
本当に居たのか? はたまた、まだ居るのか……。
そこで俺はユークの石鹸の造形を思い出した。あの、"ウサギガエル"の奴だ。
ユークはこういうの作るの上手そうだ……。サクサク作って笑顔で店のカウンター脇の石鹸籠に混ぜてきそうだな、何となく。
う~ん……それはそれで面白いかもしれない……。
それにしてもこの図鑑、何となく面白い……。目が変に離せない……。
そして俺はいつしかこの本に夢中になっていた……。
「―……アサヒ……」
―……あれ? 今、俺ってば誰かに呼ばれた?
俺は素直に名前を呼ばれた方に視線を向けた。
そして視線の先にグリンフィートが立っているのを見つけたんだ。
「……話せる機会、ずっと伺ってた……何かごめん……」
「……いや? 構わないけど?」
……"ずっと"って、実は最初から俺の行動見てたの? え~それは微妙に恥ずかしい……。まぁ、良いけど。
…………まぁさぁ、グリンフィートは勇者の家系だし冒険もそれなりにこなしているだろうから、気配を消せる術とか……知っていてもおかしくないけどな……。
そしてやや薄暗い室内の中で更に背の高い本棚からの影が、グリンフィートに落ちていた。
俺の居る位置からグリンフィートの細やかな表情は分からないが、眉が寄っている感じがする。どうしたのかな?
俺はそんなどこか思い詰めた様に立っている彼の元へ足を向けた。
そんなグリンフィートは、今は俺から自身の足元に視線を移して、声を掛けてきた場所でただ立っている。
俺はそんな彼の前に立ち、少し頭を傾けてグリンフィートの表情を見ようとしたけど、薄い暗がりで上手くいかなかった……。
……それはもう外が暗くなってきているせいか、この室内の背が高い本棚のせいかは分からないが、少し重く、暗い印象が俺達を包んでいた。
「それで? 俺に何か用?」
「……うん……今、良いかな?」
「良いぜ。構わないよ」
たわいない遣り取りの声が辺りに響いているが、結局この階層には俺達しか居ない様なので、普段の音量のままだ。
数回言いよどんで、口をパクパクさせていたグリンフィートだったが、結局話を先に進める為に声を出してきた。
「……手、繋いで……」
「……手? 良いよ、ほら」
思いつめてる感じがしたから、一体何だと思ったが、可愛いもんじゃねえか。
俺はグリンフィートに言われた通り、彼と手を繋いだ。理由は全く分からないが、これが彼の希望なのだからしょうがない。
俺は何となく手を繋ぎながら、先程の魔生物がチラリと頭の中を掠めた事に意識を持っていかれた。
「あ、あのさ……アサヒ、俺にも……して……」
グリンフィートが俺に何かを言いながら、繋いだ手に力が篭るのが分かった。
それが何故か"逃さない"といった類の意思を感じたのは気のせい……だろうか?
だが、グリンフィートの声は小さく、しかも意識が魔生物に持っていかれていた俺は残念ながら一回では聞き取れなかった。
「? 何? 悪ぃ……良く聞こえなかった……」
「……キ、キス、して……ここで」
「え!!?」
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