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第55話 月の軌跡に沈む夜 -1-
俺はあの大岩のある草原に来た。今は夜だ。
今回は剣スキルと一部の魔法を呼び覚ますのが目的なんだ。
ほら、エメルの依頼を受けるにも自分で決めるにも、これってかなり必要な事じゃないかなーってさ?
一定の力の放出は出来るけど、それ以上のスキルを使うには感覚が足りないんだよ。
多いと逆に煩雑になるのな。だから早く身に着けたいんだよ。
こういう技術系はさ、意外と"日々の努力"が物を言ったりするんだよなー。まぁ、俺は時々でいい加減だけどさ……。
「………………ま、誰も居ないね」
半分予想してたけどさ。リンデルは今日は来ないと思うし。
言いながら見渡しても、気持ち良いくらい俺しか居ない。今だけ、この草原は全部俺のだ。
それにしてもこの前、王立図書館でグリンフィートに"名前"を交換しそこねたのが残念だ。行為に没頭し過ぎた……。
会えそうでなかなか遭遇しないんだよなぁ……。グリンフィートって、普段どこに居るんだろう?
宿もさぁ、『小熊の尻尾』なのか、違うのかとか、実は屋敷住みなのか全然分からないしなー。
まぁ、裏勇者はアレだけど、普段のグリンフィートは単純に良い奴だし、結局俺は両方好きだけどな。
―……ヒュン! ……ヒュ……ン!
……剣が空気を斬る音がなかなかさまに成って来た気がする。
こういうのは、相手とかいてくれると良いのかな……? そうすれば、もっと分かりやすいのかもしれない。
誰かに頼もうか……剣なら、ルツ、ハウル、グリンフィート……レンネルはシーフだけど、頼めば付き合ってくれそうかな?
……リンデルは魔法使いだったなー。それで…………エメルは……何だ?
"戦う商人"とかって言うくらいだから、何か武器が扱えるんだろうけど、検討もつかないなぁ?
「……はぁ、はぁ……!」
もうちょっと、太刀筋が安定してくれると嬉しいんだけど。まだデータと一致してこない……。くそッ。
やり始めたばかりだけど、気だけが競っていくんだよな……。
剣を振るなんて、ほぼ初めてかなぁ……。まぁ、適当に振っても良いけどさ、多分。出来てしまうんですよ、うん。
でもさぁ、もっと精度上げたく成るじゃん? そっちの方が楽しそうだろ?
「ちょっと休憩……」
はー……結構色んな筋肉使うな……。バキバキしてきそうだ。
まぁ、スライムの能力や治癒魔法で回復可能だと思うけどさ。治癒魔法はちょっと自分自身だから効き辛いかもしんねぇけど。
今ので基本的なのはスキルがリンクしてくれたかな?
「……んじゃ、次、だ……」
そう、今度は実戦向きな魔法を使ってみようと思うんだ。
えーと? 何を出そうかな?どうすれば良いんだ? 良く分からないなぁ?
基本の式とか手順がスッパ抜けて、答えを知っている状態だからな、俺ってば。
とにかく何かアクションしてみるか。
「……"動け"!」
俺はとりあえず目の前の地面を指差して言ってみた。
……いや、単純だけどさ……? 俺的に大地がぐぉおおー、って盛り上がるイメージを……
―……グ……グゾゾゾゾゾ……!!!!
「!?」
おおー……マジで大地の壁が出来ちまった……。意外に堅い……防御に最適かもしれない。
あれ? ……す、すげぇ! 俺ってば、無詠唱で魔法を解き放てるのか! スキルデータ万歳だな!
そうか、あれだ! かーちゃんが言っていた、『"高位"の術者を何人も取り込んでいる』から、多分それが効いてるんじゃねぇかな!?
そしてどうやら、"イメージ"して"指示"を出す、のが大事らしいな。
中には詠唱とか、魔方陣とかが必要な物も有るとは思うが、基本は"これ"で十分だろう。うんうん。楽しいなー。
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