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第64話 新月のスラデレラ -1-
―……さて、俺はついに迎えたのだ……。そう、今宵は『新月の日』……。
―………………俺が元の姿のスライムに戻る日だ。
俺は日々皆から"精"を貰っているから普段は人の器を維持出来てるんだけど、この『新月の日』ばかりはかーちゃんの魔力が薄れてこうなっちまうんだよな。
月を司るかーちゃんの魔力が、月の満ち欠けでモロに俺に影響を及ぼしてるのが凄くわかる現象だ。
人の"精"を一定量貰い続けて、かーちゃんの"加護"が終われば、俺はいつでも人型を維持できるらしいんだけど、それっていつなのかな?
かーちゃんと俺の"人完全化"の道のりは(多分)長いぜ……。ふう!
まぁ、今のところは俺に"精"をくれる皆はそれぞれ美味しい"精"をお持ちのようで、俺的にはしてもされても満足なんだけどさぁ。
ああ、俺ってゆるいリバ体質なんだなー。得した気分だぜ。
一応言っておくけど、俺は別に彼らを"ご飯対象"として見てたり、やっていたりしてる訳じゃないんだぜ?
それぞれにさぁ、魅力を感じちゃうんだよね。
え? 一番好きな奴 ?……さぁ? 誰かな? はははっ。
「……良し、これで誰だか分かり易いぞ」
俺は誰が送ってきたか分かる様に設定し終えた魔法符を前に、やり遂げた気分で満たされていた。
そうそう、レンネルからはあの後、帰り際名前を交換してもらった。グリンフィートの時みないな失敗はなるべくしないぜ!
ちなみに内訳はこんな感じだ。だいたい髪や瞳と連動させておいた。
ルツ→薄紫 / 球体アイコン
ハウル → 黄色 / 球体アイコン
リリサ先生→薄い桜色 / 球体アイコン
リンデル→オレンジ / 球体アイコン
エメル→オレンジ / 四角アイコン
レンネル→薄茶 / 球体アイコン
ミト→濃いピンク / 球体アイコン
部屋で魔法符の登録整理をし終えて、やる事が無くなった俺は気の向くまま外に出たんだ。
そして俺は何となく気まぐれで外に出て、例の草原に続く道をプラプラ歩いてたんだ。草原には良く行くから、もう足が勝手にそこを選ぶのかも知れないな。
外に出て、何でこうしているのか分かってきた。
多分、初めての『新月』でさ、心がソワソワして落ち着かなかったんだよ……。
そして草原に続く道は当然、今日は新月だから月明かりが無く、ただ暗く足元に存在している。
足元に有るのに、半分位見えない状態で俺は何となくフラフラと草原までの道を辿っている……。
しかし、その闇の中に光が生まれ始めたんだ。
「……? あれ……? 何だ、この光は……って、俺から出てるのかよ?!」
―……ついに俺は"スライムの戻る時"を迎えた様だ。
痛みや熱等は一切無く、ただ静に七色に輝く光の珠が俺の身体から放出されている。
そして土の匂いを強く感じ始めた。どうやら身体が地面に近い高さになった様だ。
本当に一瞬の出来事だった。
「コプゥ……(変な位置で元に戻っちまったなぁ……)」
……とりあえずそこらの木の洞に隠れて、少し落ち着いて休憩するかな……。
久々のスライムとしての感覚に、頭も身体もまだこの状況に追いつけていない気がする。
今、何時位かなぁ……? 良く分からないな……。まぁ、まだ夜中じゃ無い事は確かだな。
おお、この木の洞……なかなかのサイズ……ここにするかぁ……ふむ?
「わ、スライム?」
「ポッ!? (い!?)」
―……何でこんな時間、場所に少年が!?
俺は洞でうつらうつらしているところを急に発見されたのだ。突然の事に対応の仕様が無く、タプンと僅かに身体を驚きで揺らすのが精一杯だった。
スライムの俺を発見した少年は夜の闇でもキラキラと輝いて見える瞳をしながら、俺を木の洞から躊躇無く引っ張り出した。
逃げ出す隙も無く、あっさり、実にあっさり少年の手に掴まれ、俺は否応無しに木の洞とは違う暗闇に晒された。イヤン!
「この子の色、すッごい透けてる水色……しかもコアが虹色だ! うわ~! うわぁ~!!」
「コポー! コポー!! (止めろ! 伸ばすなぁ!!)」
「元気良いなぁ……んと……よっと……ちょっとキツイかもしれないけど、僕の屋敷、直ぐだから!」
「!?(!?)」
―……キュポン……キュキュキュ……
…………そして今の俺は"瓶詰めスライム"だ。おーおーこの瓶はマーマレードの香りが仄かにするぜ。蓋裏ぺろぺろ。
俺は訳が分からないまま、簡単に人の手に落ちてしまった……。少しショックだ……す、少しな! 少し!
……それにしても明日の夜までに何とか逃げ出さないと……! 多分、明日の真夜中の0時頃がタイムリミットだ。ぺろぺろ……うむ、このマーマレード中々美味い。
嗚呼……真夜中の0時がタイムリミット……まるでシンデレラだなぁ……。でも俺はスライムだから、スラデレラだな!
魔法使いのカボチャの馬車……マーマレードの瓶に入れられて、この少年の城……屋敷に連れられて、明日の真夜中の0時頃までにトンズラ決めねばならんなんてなぁ! はー中々のハードスケジュールかもしれん! 蓋裏れろれろ!
……まぁ、冗談はここまで……うん。
―……コト……キュッポン!
「さ、屋敷に着いたよ。出てきて大丈夫だよ。それ!」
「コポ? (あ?)」
―……べちゃ!
俺は少年の声と共に瓶を逆さにされた。
半分まどろんでいた俺は何の準備も出来ぬままに、振られた事により開け放たれた瓶の口から机に無様に着地せざるをえなかった……。
そして未だ伸びきって収縮しない俺のスライムボディに何かが思いっ切りダイブしてきた!
「コポーコポポ! (わ~、この匂い、キングだよね!)」
「コポコポー! (お久し振りです、キングー!)」
「コポ!? コポー! コポーポ! ゴポォオー!! (はぁ!? あ、お前ら! あ、こら、のっかかるな! おっもー!!)」
俺とスライム語で話すこいつ等もやはりスライムなのだが、この二匹はかつてメルリーナに連れてこられたあのスライムではないか!!
俺等が「コポコポ」言い合っていると、スライム語を理解していないこの少年は、のんびりとした平和的な言葉を俺達に放ってきた。
「あれ? もう馴染んでるの? ……良かったぁ。でもほら、落ち着いて」
現れた少年はそう言うと、今度は俺達を一匹一匹摘み上げ、それぞれ置いて分離させた。
そして今度は自己紹介を始めた。
「そうそう、僕はエドワード。"エド"って呼んで……って、スライムは言えないよね? まぁ、認識して……。
スライムがそれなりに知能が有るの、僕は知っているからね? 認識位簡単だろ?」
「コッポォ……? (へぇ……?)」
俺等の事、そういう風に考えてる奴が居るんだな……。まぁ、バカにされたり見くびられるより気分良いけどな。
あんまりバカにすると"大人の対応"でお仕置きするかと考えちまうが、このエドには必要無さそうだ。
「…………今、この屋敷には僕一人だから楽にすると良いよ。
……両親は魔生物学者で今は学会で出かけているんだ。王都から離れているから、まだ数日は大丈夫。
だから、朝になると家政婦さんが来るけどね。別に一人で色々出来るのに……。まぁ、彼女は夕食を作ったら帰るから。
……それで、彼女は僕がこうしてスライムを飼っているのを知らないから、僕以外に姿を見せちゃダメだよ? 良いね?」
「コポ! (わーった!)」
「そうそう、君の仲間を紹介するね?
こっちの透明で白い星入り青コアは"スノウ"さん、スモーク色に黒いごま入り赤コアは"クロテン"さんって言うの。
さて……君は何て名前にしようかな?」
どうやら、この子供はスライムを集めて飼っている……らしい。そんな、虫じゃねぇんだから……。
んでも、俺にもどうやら名前をくれるみたいだな? 一時でも面白そうだから、ここは大人しくしてようかな?
「ん~……コアが虹色だから、"ニー"さんにしようか? ね、ニーさん?」
……ああ、そのネーミングセンス……軽く既視感が……。俺はこのエドと上手くやっていけそうだ……。何となく。
とりあえずエドの呼びかけに「コポ~」と返答しておく。まぁ、良いかと。うん。
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