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第60話 対決? 猫くんとぺたぺたサワサワ合戦! -1-
リリサ先生から魔方陣符の新機能のお知らせが来ていた。
内容的には、このまま返信して更新内容を受け取るか、研究所まで来て直接説明を受けながら更新するかという内容だった。
研究所に来る時は、"魔方陣符"を持参しろと書かれていた。
なので、俺は早速リリサ先生のところを尋ねる事にした。たまにだし、先生の名前を貰おうと思ってさ。
そしてどうやら、こういう情報の更新は一方的に向こうから来るみたいだ。便利だなぁー。
宿から外に出ると、今日は曇っている。
少しひんやりとした空気に雨の気配を少し感じたが、俺はそのまま出掛ける事にした。
「やぁいらっしゃいアサヒ」
「こんにちは、リリサ先生」
相変わらず先生は一気に喋るなぁ。咬んだりしないし、呼吸とかどうしてるのかな?
「"お知らせ"を貰ったから来たんだけど……?」
「あれか……分かった説明するからこっちに来てくれ」
先生に着いて行くと、部屋の中にあるソファーとテーブルが置いてある位置に連れて行かれた。
動作で「座れ」と言われた気がして、俺はリリサ先生に習ってソファーに腰を下ろした。
「文が届いた時の知らせてくれるアイコンは"球体・円錐・四角柱"の三つだ。好みで選ぶと良いまぁいつでも変えられるがな」
俺が座ったのを確認して、先生は説明を始めた。
「誰から来たかはこの表の色から指定して設定していくんだデフォルトの他に自由に色指定も出来るから好きにすると良い」
「うん、誰から来たか分かり易いね」
「そうだろう? どんどん便利にするんだ楽しいよ……どれ新しく更新した魔法符に書き換えようか」
そうか、この前のグリンフィートの近くに現れた白い球体はこれだったのか! 確かに誰か名前を言っていたな……?
「じゃぁ、リリサ先生の名前頂戴? 俺のも渡すから……良いかな?」
「私の? ああ構わんぞ」
「ありがとー。先生ので早速設定してみようかな?」
「そうか良しやってみろ」
先生に魔法符を渡して更新を掛けてもらい、受け取ってから俺は先生を魔法符に登録した。ではでは新機能を試して行きますかー!
お知らせアイコンは……球体にしようかな? それと、リリサ先生は髪の色が薄めな桜色だから、似た色を選んでおこう。うん、これかな……?
実に簡単だ。
「うん、出来たよ先生。名前も登録完了してるし」
「良し分かったアサヒに何か送ろう」
リリサ先生はそう言うと、早速俺に何か送ってきた。
先生の動作が終わると、俺の脇……視線の先に薄桜色の球体が出現した。
どうやら接続は上手く完了したみたいだ。良かった。
球体を触ると、薄桜色のそれは消えていった。
そして先生から来た内容は「面白いか?」だった。
なので、俺は素直に口頭で「面白いよ」と先生に答えた。
うん、これは本当に面白いな。後でみんなの設定しておこう。
―……急な雨は厄介だなぁ……。
……やっぱり何か雨を防ぐのを準備していれば良かったのかもしれない。
俺はリリサ先生の研究所を出て、宿に帰るまでの道のりをまたわざと知っている道から逸れて、違う道で帰る事にしたんだ。
そしてブラブラと今まで知らなかった道のりを楽しんでいたら、こうして雨に降られたって訳だ……。
まぁ、しばらくしたらそれほど激しく降っている訳でも無いし、その内止むだろう。
俺はとりあえず今居る裏通りで適当に雨宿りをする事を決めた。
背を任せた石壁が少し冷たいが、しょうがないかな……。
雨音はそんなにしないのに、細くて透明なこれは檻だ。変に閉じ込められた錯覚に、俺は陥った。
「……ねぇ、君、幾ら?」
「……はぁ?」
あれから幾分か薄暗く成ってきた裏通りで雨宿りをしていたら、フードを目深に被ったおっさんに声を掛けられた。
体型が良い感じにでぷっとしていて、一見シンプルなフードの質はなかなかどうして質が良さそうだ。
そして俺の手を軽く掴むおっさんの手には、幾つか高価そうな指輪が煌いていた。
その中に自然に目を引く指輪があった。
"双頭の蛇"の装飾が施されているもので、見る人が見ればもしかしたら身分が割り出せるのではと思わせる代物だ。無防備じゃねぇかな?
「………………」
俺は無言でおっさんから手を抜き差って、その場から離れる為に雨の中へ足を踏み出した。とりあえず無視だ、無視。
「あ、君ぃ、待ってよ!」
パシャパシャと雨で出来た水溜りの足音をお供に響かせて、おっさんが俺を追ってきた。足元くらい選べよなぁ……。
「……出すよ? ほら……希望の金額、言ってみなよ、ね?ね?」
俺に追いついたおっさんは今度は何処も掴んでこなかったが、俺を覗き込んで早口に捲くし立てて来た。
何だよ、コイツは……しつこいな。金とかいらねぇし。
……呆れるくらいの高額をふっかけてみれば良いのか? ……ってどんぐらいかな? 金貨何枚くらい? いまいち金銭感覚がまだ分からん。
「……向こうに行けよ。着いて来んな」
「そんな事言わないでさ、こんな所で一人で佇んでいるなんて…………そう、なんだろ? ね? 一緒に向こうに行こうよ……楽しいよ?」
「……………………んなわけ……」
「ちょっと、こんなところで何やってるの?」
俺がおっさんに口を開きかけた時、横から知っている声が掛かった。
―……レンネル、だ。
「向こう行こうぜ」
「……あ……」
突然現れたレンネルは手短にそれだけ言うと、俺の手を引いて歩き出した。
後方から、さっきのおっさんがキーキー罵声を浴びせてきたけど、レンネルは振り返りもせずにいた。
「……まったく……アサヒは無駄に見た目が良いんだから、陽が在るうちでもあんなヤバイ裏通りフラフラ歩くなよ。危ねーだろーが」
「………………そういう通りなのか……」
「あそこはマジで金持ってる奴がああして道楽でうろつくから、下手に金額提示しない方が良いんだよ」
まぁ、あのおっさんの言葉内容で薄々は感じてたけどさー。マジでか……。
「……アサヒ、服乾かしていけよ。風邪ひくだろ?俺の部屋近いから……」
「レンネルの……? うん、行く」
俺の返答に、レンネルは繋いて居る力を強めた。だから俺もそれに答えて力を強めといた。
それから俺達は、横並びじゃなくて縦並びに近い形でレンネルの部屋に向かった。
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