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第56話 月の軌跡に沈む夜 -2-

あれから一通り適当に魔法や剣技を試して、一旦休息にしようと思い俺はその場に立ち止まった。 そして何となく俺は夜空を仰ぎ見た。 「……赤くない……なぁ……?」 ……見上げた月は赤くなかった……。 ジンが"月が赤い日に植物公園に来れば良いものが見れるかもしれない"、って言ってたけど、問題の月の色の変化は不定期だって言うし……。 ……ん? 月は赤くないけど、……あれは……? ―……もしかして……いや……でも……マジで……? 俺は天上を見上げながら、その場で手元は見ずに二剣を鞘に収めた。 月を背に、ふわふわと下りてくる光から目が放せなかったんだ……だってあれは多分…… 「かーちゃん……」 俺は自然と光に吸い寄せられる様に、その光の元へと駆け出した。 自分までの距離が億劫に感じたんだ……。 「かーちゃん!!」 「アサヒ、久し振りですね……」 走りながら下から叫べは、確かにかーちゃんの声が返って来た。 俺は現れたかーちゃんに抱きつこうとして、更に加速して思いっきり駆け寄った。 だってすげぇ逢いたかったんだ! やったぁ! かーちゃんとはいつ逢えるとか全く分からないから、本当嬉しい! それに何てったって"神様"だからなぁ! この世界の最高神の三人の内の一人なのだよ。 俺をこうして"人"にしてくれた点でも、俺にとって特別な存在なんだ。 もはや全力で駆け寄る俺に、かーちゃんは両腕を開いて笑顔で待っていてくれている! 俺も両腕を開くぜ!! 「か―――ちゃ――ん!!!」 「アサヒ、さぁ……おいでなさい」 ―……そして、見事にすり抜けてそのまま前方に倒れこんだ……。コントかよ! 「!????」 「ああ、すみません……今実体化しますね」 そう言いながら、かーちゃんの周りに更に光が収束していく。……見た感じ全然変化が分からないんだけどなぁ? 「かーちゃん……痛い……何で……」 「どこです? アサヒ、見せて御覧なさい……」 俺はかーちゃんの言葉に擦りむいた腕を見せた。地味に痛い……。 かーちゃんはそんな俺の腕を確認すると一つ頷いた。 「治してあげます」 「ありがと……」 そしてかーちゃんは言葉通り、手をサッと翳すだけで俺の傷を治してくれた。さすが神様だよな! 俺が治った腕を見ていると、かーちゃんが再び話し始めた。何かな? 「今日はアサヒに"新月"の話しをしに来ました。アサヒ、今は時間が有りますか?」 「……有るよ! 大丈夫!」 まぁ、時間が無かったら、即行で作るけどな! だって、かーちゃんと居たいからさぁ! 余裕余裕! それから俺達は大岩に移動して、隣り合って座った。サワサワとした緩い夜風が心地良い……。 夜風に僅かに揺れるかーちゃんの白髪の様なプラチナブロンドよりさらに薄い色合いの髪は月光を反射して、陰影がとても綺麗なんだ。 かーちゃんの髪はさ、毛先が淡いオレンジな様な朱色な様な……。そこがまた不思議な感じで俺は好きなんだけど。 あと、僅かに身体が淡く光っているんだ。神様だからかな? …………やっぱりかーちゃんは見ているだけで飽きない。 そして夜空の様な深い紺の瞳を俺に向けて話し始めた。 「それでは"新月"の時の事でも簡単に話しましょうか」 「うん、かーちゃん宜しく!」 俺の言葉にかーちゃんは軽く咳払いをしてから話し始めてくれた。 「……まぁ、アサヒは何となく感じているかもしれませんが、"新月"が近くなると魔力を求める行為を多く欲したり、"眠く"成り易いです」 「うん、確かに欲しくなったり、眠く成り易い……」 俺のそんな返答に、かーちゃんは頷きつつ話しを続けてきた。 「それは月の満ち欠けで、新月の日は月が消える……無くなるからです。 その日は月を司っている私の魔力も弱まってしまい、アサヒは人の器の維持より、"生きる"為に一次的にスライムに戻ってしまうのです。 ……"加護"が貯まり、器が完全に成れば、スライムに戻る事も無くなるでしょうが……今は慣らし期間ですので、仕方無い事なのです。 "人の器"を維持するのに、実は膨大な魔力の圧縮が必要なのです……。 そして余計な力……魔力の消費を抑える為に、身体が眠りを欲するんです」 俺の身体ってそんな事が起きていたのか……。 まぁ、『闇族のスライムが人間に』、だからなぁ。……普通の過程を辿っている訳無いと思っているけど、仕組みは案外大変なのかな? 「そして、新月の前後……月初め、または月の終わりは魔力が減少してしまいますが、代わりに月半ばの満月の前後は魔力の威力が高まります」 「……へぇ? それって、魔法の威力とかにも関係するのかな?」 「します。満月の前後は大技が決めやすいでしょう」 「マジで!? ぅわ! 凄い!」 ヤバイ! それは興奮してくる!! 俺は話の内容に一人、身震いをした。そんな俺をかーちゃんは笑顔で見ている。ああ、この空間最高だ……。 「そうだ……かーちゃん、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」 「はい、何でしょう?」 そこで俺はジンの時の話をしたんだ。あの"赤い月"の事だ。 俺の話を最後まで聞いた後で、かーちゃんは口を開いた。 「"月が赤く"ですか?」 「うん、何かあるの?」 俺の言葉にかーちゃんは少し考える素振りを見せた。 「そうですね……大気に含まれる魔力の量の変化で月が赤く見えるのかもしれませんね」 「へぇ?」 「確かに、増減している魔力の量で何か変化が起きるのかもしれませんよ?」 そんな仕組みが存在しているのか?まるで月の満ち欠けで起きる、潮の満ち引きの様だ。 ってことは、そこらに魔力が溶け込んでいるという事になるのかな? まぁ、空気をこまかーく分けていけば色々な物質何かが絡み合っているしな。魔力も有かもしれない。 俺がそんな事を考えて結論付けていると、かーちゃんが俺の髪を撫でてきた。 ……何かな? ゆっくりと撫でられながら、俺は少しづつ期待に胸を膨らませてかーちゃんの"ある言葉"を待っていた。 それはさ…… 「さて……アサヒ、"加護"をあげましょう」 「……ぅ、うん……かーちゃん……!」

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